日立、細胞ごとの遺伝子解析を100個同時に実現する小型チップ開発

2016年11月26日 17:36

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記事提供元:エコノミックニュース

 医学の進歩により、がんなどの生体組織を構成する個々の細胞は、それぞれ異なった特徴を有することが明らかになっている。そこで、病気のメカニズムの解明には、細胞ごとにmRNAの量を計測する必要があると考えられるようになってきた。しかし、多数の細胞のmRNAをまとめて計測する従来の方法では、計測結果が平均化されるため、がん組織の個々の細胞による違いを区別することができなかった。そのため、個々の細胞を解析する単一細胞解析技術が注目されているが、一つ一つの細胞を手作業で解析するため、その精度が研究者の熟練度に依存していたほか、装置が大きく作業において大量の試薬が必要であることなどによる解析コストの増大が課題となっていた。

 日立製作所<6501>は、生体組織を構成する細胞中のDNAから作り出される多様で微量な遺伝子(mRNA)を、細胞単位で効率よく高精度に解析することができる1mm角の小型チップを開発した。このチップは、最大100個の細胞に対して同時に、1細胞中に15分子しか存在しない微量な種類のmRNAでも高精度に抽出・解析することが可能。生体組織としての特徴を正確に把握するためには数百から数千の細胞解析が必要だが、今回、同チップを複数配置し試作したデバイスを用いて実証実験を行い、約2,000個の細胞の遺伝子を同時かつ高精度に解析できることを確認した。

 日立は、小型で高精度な解析と並列性能を両立する単一細胞解析デバイスの実現に向け、個々の細胞中のmRNAを効率よく抽出・解析するためのチップの開発に取り組み、2016年3月には、1細胞ごとにmRNAを抽出する微小反応槽を100個集積した1mm角のチップ(Vertical Flow Array Chips)を開発した。このチップを平面内に複数配置した解析デバイスでは、反応槽の上方から試薬を一括供給することで、自動的に多数の細胞中のmRNAを抽出することを可能としたほか、必要試薬量を従来の20分の1程度*3に抑えることで、解析コストの低減を実現した。しかし、反応槽が小さく微粒子の充填が困難であったため、mRNAの抽出効率が低く詳細かつ正確な解析に十分な精度が得られないという課題があった。

 今回日立は、この課題を解決するために、mRNAを抽出するための微粒子を微小反応槽に多数充填し、その表面積を大幅に増やすことで、抽出数を従来の約10倍に向上した。このチップを複数配置し試作した小型解析デバイスを用いた遺伝子解析実験の結果、約2,000個の細胞の遺伝子を同時に解析できる高い並列性能と、病気のメカニズム解明に貢献できると考えられている1細胞中に存在する15分子という極微量のmRNAを抽出できる高精度な解析を両立できることを実証した。日立は、1万個の細胞に対して同時に遺伝子の解析が可能なデバイスも試作しており、生体組織としての特徴を正確に把握するために有効とされる数千の細胞の同時解析が可能だとしている。

 今後、この技術を、がん組織中の細胞やがん発生初期の細胞などの病気のモデル細胞の解析に適用することで、病気のメカニズム解明や治療法の開発などでの技術の有用性を検証していく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)

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