地域鉄道からみる地方創生 逆開発という選択肢

2017年7月9日 19:51

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記事提供元:エコノミックニュース

千葉県内陸部を走るローカル線の小湊鉄道では、15年に運行を始めた観光列車「里山トロッコ」が多くの観光客を呼び、16年は乗降客数が24年ぶりの増加に転じた。(画像はイメージです)

千葉県内陸部を走るローカル線の小湊鉄道では、15年に運行を始めた観光列車「里山トロッコ」が多くの観光客を呼び、16年は乗降客数が24年ぶりの増加に転じた。(画像はイメージです)[写真拡大]

 急速に進む少子高齢化・都市一極集中化に伴い地方から都市部への人工の流出が止まらない。そんな中、政府は地域活性化の取り組みとして2014年より継続的に「地方創生」に注力している。第2次安倍改造内閣発足と同日の閣議決定により「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、地方の活性化を目指す方法論として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。各地方自治体がワークライフバランスを保ち、日本の社会全体を活気あるものにしていくことを目指す取り組みだ。

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 千葉県内陸部を走るローカル線(全長約39.1キロメートル)小湊鉄道では、15年に運行を始めた観光列車「里山トロッコ」が多くの観光客を呼び、16年は乗降客数が24年ぶりの増加に転じた。少子高齢化・出生率の低下など深刻な人口問題を抱える千葉県市原市における交流体験ビジネスの成功事例として注目され、多くのメディアにも紹介されていた。『世界に一番近い「SATOYAMA」プロジェクト』として政府間・地域間の連携による観光地のブランド化と、その受け皿となる広域観光産業づくりを進める為の事業として開始され、地域の多彩な魅力を再発見し効果的かつ継続的に発信するためのプロモーションを多角的に展開している。

 その中で“逆開発”という考え方がにわかに注目を浴びている。小湊鉄道の石川社長の発言によるものだが、従来進められてきた利便性ばかりを追求した画一的な“開発”とは一線を画した試みで、人の手で造った町並みを一度撤去し、自然の景観に戻す事で土地の持つ潜在力を活かす取り組みだ。自然回帰とは異なり、あくまでも人工的な自然活用で維持・管理が必要となる為“逆開発”と呼称している。本事業では、養老渓谷駅前リノベーションとして、養老渓谷駅前の土地約2000平方メートルを、アスファルトから土に戻していき4?5年をかけて植林していく。10年後には木々が成長し、森林が駅を覆うことになる予定だ。一度造ったものをわざわざ少なくない資金を投入して壊す、という一見合理性に欠けた決断に批判的意見も多かったが、地域の持つ潜在力を継続的に活用していく為に、長期的戦略としてあえてリスクを取った事が、新たな付加価値を生み集客につながっている。

 “開発”とは元々、禅における“かいほつ”と読む仏教語で「人と人が交錯することで、互いに自分の潜在力に気づく」という意味を持つ。無いものを足す、という考え方から、そこに元来あるものを活かし遮るものを間引いてく、という姿勢へと向かった石川社長は、その先に地方活性化・自立化の鍵があると考えている。

 

 小湊鉄道は、平日は従来通り地元住民を運ぶ日常の移動手段として活用されながら、週末には多くの観光客をもてなし、人と人を交錯させる地域の顔となる。里山や廃校を利用した現代アートの祭典「いちはらアート×ミックス」も近年人気を博しており、里山の魅力を伝える案内人として今後も小湊鉄道は地域間を繋いでいく。今後はより事業の自立性を高める取り組みを強化していく予定だ。地方の持つ潜在力を活かす手法として“逆開発”が地方創生にどう影響していくか期待したい。(編集担当:久保田雄城)

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