ホヤは脊椎・無脊椎動物、両方の感覚神経を持っていることを明らかに―京大・佐藤ゆたか氏ら

2015年11月6日 16:11

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感覚神経の進化を示すモデル図。脊椎動物は、感覚神経をつくる遺伝子回路を再利用しながらも、新しい作動スイッチにあたる機構を獲得して新しい場所で感覚神経を作るように進化したと考えられる。(京都大学の発表資料より)

感覚神経の進化を示すモデル図。脊椎動物は、感覚神経をつくる遺伝子回路を再利用しながらも、新しい作動スイッチにあたる機構を獲得して新しい場所で感覚神経を作るように進化したと考えられる。(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 京都大学の佐藤ゆたか准教授らの研究グループは、脊椎動物にもっとも近縁な動物であるホヤが、脊椎動物型の感覚神経と無脊椎動物型の感覚神経の両方を持っていることを突き止めた。

 感覚神経は外界の様々な刺激を感じ取る重要な細胞であり、脊椎動物では感覚神経はプラコードおよび神経堤細胞と呼ばれる細胞群から作られる。一方、無脊椎動物はプラコードや神経堤細胞を持っていないものの、感覚神経は備えている。

 今回の研究では、脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物であるホヤの背側と腹側の感覚神経を作り出す遺伝子回路を詳細に調べた。その結果、Msxと呼ばれる遺伝子が機能すれば感覚神経を作る遺伝子回路が動き出し、背側の感覚神経も腹側の感覚神経も作り出されることがわかった。つまり、感覚神経を作る遺伝子回路は背側でも腹側でも共通だった。

 一方、背側でMsxを発現させる仕組みは既に明らかになっていたが、今回、腹側では異なるメカニズムでMsxが発現していることが明らかになった。つまり、同じ遺伝子回路を起動するスイッチの役割をする機構が背側と腹側で異なっていた。

 これらの結果から、ホヤと脊椎動物の共通の祖先である原始脊索動物は、神経板の境界領域で感覚神経を作り出す回路の作動スイッチを新たに獲得したことになる。この領域の細胞が原始的な神経堤細胞の一部として、移動能力を獲得するなどして、現在の脊椎動物の神経堤細胞へと進化し、多様な感覚神経系が作られていったことを示している。また、ホヤとは異なり、脊椎動物では進化の過程で無脊椎動物型の感覚神経を失ったと考えられる。

 研究メンバーは「脊椎動物がどのようにして誕生したのか、という問題は、進化の研究の大きな謎とされてきました。ホヤは脊椎動物に最も近縁の動物群に属し、脊椎動物の起源の研究に迫るための有用な実験動物です」とコメントしている。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「Genetic pathways for differentiation of the peripheral nervous system in ascidians」。

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