JAXA、見えない乱気流を検知し航空機事故6割減に ボーイングと実証実験

2017年8月7日 21:13

印刷

飛行試験用のFedEx社の大型貨物機。(写真: JAXA/ボーイング社の発表資料より)

飛行試験用のFedEx社の大型貨物機。(写真: JAXA/ボーイング社の発表資料より)[写真拡大]

 2日、JAXAとボーイングは、晴天乱気流による事故半減を目指したシステム「SafeAvio」を開発し、ボーイング社のエコデモンストレーター・プログラムの一環として、2018年に大型貨物機に搭載して飛行試験を行うと共同発表した。

【こちらも】着陸時の安全向上を図るALWINをJAXAと気象庁が開発

 SafeAvioは、ライダー技術を用いた装置で、航空機搭載型としては世界トップの乱気流検知距離(17.5キロメートル)、軽さ(83.7キログラム)である。乗客1人分程度の重量で、約70秒前に乱気流を検知して、乗客にシートベルト着用を促し、負傷者を6割以上減らすことが可能となるという。

 エコデモンストレーター・プログラムは、航空機の安全飛行と環境性能の向上を実現するために、様々なテクノロジーを実際の航空機に搭載して、試験を行う。2012年の初飛行試験以来、60種類以上のテクノロジーを対象としてきたという。なお、SafeAvioに対する意義や価値を高め、標準化プロセスを加速することが期待できる。

●2018年のエコデモンストレーターの概要

 FedEx社の大型貨物機(ボーイング777型機)を使い、JAXAの乱気流検知装置を含む30種類以上のテクノロジーを飛行試験する。飛行試験は6週間を予定しており、安全飛行の向上、より効率的な飛行ルートの確保、そして燃費の改善をめざすという。

●航空機事故と対策

 国土交通白書(2010年)によれば、我が国の過去10年の航空事故のうち、50%超が乱気流を原因とするという。現在の旅客機は事前の気象予報や機体に搭載した気象レーダーを使用し、雨雲を伴った乱気流をある程度予測するが、晴天乱気流を事前に察知することはできない。そのため、晴天乱気流に遭遇した旅客機は、突然の激しい揺れに見舞われ、時として重大な事故を引き起こす。事前に乱気流を察知できれば、乱気流を迂回したり、シートベルト着用サインを出したりとさまざまな対応が可能になる。

 晴天乱気流の検知は、ライダーと呼ばれるレーザーを用いて、大気中の微粒子を計測する。レーザーで微粒子を計測する技術自体は、古くからあるが、どれも近距離での観測を目的とするという。

●晴天乱気流の検知(JAXA、SafeAvio)テクノロジー

 JAXAは、2010年からのボーイングとの共同研究により、航空機搭載用のドップラーライダーを開発した。航空機からレーザー光を放射して、大気中に浮遊するエアロゾル(微細な水滴やチリなど)からの散乱光を受信し、ドップラー効果による光の波長変化を調べる。エアロゾル粒子は気流とともに移動するため、エアロゾル粒子が激しい動きをしていれば、そこに乱気流が発生していると判断できるという。

 エアロゾル粒子の直径は1ナノメートルから100ミクロンメートル程度、しかも旅客機が巡航する高度10キロメートルでは非常に希薄で、1立方センチメートルあたり1個あるかないかという程度という困難さである。

 エアロゾル粒子からの信号をとらえるには、発振するレーザー光を強力にする必要があった。また、背景ノイズから信号を分離・検知する信号処理技術を活用したという。(記事:小池豊・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事