タイガーとJAXA、大気圏突入に耐える魔法瓶を開発 宇宙物資回収へ

2017年10月23日 20:47

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試験用に作られたカプセル。(写真: JAXAの発表資料より)

試験用に作られたカプセル。(写真: JAXAの発表資料より)[写真拡大]

 タイガー魔法瓶とJAXAは、宇宙実験サンプル格納用の真空二重断熱容器を開発している。JAXAは、国際宇宙ステーション(ISS)で行われる宇宙実験を通して生成する貴重なサンプル等を回収するために、地上に帰還する小型回収カプセルを開発・評価中である。来年度に打ち上げ予定の「こうのとり(HTV)」7号機で実証する。

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 小型回収カプセルは、大気圏に突入する衝撃に耐え、かつ貴重なサンプルを冷蔵状態に保つ高い断熱性が求められる。タイガー魔法瓶に託されたのは、この衝撃耐性と断熱性を併せ持つ真空二重断熱容器の開発だ。

●小型回収カプセルの目的

 小型回収カプセルは、ISSからの実験サンプルの回収と宇宙探査キー技術の獲得を目的とする。実験サンプル回収の背景には、生命科学関連での国際競争がある。回収頻度や回収量を増やす狙いだ。

 宇宙探査のキー技術とは、大気圏突入技術の獲得であり、高精度な誘導制御技術と軽量熱防護技術である。この背景は、有人宇宙活動に向けた帰還であり、この分野でも世界と伍して競争する環境整備の一環だ。

●小型回収カプセルの回収手順

 ・HTVにISS補給物に加えてカプセルを搭載。HTVを打ち上げる。
 ・物資補給後に、カプセルへの実験サンプル搭載とカプセルのHTV搭載。
 ・HTVのISSからの分離・軌道離脱。
 ・HTVは大気圏突入前にカプセルを放出。HTVは大気圏突入で燃え尽きる。
 ・カプセルが大気圏突入、誘導制御やパラシュート開傘、着水。
 ・船でのカプセル回収、着水点近傍の島より、飛行機で筑波宇宙センターへ運搬。

●小型回収カプセルの構成

 カプセルは先ず、再突入の過酷な空力加熱環境により最大2,000℃に耐える材料からなる。そして、カプセル内には、飛行制御機構、パラシュート、実験サンプルを格納する真空二重断熱容器を搭載する。

 飛行制御機構は、カプセルに搭載された自律的な誘導制御システムにより機体の姿勢を変えながら揚力飛行を行う仕組みである。

 パラシュートは、高度10キロメートルの目標空域へ到達したところで最終降下に使用する。秒速10メートル程度まで降下速度を下げて、安全な着水を助ける。

 真空二重断熱容器は、実験サンプル格納の役目を担う。この真空二重断熱容器の開発をタイガーが担当した。求められた技術は、断熱性能と強度だ。先ず、電源なしで、冷蔵が必要な実験サンプルを既定の温度範囲で維持する高い断熱性能である。次に、カプセルが海上に着水する際の強い衝撃に耐える高い強度である。

●小型回収カプセル(タイガー、真空二重断熱容器)のテクノロジー

 4日間も無電源で温度を保つ技術は、外用器(真空断熱容器)と内用器(真空断熱容器)からなるのがミソのようだ。加えて、真空断熱層の重ね合わせ部を長く取ることにより、内部への入熱量を大幅に低減。JAXAとタイガーで特許出願済という。

 衝突耐性は、厚さを吟味したステンレスを用いているようだ。

 タイガーが宇宙関連の製品を扱うのは初めてである。この断熱性能は、生体移植での臓器運搬など厳しい条件が求められる容器への応用が期待されるのであろう。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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