【工業用ゴム業界の2016年4~6月期決算】四半期業績も通期見通しもまちまちだが、株主還元を重視する姿勢はほぼ共通

2016年8月14日 15:41

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記事提供元:エコノミックニュース

 8月9日、工業用ゴム製品大手7社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。

 ゴム業界ではゴムベルト、ゴムホース、防振ゴム、パッキン類などを「工業用ゴム製品」と分類している。日本の工業用ゴムの技術は世界でも最高水準で、輸出や海外現地生産も盛んに行われている。一般産業資材向けの需要もあるが、自動車業界からの受注生産が大半を占めるため、自動車メーカーの生産・販売動向に左右されやすい。

 2016年4~6月期の業績は、売上高が増収だったのは西川ゴム工業だけで、各社とも為替の円高による海外売上の円ベースでの目減りという、輸出産業に共通の悩みが業績に反映していた。最大手の住友理工は海外事業の事業構造改革費用が前年同期比で大きく減ったため最終2ケタ増益だったが、日本ゼオン、バンドー化学、鬼怒川ゴム工業、フコク、三ツ星ベルトは最終2ケタ減益。西川ゴム工業は営業利益、経常利益は大幅増益と好調だったが、最終損益は反トラスト法違反でアメリカ司法省に支払った罰金を特別損失に計上して最終赤字に転落した。

 2017年3月期の業績見通しは、増収・2ケタ最終増益のフコク、増収増益だがほぼ横ばいのバンドー化学、減収・2ケタ最終増益の住友理工、鬼怒川ゴム工業、減収・最終増益の日本ゼオン、減収減益の三ツ星ベルト、減収・最終赤字の西川ゴム工業と、各社まちまち。しかし、円高で業績が苦しくても年間予想配当を無配にしたのは今期中に上場廃止になる予定の鬼怒川ゴム工業だけで、株主還元を重視する姿勢、配当利回りの良さではほぼ共通している。

 ■自動車向けは海外で堅調でも、円ベースの収益が目減り

 2016年4~6月期の実績は、住友理工<5191>の売上高は前年同期比3.6%減、営業利益2.1%増、税引前利益0.7%減、四半期利益33.8%増、最終四半期利益40.7%増で、減収、最終2ケタ増益だった。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は21.1%となっている。

 海外での販売は数量は伸びても為替の円高により円ベースの売上高が目減りした。最終利益の大幅増益は、海外事業の事業構造改革費用が減少したことが寄与している。

 自動車用品は、国内では軽を中心に販売台数が低迷したことが影響し、海外では北米、ヨーロッパ、中国、アジアでは販売が好調だったが、為替の円高により円ベースの売上が減少した。そのため外部顧客への売上高は4.4%減。営業利益は前期に実施した子会社の構造改革効果が出て9.6%増と伸びている。

 一般産業用品は、産業資材関連製品は前年同期の実績を上回った。住宅部門の地震対策用制震ダンパーの需要が国内で伸び、鉄道車両用防振ゴムも堅調。プリンター向け機能部品など事務機器向け精密部品分野は前年同期の実績を下回った。中国で需要が低迷。一般産業用品全体の外部顧客への売上高は1.2%増、営業利益は付加価値の高い精密部品の需要低迷が影響して37.6%減だった。

 日本ゼオン<4205>は売上高7.8%減、営業利益10.1%減、経常利益32.4%減、四半期純利益31.1%減の減収、2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は20.3%。価格競争が激しい粘着テープの原料は生産設備の稼働をメンテナンスで停止した影響で販売量が減少。原油安の影響で、海外の油田採掘設備で使用される合成ゴムの販売も不振だった。円高で為替差損を15億円計上している。

 バンドー化学<5195>は売上高9.6%減、営業利益12.9%増、経常利益24.7%減、四半期純利益17.8%減の減収、最終2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は21.8%。補機駆動用伝動ベルト、スクーター用変速ベルトなどの自動車部品事業は8.7%の減収、16.5%の増益。産業機械用、農業機械用の伝動ベルト、運搬ベルトなどの産業資材事業は12.7%の減収、9.4%の増益。クリーニングブレード、高機能ローラー、機能フイルム製品などの高機能エラストマー製品事業は6.6%の減収、88.4%の大幅減益。ロボット関連デバイスなどその他事業は8.1%の減収、29.4%の減益だった。

 西川ゴム工業<5161>は売上高0.5%増、営業利益93.6%増、経常利益76.6%増、四半期純損益は119億円の赤字。セグメント別では、自動車用部品は主要取引先のマツダの国内生産が熊本地震の影響を受けたものの0.3%の増収、98.1%の増益、一般産業資材は5.1%の増収、23.6%の増益で、営業損益ベースでは好調だった。最終赤字の要因は独占禁止法関連損失引当金繰入額の特別損失計上。アメリカの子会社で生産している自動車用シール部品で販売カルテルを結んでいた疑いで反トラスト法(独占禁止法)違反に問われ、7月に罰金1億3000万ドル(約134億円)の支払いで司法省との司法取引に合意したと発表した。

 鬼怒川ゴム工業<5196>は売上高2.2%減、営業利益4.9%減、経常利益33.4%減、四半期純利益41.9%減の減収、最終2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は13.7%と悪い。国内は、主要取引先の日産の生産は前年同期並みだったが海外向け輸出部品の減少などで売上高は5.2%減、営業利益は生産性向上で5.1%増。アメリカ・メキシコは日産の自動車生産の増加で売上高7.0%増、営業損益は約3000万円の赤字。アジアは、中国で日産の自動車生産は増加したものの為替の影響で売上高2.4%減、営業利益も為替の影響が出て14.1%減だった。

 フコク<5185>は売上高4.3%減、営業利益28.8%減、経常利益50.0%減、四半期純利益47.7%減の減収、2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は18.8%。受注は建機向けなどが伸び悩んでも自動車向けは堅調だったが、為替の円高で円ベースの売上が目減りした。損益面では本格稼働したメキシコ工場などでの減価償却費の全体的な増加、タイのホース事業のコスト増加、為替差損などがあいまって大幅減益になった。

 三ツ星ベルト<5192>は売上高3.3%減、営業利益10.4%増、経常利益22.5%減、四半期純利益21.6%減の減収、最終2ケタ減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は25.6%。セグメント別では、国内ベルト事業は熊本地震の影響が自動車用ベルトに出て売上高2.5%減、営業利益7.2%減。海外ベルト事業は現地通貨ベースでは増収でも為替の円高で円ベースでは目減りし売上高7.0%減、営業利益6.9%増。建設資材事業は売上高9.5%増、営業利益91.0%増。その他の事業は売上高6.8%増、営業利益0.4%減だった。

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