【インタビュー】アパレル企業のウェブ責任者が見る「2018年。3年後のウェブ戦略」―EC台頭でより強まるジュンの組織力【後編】

2015年5月26日 11:29

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記事提供元:アパレルウェブ


「LE JUN」コクーンシティ店

■店舗だからこそできることはまだまだある


―クリック&コレクト(ネットで購入し、店舗で受け取る)という言葉も広がっていますね。最近ではセブン&アイHDが、“世界髄一の店舗数を強みとしたオムニチャネルを追求する”として、店頭受け取りできる商品をどんどん拡大しています。アマゾンや楽天など大型の無店舗型小売業が大半のニーズに応えられるようになった今、有店舗型の小売業だからこそできることは何か。この課題にチャレンジしている企業も見られます。そのなかで店舗受け取りは、来店促進のための大きなきっかけにもなりますよね。

 拠点数で見ればコンビニエンスストアに勝てるものはないでしょう。ですが、そこにサービスを付加するとなると、私たちならではの専門性が求められます。商品の着こなしや使い方、ケアといったことです。店舗を持つメリットをどう生かすかは、つまり専門性をどう生かすかということだと思いますし、そこで初めて店舗の価値が生まれると思っています。同時に、こうした“価値”と、店舗受け取りのために来店してくださるような“アクション”とをどうつなげられるか。ここは私たちがしっかりと取り組まなければならないところです。

―これまで私たちは、ネットショップでどれだけ店舗と同じ体験ができるかということに注力し、その技術革新に時間を割いてきましたが、“ネットと店舗の双方で同じ体験ができる”というオムニチャネル的な観点からみれば、リアル店舗にも変化が求められている時なのだと感じます。
2013年にはスマホアプリの「WEAR」を使って店頭商品のデータをスキャンできる機能が登場したり(現在この機能は終了)、海外ではショールーミング店舗を開くブランドも増えてきました。最近は、店舗導線などを分析する“店舗アナリティクス”なる言葉も使われ始めています。正解が見えないなか、探りながらではありますが、各企業がそれぞれ店舗のIT改革を進めている時期でもありますね。

 さまざまなソリューションが存在していますよね。ハンガーにかかった商品を手にとると、その商品情報がディスプレイに表示されたり、あるいはビーコン端末でお客様の位置情報を検知し、来店を促したり。店舗でできることは増えてきましたが、ソリューションとして一気通貫できていないという課題が残っていると思います。

 今はあらゆるデータベースを取得できます。来店頻度はもちろん、購入に至らなくても来店してくださったお客様は、ブランドに興味を持ってくださっているのだと分析できます。また、ネットの店舗を訪れた方が、どういう経緯やタイミングでリアル店舗に来てくださるのかなど、これまで計測できなかったことが数値化できます。データベースマーケティングは店舗に生かせる要素が多々ありますが、あとはそれをどう使いこなし、シナリオ化していくかですね。

 極端にいえば、ネットで売れるものを、店舗で売る必要はないかもしれません。ウェブにはない店舗の価値は、そのブランドの世界観や商品の背景などを感じていただけることにあると思います。それらを知っていただいた上でネットに来ていただくと、ファン化もより進むでしょう。

 ウェブコンテンツの使い方は、お店に行く前の情報ツールだったり、カタログだったり、あるいはお店を出た後のリマインド的機能だったり、色々あるでしょう。一方、店舗での接客に生かせるウェブの情報は、在庫情報以外にあまりないのではないでしょうか。お客様に伝えるべきことは、店舗そのものにもっともっとあるんじゃないかと思っています。

―来店のきっかけになるような店舗の情報をウェブでしっかりと伝え、実際に来店していただく。店舗ではブランドの世界観を感じていただき、ブランドを好きになっていただく。そこがうまく循環し、ネットでも購入いただけるようになっていくわけですね。

 そうでなければ、ネットだけで商売をされているブランドさんはもっと増えているはずだと思います。ネットだけでブランディングができているということになりますから。でもそれは決して簡単なことではありません。そこに店舗の需要性を強く感じます。

■ECのその先にあるもの


―EC運営といえば、写真撮影やデザイン、情報入力といった業務がありますが、すべて内製化されているのでしょうか?または、アウトソーシングが中心でしょうか?

