三菱スペースジェット納入が6度目の延期 (4) サプライヤーに待ち続ける体力はあるのか?

2020年2月9日 17:15

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「スペースジェット」(画像: 三菱航空機の発表資料より)

「スペースジェット」(画像: 三菱航空機の発表資料より)[写真拡大]

 スペースジェットの生産は、当初2カ月に1機のペースで始まり2~3年の習熟期間を経て月産1機体制になるとこれまで伝えられてきた。型式証明が得られて、やっと生産が開始されても、当初2年間で合計12機、生産体制が変わらなければ当初から通算5年間で生産できるのは48機ということになる。

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 その後は5年毎に60機を生産するとしても、縮小した現在の受注をこなすだけで25年という歳月が必要になる。逆に言うと、生産体制を拡充させなくては収益事業としての展望は開けないことになる。

 ところが、量産体制を支えるはずのサプライヤーとの関係にも、微妙な温度差が表面化して来た。

 19年の秋、「6度目の納入延期へ向けた調整が行われている」と伝えられた時期に、動いたのは東レだ。鉄の10倍の強度を誇りながら、4分の1の軽量化を実現できる炭素繊維で世界シェア第1位の東レは、旅客機の姿勢安定効果のある尾翼向けの部品を、炭素繊維の複合材から部品に加工供給する契約を解消した。

 東レは名古屋の工場に加工のための設備を新設して試験機への供給を行っていたが、度重なる納入延期に直面して、三菱航空機へ部品を供給する設備や人員を確保しておくことに疑問を感じたようだ。部品製造の材料として炭素繊維の供給は継続されるようだが、今後は三菱重工業が自社加工せざるを得なくなった。

 スペースジェットの本格的な製造開始を待ち受けている、国内の航空機部品関連製造会社(所謂協力企業)も、度重なる納入延期に悩まされている。いざ本格的な製造が始まれば、多くの人材と設備が求められることは目に見えているが、ゴーサインが出る前にフライングして投資することのリスクは大きい。

 当初設定されていた初号機の納入は13年の後半だったから、その時期に合わせて投資をしていた協力企業があるとすれば、設備投資の負担に圧し潰されて業界から退場しているはずだ。

 かと言って、条件が整ったことを見極めてから投資を始めるようでは、工程全体のスムーズな進行を阻害してしまいかねない。特に早期育成が困難な人材に関しては、昨今の人材不足という世相にも配慮が必要だ。会社を存続させて、円滑に量産体制に参加することは簡単なことではない。

 米ボーイングの大型旅客機や国産の大型ロケット「H2A」の組み立てを請け負う、有力サプライヤーの東明工業(愛知県知多市)は、広島の同業(ヒューマン・リソース・ジャパン・ホールディングス:HRJH)を19年6月に買収した。

 ちょうど旧MRJがスペースジェットへと呼称変更を実施して、心機一転の兆しが感じられた時期だった。6度目の納入延期が、東明工業の事業プランにどの程度織り込まれていたのかは不明だが、旧HRJHの従業員は10年以上の平均勤続年数を数えるベテランが多く、60名の従業員が即戦力であることは間違いない。

 東明工業は直前の19年4月に、大阪府のアスタイルを買収してラーメン店「鱗(うろこ)」の経営に乗り出す話題を提供したばかりだった。年間売上150億円の中部有数のサプライヤーが、ラーメン店の経営に進出するからと言って、簡単に航空機事業が不振な時期の緩衝事業と目論んでいる訳ではないだろう。

 カナダに航空機事業の現地法人を立ち上げる際の周辺環境調査で、ラーメン店の人気が高いことに影響されたと言う。事業内容も人材の習熟技能も全く違うために、先延ばしになったスペースジェットの組み立て事業をカバーすることは困難だ。

 他の協力企業もそれぞれの企業努力を続けながら納入時期を待ち続けている。努力が通用しているうちは問題ないが、マラソンを走っていて見えていたゴールが、あっという間に遥か彼方に移されてしまう事態が再三続くと、気力も体力ももたないのは明白だ。

 三菱重工業には、上り坂でも下り坂でもブレない、ペースメーカーとしての役割も期待されている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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