iPS細胞から「ミニ多臓器」作製に成功 隣接しした器官を同時に 東京医科歯科大

2019年9月26日 17:29

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約60日間培養し形成されたミニ多臓器(左)と実体顕微鏡による観察像(右)(写真:東京医科歯科大学の発表資料より)

約60日間培養し形成されたミニ多臓器(左)と実体顕微鏡による観察像(右)(写真:東京医科歯科大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京医科歯科大学は26日、ヒトのiPS細胞から肝臓、胆管、膵臓といった隣接した臓器を同時発生させる技術を確立したと発表した。

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■従来のパラダイムを覆す多臓器の同時作製

 試験管のなかで、特定の臓器をヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から人為的に作製する試みが行われている。その一方で、肝臓に隣接する胆管の狭窄が肝臓を傷つけ、肝不全に陥る等が明らかになるなど、隣接した複数の臓器の精査が必要とされる。

 目的の臓器機能が十分に発揮されるためにはこれら複数の臓器が再現される必要があるものの、従来の単一臓器を作製するという枠組みでは作製が困難だった。

 東京医科歯科大学と米シンシナティ小児病院の研究者らから構成されるグループは、ヒトのiPS細胞から隣接した複数の臓器を同時に作製する技術の開発に取り組んだ。

 受精から約8週間後に誕生する前腸や中腸等の組織から、肝臓や胆管、膵臓が発生することが知られている。前腸と中腸を別々にヒトのiPS細胞から誘導し連結させたところ、肝臓、胆管、膵臓へと分化する元の細胞(前駆細胞)が誘導されることを研究グループは発見した。

■再生医療に期待されるiPS細胞

 iPS細胞は、皮膚などのヒトの体細胞を培養することで作られる、さまざまな臓器へと分化できる幹細胞だ。受精後1週間前後に形成された胚の一部から培養させて作られた胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、患者自身の皮膚や血液等の細胞から作製可能なため、拒絶反応が起こりにくい。

 そのため、再生医療や病気の原因を特定するといった応用が期待されている。iPS細胞の作製に世界で初めて成功した京都大学の山中伸弥教授は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 研究グループは今回、連続した臓器へと分化する細胞が出現するためには、分子による複雑な細胞間での相互作用が必要であることも発見した。

 今回は肝臓、胆管、膵臓という隣接した臓器の作製に成功したが、ヒトのiPS細胞から腎系統や肺系統、あるいは脳における中枢神経系統等の作製が期待されるという。これにより、臓器移植に向けた画期的な再生医療の実現に貢献するだろうと、研究グループは期待を寄せている。

 研究の詳細は、英科学誌Natureオンライン版にて25日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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