土壇場で合意したブレグジットとその経緯 後編

2020年12月27日 08:03

印刷

 さて、EUからの離脱を決めたイギリスは、これまで自由だったヒト・モノ・カネの移動、そして、貿易、農業や漁業に関して、それぞれ個別に取り決めをする必要がある。

【前回は】土壇場で合意したブレグジットとその経緯 前編

 例えば、貿易に関しては、自国の経済を守るために関税をかけることになるが、イギリスはEUとのあらゆるモノに対する関税など、様々な取り決めを行わなくてはならないのだ。最後まで揉めた漁業権に関しても、イギリスの海域でEU加盟国が漁業を行ってよいかどうかという問題であった。

 キャメロン首相から政権を引き継いだメイ首相は、EUとの交渉を進めるが、そんな中で行われた解散総選挙で保守党が過半数を割れたことで、イギリス国内の取りまとめとEUとの交渉がますます混迷を極めることになる。

 その後を引き継いだジョンソン首相はなんとかイギリス国内を取りまとめ、EUとの交渉は「合意無き離脱」も辞さないという強硬な姿勢で臨んだが、何も取り決めが無いまま「合意無き離脱」に至ってしまう経済的なリスクについては、イギリスもEUも、そして世界各国も十分理解していた。

 イギリスとEUとの交渉期限は本来2020年12月13日であったが、ブレグジットの移行期間であった12月31日を前にようやく合意に達することができた。結果として、イギリスの製品はEU内では無関税、数量制限無しである一方、漁業権に関してはイギリスが妥協し、段階的な規制とすることで痛み分けとなった。

 不幸中の幸いではないが、コロナウイルスによって一時は体調が危ぶまれたジョンソン首相が、通商合意の記者会見で「何より重視しているのはパンデミックに打ち勝つことと経済の再建」と語ったことからも、コロナウイルス禍によってお互いが歩み寄りを見せたようにも感じられる。

 さて、通商合意が公となった後のポンドとイギリスの株価について確認しておきたい。クリスマスは日本を除くほとんどの市場が休場だったことも起因してか、ポンドも株価もニュースに反応したそぶりは無く、非常に落ち着いた値動きとなっている。

 しかしながら、イギリスとEUの通商合意はこれがゴールではない。今後は法の整備、そして各企業は1月1日からの変更に向けて準備を加速させなければいけない状況下で、コロナウイルス変異種のリスクが伴っている。

 年末はクリスマスラリーと呼ばれるリスクオンとなるケースが多いが、年始以降の株価、商いの薄い状態での為替の動きには十分に注意されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事