【投資の真髄:トヨタ生産方式(6)】世界最先端IoTまで見越したコマツの工程結合

2017年9月13日 11:42

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 工程結合のメリットは多大であり、バケット製造工程を見直していくと、作業面積は1/10になるのではと考えられた。そして材料供給の新日鉄のシャーリング工場と連結すると、コスト半減の可能性も見えてきたのだった。しかし、具体的計画を示しても、当時では理解できる人は限られていた。中間在庫をなくすことで巨大な資金が必要がなくなることを理解できない経営者も未だに多い。経済の専門家には理解できず、資金効率にうるさいと言われるファンドなどにも、いまだに理解できていない人が多い。それは「結果だけでなく、そこに至る経緯を大切にする」ことをしなければ見えてこないからだ。

【前回は】【投資の真髄:トヨタ生産方式(5)】コマツ製作所方式との差

■バケットの工程結合によるメリットは多大

 バケットの組み立て溶接工程の見直しを行っていたところ、基本的な考え方を変えなければならないことに気付いた。それは作業場所の概念だった。通常、製缶・溶接工場でも作業者の作業場所は基本的に決まっており、そこを半製品が流れ、部品を組み付けていく方法だった。そのためバケット製造工場では、天井走行クレーンが絶え間なく走り続けている状況となり、建物も頑丈なつくりとなっていた。

 工程は、やはり部品製造、組み立て、溶接と順番になっており、工程間には大量の在庫があった。底板を曲げるベンダーの工程には、大きいものでは、大きさゆえ工程間の在庫置き場に保管できず、さりとて別に運ぶにも大きすぎて無駄が多くなり、仕方なくロットを分けて小ロットで作業することもあった。

 まず、組み立てる工程と溶接工程の間で工数の差が大きく仕掛在庫の山となる。物がモノだけに場所を取り、先入、先出も思うに任せず、クレーンの稼働率が高くなってしまう。見方を変えて観察すると、殆ど在庫を取回すためだけにクレーンが動いているような状況で、これまで気付かなかった自分が恥ずかしくなる思いがして「何とかせねば」と考えさせられた。

 そこで基本的流れを、「仕掛製品を動かすのではなく、逆に人間が作業場所を動く」こととした。これは三菱自動車のハブ生産工場で勉強させてもらった、トランスファーマシンの場合、作業者は製品の流れと逆に動いていくので、その考え方でバケット生産も考えてみることにしたのだった。

 組み立てには専用の治具を置き、そのまま溶接が出来るようにして、作業者のほうが交代してモノを動かす必要がないようにした。人間は歩けば数歩で済むが、モノを動かすとなると天井走行クレーンが、動かねばならない。時間がかかり、危険が増す。何も良いことがないのに気付いた。

 作業者は初めは「自分の作業場所には、自分なりの段取りと道具が置いてある」と反対した。しかし数日たつと自分たちで自分の道具を移動式のワゴンを作って、自分と同時に動けるようにしていた。QCサークルの効果であり、大きな成果だった。作業者が自ら作業全体を見直して最適化するのが、当たり前となっていたのだった。

 作業改善が進み、感想を聞いてみると「以前よりずっと楽になった!」と言っていた。指示されたわけではなく自分で考えて改善していったので、変化に抵抗する気持ちもあまりなく、むしろ成果を誇らしく話すのだった。手柄は全て作業者に与えるのが基本だ。これを横取りするような上司がいると、カイゼンは進まない。

 こうして製品ごとに順次改善していくと、カイゼンが済んだ製品の時は、クレーンの動きは1/10程度、作業面積も1/10ぐらいに減ってきて、工場の中は静かで、がらんどうの時も出てきていた。全ての製品が、この方式にできれば、そのメリットは計り知れないことを実感するようになってきていた。

 われながら、「もしかしたら大発明なのかもしれない」などと内心ほくそ笑むこともあった。現在、IoTを含めて世界の最先端を行くコマツは、この考え方を推し進めてきたのだった。

【投資の真髄:トヨタ生産方式(7)】新日鉄シャーリング工場との工程結合 につづく(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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