 ほぼ内製化してやっています。外部委託していた時期もありますが、現在は自社で撮影場所を構え、カメラマンやスタイリストさん、ライターさんとともに撮影や掲載を進めています。

 作業効率については、クリエイティブ系の業務に効果がはっきり出ていますね。これ違うな?と思って委託先と修正を繰り返していると、作業工程が増え、時間もかかります。内製化することによってそのスピード感が変わってきたなと実感しています。

―コンテンツの中にある特集企画についても、先ほどお聞きした1週間のサイクルの中で、それぞれの事業部にアイディアを持ち帰って決めていくのでしょうか。

 特集や企画などのコンテンツについては、計画を立てながらもう少し時間をかけていく必要があるので、異なるサイクルですね。1カ月ごとの枠の中で決めていく特集もあリますし、販促ですと短期間で行うものもあります。ライターさんやデザイナーさんとの製作期間もありますので、内容に応じて変えていきます。

 「ジャドール ジュン オンライン」内で、「ジャドール マガジン(J'aDoRe MAGAZINE)」というウェブマガジンを運営しています。アパレルの場合、よくご購入いただく方でも1シーズン4、5回くらいでしょうか。あまり利用されない方だと1シーズン1回という方もいらっしゃいます。そうなると、次のシーズンまでにブランドのことをどれだけ覚えていてくださるかが重要になってきます。様々な分野で活躍される方々のライフスタイルを紹介したり、お手持ちのアイテムとの組み合わせなどを、マガジンという形で提案しています。コンテンツを作ることは、確かに労力もかかりますが、お客様の反応を見ていると、やはり重要なことなんだと実感します。


ジャドール マガジン

―ブランド力のある企業であれば、ECのインフラをきちんと作れば、ある程度の実績は見込めるというか、EC化率5〜10%というのはそこまで難しい数字ではないのだと思います。ただそこから先は、コンテンツをいかに配信できるかという創造力が求められてくるのではないかと思います。ジュンでは飲食を含めて幅広い事業展開をしていらっしゃるので、強いコンテンツ力を発揮できるのではないでしょうか。

 同じような要素のクラスター同士であれば結びつけるのはスムーズなのですが、私たちは、価格帯やターゲットの異なるブランドを多く抱えていますし、ゴルフ場の「ロペクラブ」といったまったく異なる事業形態もあります。それらが共鳴し合い、違うターゲット層のお客様が同じコンテンツ内で様々なブランドを楽しんでもらえるようなコンテンツが生まれれば、広がりも生まれると考えています。

―EC事業部として、数値的な部分を含めた今後の目標はありますか?

 今は、卸販売を含め、EC売り上げ比率20%を1つの指標としています。現在ユーザー数も増えていますし、スマートフォンなどの利用デバイスにもどんどん進化が起きていますので、先が読めない部分もあります。今年度は13%くらいで推移していますが、急激なスピードをもって達成する可能性もありますし、現在のシステム改革も大きな起爆剤になるでしょう。ただ20%を達成したその先は、別のステージというか、今とはまったく違う要素が必要になってくると思います。

3年後、2018年のウェブ戦略はどうなっていると考えていらっしゃいますか?

 私たちが今まさにプランニングしているところですが、店舗とECとの行き来がどれだけしやすくなっているか。これをどれだけ具現化できるかということに尽きると思っています。

▼中嶋賢治(なかじま・けんじ)氏プロフィール
2006年 大手アパレルでの経験後 ㈱ジュン入社
2008年 経営企画部
2010年 アダムエロペ事業部執行役員として新業態の立ち上げ等に多数関わる
2012年 ロペ事業部執行役員としてロペブランドの再構築を担当
2013年 ロペ事業部と同時にEC事業部の責任者を兼務
2014年 EC事業部専任となり自社サイト「J'adore」の拡大を進める
2015年 EC事業部とLE JUNの執行役員兼務 事業にオムにチャネル化を推進

■ジュン公式サイト

 http://www.jun.co.jp/index.html

■「ジャドール ジュン オンライン(J'aDoRe JUN ONLINE)」

 http://www.jadore-jun.jp/

(アパレルウェブ編集部)

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