筑波大、細胞の老化に関する新しい知見を発見―若返りに応用できる可能性も

2015年5月26日 15:39

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加齢に伴う呼吸欠損の原因に関する従来の仮説と、今回の研究で提案している新しい仮説の概要を示す図。(筑波大学の発表資料より)

加齢に伴う呼吸欠損の原因に関する従来の仮説と、今回の研究で提案している新しい仮説の概要を示す図。(筑波大学の発表資料より)[写真拡大]

 筑波大学の林純一特命教授の研究グループは、ヒトの加齢に伴うミトコンドリア呼吸活性低下の原因は、従来言われていた突然変異ではなく、核遺伝子のゲノム修飾であることを明らかにした。

 ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー工場として知られる細胞小器官で、酸素呼吸により生命活動のエネルギー源となるATPを合成している。ミトコンドリアには核にある遺伝情報(核DNA)とは別に、独自の遺伝情報(mtDNA)が存在しており、これに突然変異が生じると、ミトコンドリアの呼吸活性が低下して十分なATP合成ができなくなり、ミトコンドリア病という特殊な疾患を発症する。また、定説とされる「老化ミトコンドリア原因説」では、老化現象にもmtDNA突然変異が関与している可能性が指摘されていた。

 今回の研究では、胎児から12歳の若年グループと80歳から97歳の老年グループで、それぞれ繊維芽細胞を使用して、ヒトの老化の仕組みを調べた。その結果、ミトコンドリアの呼吸活性は定説通り老年グループが有意に低下しているが、mtDNA突然変異の蓄積率は両者で有意差がないことを明らかにした。

 また、それぞれのグループの繊維芽細胞をiPS細胞にすることで初期化し、繊維芽細胞に再分化させてから呼吸活性を比較したところ、老化グループの呼吸活性は若年グループのレベルにまで回復していることが分かった。つまり、加齢に伴う呼吸欠損の原因は、突然変異のような不可逆的な変化ではなく、ゲノム修飾のような可逆的な変化にあると考えられる。

 さらに、遺伝子の網羅的発現解析によって、原因遺伝子の1つとして、ミトコンドリア内のアミノ酸代謝(グリシン代謝)に関係するGCAT(glycine C-acetyltransferase)遺伝子を特定した。このGCAT遺伝子は、加齢とともに発現量が低下するが、初期化後の再分化により発現量の回復が観察された。

 そこで培養液中にグリシンを添加したところ、加齢に伴って低下していた呼吸活性がかなり回復した。この結果は加齢に伴う呼吸欠損の原因がゲノム修飾であるという新仮説を支持するだけでなく、継続的なグリシン摂取が老化の緩和戦略として有効である可能性も示唆している。

 今回の結果から、原理的には、私たちの体を構成する細胞を初期化し再分化することができれば、その細胞の若返りも可能と考えられる。ただ、今回の仮説はあくまで繊維芽細胞の呼吸活性低下の仕組みに関するものであり、繊維芽細胞以外の組織における呼吸活性低下や老化現象そのものにもこの新仮説があてはまるかどうかについては今後の研究が必要とされる。

 なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Epigenetic regulation of the nuclear-coded GCAT and SHMT2 genes confers human age-associated mitochondrial respiration defects」(核ゲノムにあるGCAT遺伝子とSHMT2遺伝子の可逆的調節がヒトの老化に伴うミトコンドリア呼吸活性低下の原因である)。

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