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魚はどうやって淡水に適応したのか 国立遺伝学研究所の研究
イトヨの淡水域への進出とDHA合成酵素Fads2遺伝子の増加。(画像:国立遺伝学研究所発表資料より)[写真拡大]
地球の生命は、はじめ海で誕生したと言われている。もっとも近年では異説もあるがそれは置いておき、とまれ生命の進化が海で始まったとすれば、生命が陸へと上がるのが「一大事業」であったのと同じく、魚が淡水に適応するのも結構な難事だったと考えられる。今回紹介する研究は、魚が淡水すなわち川や湖に進出するに当たって鍵となった遺伝子が発見された、というものだ。
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ぱっと見には同じ水でも、海水域と淡水域とでは大きく異なる。単に塩分濃度が異なるだけの話ではなく、それに伴う浸透圧、含まれる栄養分など、相違は様々である。よって淡水に棲む魚と海水に棲む魚とでも様々な相違がある。
今回、国立遺伝学研究所などの国際共同研究チームが着目したのは、トゲウオの仲間だ。トゲウオ科にイトヨという魚がいるのだが、これは淡水魚である。ところがその近縁種であるニホンイトヨは、まったく淡水域には進出せず、海で暮らす。そこでこの2種を飼育して調べたところ、その違いは、「DHA(ドコサヘキサエン酸)」を作り出す能力にあるということがわかった。
DHAは稚魚の成長には欠かせない必須脂肪酸である。海水域においては、プランクトンが豊富にDHAを生産しているため、それを食べればDHAが補給できる。だが淡水域は基本的にDHAが乏しいため、イトヨは体内でDHAを合成する能力を持っている。
実験として両種をDHAを含まない餌で飼育したところ、ニホンイトヨの稚魚はイトヨよりも高い死亡率を示した。その違いの理由は、DHA合成酵素Fads2遺伝子にある。ニホンイトヨはこの遺伝子を19番染色体に1つ持っているだけだが、イトヨは複数の染色体にこれを持っていたのである。
本研究の詳細は、Scienceに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)
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