ハエトリソウが虫の接触を“記憶”する仕組みを解明 基礎生物学研究所

2020年10月11日 08:25

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捕食するハエトリソウ(画像:基礎生物学研究所の報道発表資料より)

捕食するハエトリソウ(画像:基礎生物学研究所の報道発表資料より)[写真拡大]

 基礎生物学研究所は6日、食虫植物ハエトリソウの記憶の仕組みを解明したと発表した。研究グループは、遺伝子工学的な手法を使って、細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を可視化することにより、ハエトリソウの記憶がカルシウムイオン濃度の段階的な上昇によるものであることを突き止めた。

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 なお、この研究成果に関する論文は5日付でNature Plants誌に掲載された。

■食虫植物ハエトリソウの記憶とは?

 ハエトリソウの葉の表面には、感覚毛と呼ばれる6本の細い毛が生えており、虫等が30秒以内に2回触れると、葉が0.3秒という速さで閉じ、その虫等は捕食される。

 つまり、ハエトリソウは虫等が感覚毛に触れたことを、30秒間、記憶していることになる。

 ハエトリソウには脳はおろか神経細胞すらない。なのになぜ、このような記憶をすることができるのだろうか?

 この点についてこれまで次のように考えられてきた。

 虫等が感覚毛に触れると、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇する。そして、虫等がもう一度、感覚毛に触れると、さらに細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、限界値を超えて細胞が収縮、葉が閉じる。

 しかし、細胞内のカルシウムイオン濃度は時間の経過とともに減少していく。そのため、30秒以上過ぎてからもう一度虫等が触れて、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇しても、限界値を超えることはできず、細胞は収縮せずに葉は閉じない、と考えられてきた。

 なお、ハエトリソウの葉は、カリウムイオンや塩素イオンの濃度の変動によって、曲がる側の細胞が収縮することによって閉じると考えられている。

 しかし、細胞内のカルシウムイオン濃度を測定する方法はなく、この考え方は30年以上にもわたって仮説に留まってきた。

■遺伝子工学的な手法で細胞内のカルシウムイオン濃度を測定

 研究グループは2年半にわたって実験を繰り返し、ついにハエトリソウの遺伝子に、カルシウムイオンと結合すると緑色に蛍光するタンパク質をつくる遺伝子を組み込むことに成功した。そして、この成功によって細胞内のカルシウムイオン濃度の変化が一目瞭然にモニターできるようになった。

 そこで研究グループが、実際に感覚毛を刺激し、細胞内のカルシウムイオン濃度の変化をモニターしたところ、上述した仮説が正しいことが確認されたというわけだ。

 研究グループでは今後、感覚毛への接触刺激によってカルシウムイオン濃度が上昇する仕組みや、カルシウムイオン濃度の上昇が細胞を収縮させ葉を閉じさせる仕組みの解明等、研究を進めていきたいとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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