貯蔵された記憶を可視化・消去する技術を開発―東大・林、河西氏ら

2015年9月19日 22:10

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 東京大学の林朗子特任講師、河西春郎教授らの研究グループは、マウスの神経細胞で、学習・記憶が貯蔵されている場所を可視化・操作する新技術を開発した。この技術を応用することで、脳機能や疾患のメカニズム解明につながることが期待されるという。

 大脳皮質の樹状突起「スパイン」は、学習・記憶に応じてその形態・サイズが劇的に変化し、大きなスパインはシナプス結合が強いことが知られている。つまり、スパインが新しく形成されたり、またその大きさが変わることにより、どの脳神経回路にどの程度の電気信号が流れるかが大きく左右される。

 今回の研究では、長期増強を示したスパインだけを標識・操作するために、5種類の遺伝子を組み合わせた人工遺伝子である記憶プローブを設計し、生体内で記憶プローブ(蛋白質)を作り出した。その際、PaRac1蛋白質と呼ばれる青色光を吸収すると蛋白質の立体構造が変化し、発現しているスパインを収縮させ光感受性蛋白質を使用した。

 そして、大脳皮質を広範囲に光照射するための2本の光ファイバーを両側の一次運動野表面に留置したのち、ロータロッドという運動学習課題をマウスに与えたところ、学習後に記憶プローブで標識されていたスパインは、光照射により退縮し、これとは対象的に記憶プローブで標識されないスパインは、光照射で影響を受けないことが確認された。

 また、両側の一次運動野に記憶プローブを遺伝子導入した群、対照実験として記憶プローブを導入しないマウス群を用意し、どちらの群もロータロッド運動学習後に青色光の照射を行ったところ、コントロール群では光照射による影響は受けなかったのに対して、記憶プローブを導入したマウス群は獲得した運動学習記憶に障害を受けることが明らかになった。学習によって長期増強したスパインを特異的に退縮させると、その記憶が障害されることを示したのは世界初という。

 また、各々の神経細胞の記憶に関わるスパインの数を数えたところ、記憶スパインは大脳皮質の比較的少数の細胞に密に形成されていることがわかり、特異的な記憶を担う固有の大規模な神経回路の存在が示唆された。

 今回の研究によって、生きたままの脳内で学習・記憶の基盤を担うスパインを直接観察すること、多数のスパインを広範囲にわたって操作する新技術が確立された。この技術を用いることで学習・記憶の細胞基盤やその正常機能の破綻である認知症や心的外傷後ストレス障害のメカニズム解明に貢献することが期待される。

 なお、この内容は「Nature」に掲載された。論文タイトルは、「Labelling and optical erasure of synaptic memory traces in the motor cortex」。

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