鱗食魚の左右の「利き」が成長とともに強化されることを発見―名大・小田洋一氏ら

2016年2月11日 23:52

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鱗食魚の口部形態における左右二型。左あごが大きい個体が「左利き」、右あごが大きい個体が「右利き」と定義される。左右の唇端を結ぶ線は、体軸に対して傾いている。下のイラストは口部形態の利きと獲物に対する襲撃方向の関係を表している。(名古屋大学の発表資料より)

鱗食魚の口部形態における左右二型。左あごが大きい個体が「左利き」、右あごが大きい個体が「右利き」と定義される。左右の唇端を結ぶ線は、体軸に対して傾いている。下のイラストは口部形態の利きと獲物に対する襲撃方向の関係を表している。(名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]

 名古屋大学の小田洋一教授、富山大学の竹内勇一助教を中心とした共同研究チームは、左右性(「右利き」「左利き」)のモデルとして知られる鱗食性シクリッド科魚類を用いて、捕食行動の「利き」の獲得過程を調べ、体の成長とともに利きが強化されることを明らかにした。

 行動の左右性、「利き」は、数多くの動物で見られる現象であるが、研究が最も進んでいるヒトの利き手ですら、獲得メカニズムの全容解明はなされていない。

 今回の研究では、タンガニイカ湖で採集した幼魚から制御までの様々な発育段階の鱗食魚(体長22-115mm)を用いて、捕食行動の利きと口部形態の左右差の発達過程について解析を行った。

 その結果、鱗食開始期の幼魚(体長45mm前後)の胃からは、左右両側からの鱗が出てきたことから獲物の両方向から襲っていたこと、そして成長が進むと、次第に口部形態の利きと合致した体側の鱗ばかりが得られるようになることがわかった。

 すなわち、右顎が発達した個体は右から襲撃し、左顎が発達した個体は左から襲撃するようになっていたことを意味している。また、下顎骨の左右差の計測から、鱗食前のプランクトン食期の幼魚(体長 22-45mm)においても、口部形態の左右差は明瞭で(左右差は約2%)、その左右差は体の成長とともに大きくなり、成魚では幼魚期の約4倍以上に達する(左右差は10%以上)ことが明らかになった。

 「利き」に関しては、ヒトの利き手も幼少期は曖昧だが、年齢を減ると利き手の度合いが強くなるといった報告がある。また、利き手の方が上腕骨が大きくて重いことが知られている。マウスでも同様の知見がある。様々な動物の「利き」の仕組みには共通性があると考えられることから、今回、鱗食魚で得られた知見は、「利き」がどのように脳内で制御されているのかという謎を統合的に理解する手掛かりになることが期待されるという。

 一方、利きが強化される要因としては、捕食の学習・経験によって左右性が顕著になった可能性と、単に遺伝的なプログラムによって構築される可能性があり、研究チームは、結論を導くためにはさらに実験が必要としている。

 なお、この内容は「PLoS ONE」に掲載された。論文タイトルは、「Acquisition of Lateralized Predation Behavior Associated with Development of Mouth Asymmetry in a Lake Tanganyika Scale-Eating Cichlid Fish」。

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