実践トヨタ生産方式 (4) 生産技術は「重量」で様変わりする 「重量物を動かすな!」

2020年10月7日 14:21

印刷

 「生産方式」を考える時、「人が手で軽々持てる重量」と「クレーンやホークリフトなど運搬機械を必要とする重量」では、考え方を逆にしなければならない。その昔、新日鉄のシャーリング工場でコンピュータシステムのアドバイスを頼まれた時、工場を見学して5分もしないうちにそのアドバイスをしてしまった。もったいをつけて2、3カ月間の調査後に答えを出せば良かったのだが、まだ若い時で、素直で正直すぎた。

【前回は】実践トヨタ生産方式 (3) 「メカニズムとして理解」すれば、物販・サービス業でも生き残れる

 まず、【軽量】な「医療用防護ガウン」の製作過程で1日に500着しか出来なかった工程を、トヨタのスタッフが1日6,000着に引き上げていく過程を見てほしい。

 次は、巨大な【重量物】の実話だ。シャーリング工場では、ロール巻きにされた鉄板を決められた寸法に切断して、加工工場に向けて出荷する過程では、大量の鉄板が山積みされていた。出荷依頼の伝票が出たものから順に、在庫の中から引き当てて、現場で指定の鉄板を探し出しトレーラーに積み込む作業をしていた。1台のトレーラーに積み込む作業には、10トン天井走行クレーンを操作して数時間を要していた。

 そのほとんどの作業は、山積みされた鉄板を「はつり」、つまり、出荷に必要な鉄板が置かれた高さまで数十回も不要な鉄板を移動させて取り出すことに費やされていた。すると、いくつかある鉄板平済みの山を移動させているだけとなり、今しがた不要で移動させた鉄板が次の出荷に引き当てられて、探してみるとまた別の山の下の方に積まれていたりなど、効率が悪いことはだれもが認める状態だった。だが縦置きでは危険が多く平積みするしかなかった。

 さて、どうすればムダが省けるだろうか?巨大なクレーンが1日中うなりを上げて動いているのだ。特殊免許を持ったクレーン操縦手は給料がかなり高いため、ムダな作業は省きたかった。だが重く巨大な物は動かすだけで危険が伴い、山を低くしたければ巨大な面積を食うこととなる。

 答えは簡単だった。出荷伝票が出ている鉄板は、1カ月前以内のどの日に出荷しても良いのだった。だから、山のてっぺんにある鉄板から、出荷伝票に逆引き当てすれば良いのだった。それなら女性の事務員でも出来ることで、伝票をめくるぐらいは簡単だった。コンピュータで処理するほどのことでもなく、鉄板をはつる手間暇に比べると、巨大な費用が節約できることが分かったのだ。

 せっかく導入したコンピュータなので、逆引き当てをして、行先別に積み込むことにすれば良いだけだった。コンサルタント費用を大幅に少なくしてしまった、正直者だった。

 これが手で簡単に持てる家電製品の小さな部品だったら、ピッキングシステムを構築していたであろう。しかし、重量物は出来るだけ動かさないことを考えるべきだ。また、在庫を減らすジャストインタイムの生産工程が大変重要だった。これには、1,000倍ほどの資金効率の向上が掛かっていると見るべきだった。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事