ブラジャー戦争の行方は?

2019年6月10日 09:02

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「ワコール3D smart & try」での計測のイメージ。(画像: ワコールの発表資料より)

「ワコール3D smart & try」での計測のイメージ。(画像: ワコールの発表資料より)[写真拡大]

 女性用下着で国内首位のワコールホールディングス(ワコールHD)の前3月期は「0.8%増収、57.6%営業減益」となった。視界に詳しいアナリストは「ワコールHDの前期はブラジャーに象徴される女性用下着専門メーカーの現状と、我々は密かに“ブラジャーWAR”と称しているが女性下着市場の端境期を示している」と解説する。どういうことか。

【こちらも】ワコール、"約5秒"でサイズ計測&AIと最適なブラジャーを探す「3D smart & try」

 国内の女性用下着の両雄としては、これまで「ワコールVSトリンプ(インターナショナル・ジャパン)」のイメージが定着していた。トリンプは非上場ゆえに収益動向は正確には把握できないが、「かつての両雄の現状はワコールHDの前期に象徴される」(前出アナリスト)という。

 最大の要因は、市場への強力な新規企業の参入・侵攻である。いささかデータは古いが、東洋経済オンラインは2017年12月11日に英国調査会社:ユーロモニター・インターナショナルの調査結果として「16年の日本国内の女性下着市場シェア」をこう記している。

 「ワコール20.3%/ファーストリテイリング20.2%/しまむら12.6%/トリンプ7.7%/ワールド3.9%/他35.3%」。

 だがワコールHDはこうした群雄割拠状態に決別すべき施策に出た。今期の営業利益を前期比2.25倍余の110億円計画としている。前期の大幅減益の一因となった傘下のピーチ・ジョン(下着の通販・小売り)の「膿だし」、そして前期短信にも記されている「3DボディスキャナーやAIを活かした接客サービスの導入完了(発進)」がその背景となっている。

 5月30日に東京・表参道に、いわば「次世代型店舗」をオープンした。顧客は計測用下着を身に着け試着室=3Dボディスキャナーの前に立つ。計測時間約5秒。「バストのトップとアンダーの長さ・容量」「ウエスト・ヒップ」のサイズが計測される。

 その後、顧客はタブレットで自らのデータを確認し好みのデザインやシルエットを入力すると、AIが体形・希望にそった商品を薦めるという枠組み。実際の店舗そしてECでの購入が可能。ワコールHDでは「約7割が実際のサイズと異なるブラジャーを身に着けている」としている。果たして、トップメーカーとしての位相を高め、「WAR」に勝利する原動力になりうるのか。

 トリンプに今回のワコールHDの展開に関し見方を求めた。「非常に興味深く拝見している」とした上で、こんな内容の答えが返ってきた。「店頭のファッションアドバイザーが顧客一人一人のボディサイズを的確に測り、ぴったりなサイズかつ会話の中から把握したお好みや生活スタイルにフィットした商品を提案している(トリンプフィッテングと称している)。一方で全面リニューアルしたECサイトやモバイルアプリ導入によるタッチポイントの強化を活かし、オムニチャネル戦略に引き続き注力していく」。

 女性用下着業界の現状は見方を変えると、女性用インナー中心のメーカー製品によるEC専業:白鳩の現状にも窺うことができる。前2月期は6カ月決算ゆえ単純比較は避けるが、今2月期は、12カ月決算だった18年8月期に比べ営業利益計画はほぼ横ばいに甘んじている。

 ブラジャー戦争がこの夏を一層熱いものにしそうな様相である。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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