ヒトES、iPS細胞から1週間で神経細胞を分化 慶大らが成功

2017年2月17日 09:38

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記事提供元:エコノミックニュース

 現在、ヒト多能性幹細胞であるES細胞、iPS細胞からヒトの体を構成するさまざまな細胞を培養皿の上で分化させ、それを再生医療での細胞移植の材料にすることや、病気や個人に合う薬のスクリーニングに活用することが試みられている。従来は、ヒトES、iPS細胞から胚様体と呼ばれる細胞塊を作り、培養条件を順次変えていくことで、徐々に細胞を分化させていく方法が主流だった。このような方法は、手間やコストがかかるだけでなく、場合によっては1カ月以上という長期の複雑な培養が必要で、薬のスクリーニングや細胞移植に必要な量と、均質かつ高品質に分化した細胞を得ることが難しく、再生医療分野の進展を阻む一因となっていた。

 慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(システム医学教室)の洪実教授、生理学教室の柚崎通介教授の研究グループは、ヒト多能性幹細胞であるES細胞、iPS細胞から、1週間で90%以上という高い効率で神経細胞を分化させる「細胞分化カクテル」の開発に成功した。このカクテルを、細胞に数回添加するという簡単な操作で、密な神経突起ネットワーク、電気刺激への反応性、運動神経特異的なマーカー発現を有する機能的な神経細胞が創出されたという。

 研究グループは、単層培養されているヒトES細胞、ヒトiPS細胞に数回添加するという簡単な操作だけで、1週間で効率良く神経細胞の分化を誘導できる合成mRNAのカクテルの創出に成功した。この合成mRNAカクテルには、神経細胞の遺伝子発現調節に関わる5つの転写因子が試験管内で合成されたmRNAの形で入っている。培養1週間目には、培養皿上の90%以上の細胞が神経突起の密なネットワークを形成し、また、電気刺激に反応できる機能的な神経細胞となっていた。また、運動神経に特異的なマーカーを発現しており、運動神経への分化が強く示唆された。

 今回の方法の特徴は、従来のDNAとして遺伝子導入を行う方法と違い、遺伝子発現調節に関わる複数の転写因子を合成mRNAカクテルの形で細胞内に導入すること。細胞のゲノムDNAに傷をつけないことに加え、人為的な細胞操作の跡を残さないという点で、より安全な細胞分化方法として将来の治療への展開が期待できるという。

 また、量産可能で、安全性も高い合成mRNAカクテルは、細胞移植に必要な大量の神経細胞の創出も可能。さらに、操作が極めて簡便であるため、製薬業界で汎用されているロボットを活用した薬の大規模スクリーニングでの活用も期待される。

 具体的には、神経細胞の異常でおこるさまざまな病気、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの運動神経病の患者から作られたiPS細胞を、培養皿の上で神経細胞に分化させることで、薬の開発、病態解明に役立つことが推測される。また、簡単に高品質の神経細胞を作ることができるので、神経生物学の研究にも役立つことが予想されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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