アルツハイマーは脳の糖尿病である、東北大が実証

2016年11月7日 09:16

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記事提供元:エコノミックニュース

 日本の認知症患者は462万人(2013年6月(厚生労働省))と推定され、認知症予備軍である軽度認知障害の高齢者も400万人存在する。現在、アルツハイマー病治療薬はドネペジル(アリセプト)に代表される3種類のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体阻害薬であるメマンチン(メマリー)が承認されているが、根本治療薬はあない。メマンチンは2011年に承認された最新の治療薬であり、脳に局在するNMDA受容体を阻害し、グルタミン酸による興奮性神経伝達の過剰興奮を抑え、シナプス伝達ノイズを除去すると考えられているという。

 今回、東北大学大学院薬学研究科の森口茂樹講師、福永浩司教授らの研究グループはアルツハイマー病治療薬であるメマンチンが脳インスリンシグナルを改善することを発見した。

 具体的には、メマンチンが脳内インスリンシグナルに関わるATP感受性カリウムチャネル(Kir6.1/Kir6.2 チャネル)を阻害することを発見したという。ATP感受性カリウムチャネルは糖尿病治療薬であるスルホニル尿素系薬剤(グリベンクラミドなど)が作用するカリウムチャネル。この研究では、アルツハイマー病治療薬メマンンチンが脳のインスリンシグナルを改善することを示している。研究成果はアルツハイマー病の「脳糖尿病仮説」を実証した初めての成果であり、脳の Kir6.2 チャネルが新しいアルツハイマー病治療薬の創薬ターゲットであることを示したとしている。

 Kir6.2 チャネルはシナ プス後部、Kir6.1チャネルは神経細胞体に主に発現している。Kir6.2欠損マウスは認知機能障害を示し、アルツハイマー病モデルマウス(APP23)ではKir6.2の蛋白質発現が減少している。メマンチンはATP 感受性カリウムチャネルを阻害することで、興奮性神経伝達を促進して、シナプス後部でのCa2+濃度を上昇し、福永らが発見した記憶分子 Ca2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼ II (CaMKII) を活性化して、認知・記憶を改善した。さらに、ATP 感受性カリウムチャネルがアルツハイマー病の新しい創薬標的であること明らかにした。

 同研究グループの発見したメマンチンによるKir6.1/6.2チャネル阻害効果は、今後のアルツハイマー病の新規治療薬の開発に大きな可能性を与えるという。研究はアルツハイマー病が脳内インスリンシグナルの破綻(脳の糖尿病)であるという仮説を実証する第一歩になる。実際、メマンチンは糖尿病モデルマウスの血糖値を低下させ、認知障害も改善します。この発見により「脳糖尿病仮説」を背景としたアルツハイマー病の新規治療薬の開発が期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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