メラトニンが宇宙空間での骨量減少の予防薬に 金沢大の研究

2019年7月25日 07:14

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今回の研究成果の概要。(画像: 金沢大学の発表資料より)

今回の研究成果の概要。(画像: 金沢大学の発表資料より)[写真拡大]

 無重力状態の環境に長期間滞在すると、骨量が減少していくことはよく知られている。今後、月より遠い惑星を人類が探索していくことを考えた場合、骨量減少を防ぐ具体的な技術が考案されない限り、ミッションの実現が危うくなる。

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 過去のデータによれば、1カ月無重力環境に滞在すると1.5%程度の骨量減少が見られるという。火星への飛行士の派遣と滞在を想定した場合、片道に1年を要し、火星滞在期間は骨量が減少しないと仮定すると、往復に要する2年間で骨量は30%以上減少する計算になる。

 この数字はある意味絶望的な領域にあり、骨量減少を予防するとともに、治療するための薬の開発は人類にとって避けて通ることのできない重要な技術課題であった。

 7月22日の金沢大学の発表によれば、哺乳類の骨と同様のホルモン応答を示すキンギョのウロコを骨モデルとして用いた宇宙実験で、ウロコの骨芽細胞でメラトニンが作られることを確認したうえで、宇宙空間ではメラトニンの合成が低下することが明らかになった。

 その知見をベースに、ウロコにメラトニンを供給する宇宙実験を試みたところ、宇宙空間で引き起こされる骨吸収が抑制されることが確認された。この結果は、メラトニンが宇宙での長期滞在中の骨量減少を防ぐ予防薬として使用できる可能性を示唆するものとして期待されている。

 メラトニンは、夜間に分泌されるホルモンで、生体リズム(睡眠・覚醒リズム)調節に重要な役割を果たしていることが知られていたが、骨量減少を抑制する効果があることは、従来知られていなかった。

 研究成果は7月19日、国際科学雑誌『Journal of Pineal Research』に掲載された。今回の発見は、将来の火星探査ミッションに向けて希望の光をもたらすものだが、奇しくも掲載日と同じ日、トランプ大統領はホワイトハウスで、「我々は火星を目指す」と語っている。

 アポロ計画で1960年代に人類が月面到達を成し遂げられる可能性は、米国民とて半信半疑であったに違いない。だが、それを実現してしまった歴史的事実を私たちは知っている。火星ミッションも、今回の発見のような研究が積み重ねられ、その成功へと近づくことを願いたい。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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