「カブトムシは夜行性」という昆虫学の常識を覆した小学生、世界的な生態学専門誌に論文掲載

2021年5月7日 16:29

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 例えば昼下がりのある日、家の樹木にカブトムシが飛来したとしよう。多少昆虫に詳しい人なら、「夜行性のカブトムシがナゼ?」と疑問を持ったとしても、自分の力で解明する人は少ない。

 時事通信の報道などによると、埼玉県在住の柴田亮君(11)は、小学校4年生だった19年の夏、昼日中に自宅の庭木にカブトムシが飛来することを不思議に思って、生態の研究を始めた。その研究は庭木に集まるカブトムシに個体が識別できる目印を付けて、活動の状況や時間帯ごとの飛来数をまとめ、翌20年には観察対象が162匹を数えるというほど本格的なものだった。

 研究をアシストしたのは「自由研究を見て欲しい」という連絡を受けた、山口大学理学部講師の小島渉氏だ。昆虫少年として柴田君の先輩のように歩んでいた小島氏は、17年2月に「わたしのカブトムシ研究」という著書を出版している。その著書を愛読書にしていた柴田君が、19年にメールで小島氏に相談し、そのアドバイスによって個体識別方法を工夫するというステップアップにつながった。

 「柴田亮君が研究の主体を担い、自分はアドバイスと翻訳に関わった程度だが、完成度はかなり高い」と評価していた小島氏が、米国の生態学専門誌「Ecology」への橋渡しを務めたようだ。

 現役小学生が「カブトムシは夜行性」という、昆虫学の常識を覆したインパクトの大きさは、その研究成果が世界的な生態学の専門誌に掲載されたという事実で証明される。

 柴田君の家の庭でカブトムシが集まっていたのは、「シマトネリコ」という常緑樹だ。南国生まれで耐寒性に弱点はあるが、適度の日光と水分があれば小さな葉を茂らせて強い生命力を見せる。

 カブトムシを集めるポイントは、シマトネリコの樹液にあるとされる。水分をたくさん吸い上げるシマトネリコの樹皮は、カブトムシが自力で削れる程度に柔らかく、植生して10年前後の時間が経過すると脱皮(自然に剥がれる)するようだから、カブトムシにとっては他に例のない優良な”えさ場”ということだ。クヌギやコナラの樹液もカブトムシの好物だが、樹皮が硬くてカブトムシの力では樹液に辿り着けないという難点があるのとは対照的である。

 シマトネリコは、台湾やフィリッピン、沖縄などの南方にしかない樹木だったが、20年ほど前から本州でも植えられるようになった。小島氏によると、「日本のカブトムシにとって魅力的な新しい餌なので、本来の習性である夜行性が狂った可能性がある」とのことだ。柴田君の発見がキッカケになってどんな波及効果が出て来るのかと期待が膨らむ人も多いだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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