5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (47)

2021年3月2日 16:56

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 新型コロナウイルスは、世の中を殺伐とした空気へと急変させました。きっと、今日もどこかで、「なんとか警察」が出動していることでしょう。そんな小さな社会変容が気になり、アンガーマネージメントの本でも読んでみようという衝動に駆られました。今日は、その話をします。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (46)

 さて、ステイホームを推奨されてきた私たち生活者は、今も他者と密に会えない生活が続いています。常時マスク着用。入退室時のアルコール消毒。ソーシャルディスタンス。仕事はオンライン。

 ニューノーマル(新しい常態)という名のもと、私たちは消極的な行動・活動に抑え込まれています。やむを得ないこととはいえ、十分にコミュニケーションがとれない不満・ストレスを抱えながら過ごしている人も多く、そこから増幅した「怒りの感情をコントロールできない人が『なんとか警察』という正義を発動してしまっている」というのが、精神科医である著者の見立てです。

 たとえば、ウレタンマスクの人たちを非難する「不織布マスク警察」は、物事を「白」と「黒」の2つの視点でしか捉えられず、自分が絶対的に正しいと考える人たちだ、と著者は分析しています。この人たちは自分の気づかぬうちに小さなパニックを起こしていて、「気持ちに余裕のない思い込みの強い人」「融通が利かないマジメな硬い人」だと規定しています。

 さらに著者は、「こうすべきだ!と1つの答えを求める『完璧主義』が人を感情的にさせる。こうならいいな!と希望や願望といったグレーな中間色の『曖昧さ、いい加減さ』を持てば、感情的にならずに争いは起きない」と考察しています。

 ここまで読んで、私は1つの気づきがありました。

■(49)「優位願望」の発動がコミュニケーションの真意を歪ませる


 「なんとか警察」といった正義行動を起こす人たちの一部には、じつは、「他者に対して優位でありたい」という「別の願望」が潜んでいるのではないか、と感じたのです。

 本人たちは無意識にコロナ禍に乗じ、日頃の不満を「正義という大義名分の包装紙」にくるみ、都合のいい標的を見つけて、その似非正義を撃ち込んでいるのではないか。中には、そういう人もきっといるだろうと思ったわけです。

 そして、この「優位願望」はビジネスパーソンの心にも潜んでいます。有利に交渉事を進めなければならないプレゼンテーションの場では、強力な優位願望が発動するケースがあります。その場で相手を支配したいという威力的且つ職業病的感情が、社会的貢献度の高いサービスや納得度の高いロジックというプレゼン物を上回ってしまい、クライアントを無意識に制圧している場合があるのです(当然、強弱や相手の受け取り方次第ではありますが)。

 優位願望の発露が強すぎると、「本来は共闘すべき2者間」を歪な関係に変えてしまう。それは自爆を意味します。ただ、優位願望はビジネスという競争社会において「自分自身を鼓舞する感情」の1つ。実効力のある心の武器であると考えれば、完全否定できない感情であり、使い方次第だと私は捉えています。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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