産総研、生きたまま牛の霜降り状態を計測できる装置を開発

2015年5月20日 10:15

印刷

産総研が開発したプロトタイプによる肉用牛の霜降り状態の計測イメージ(産総研の発表資料より)

産総研が開発したプロトタイプによる肉用牛の霜降り状態の計測イメージ(産総研の発表資料より)[写真拡大]

  • 黒毛和牛の僧帽筋。画像寸法は、約4 cm x 10 cm。筋肉(赤)と脂肪(白)の交雑が確認できる(産総研の発表資料より)

 産業技術総合研究所の中島善人上級主任研究員は、肉用牛の僧帽筋の脂肪交雑(霜降り)の程度を、牛が生きたままの状態で計測できる核磁気共鳴装置のプロトタイプを開発した。

 肉用牛では、脂肪交雑(霜降り)の程度が、肉質等級、ひいては取引価格を決める重要な指標の一つになっている。現状では、超音波画像診断装置で脂肪交雑をスキャンする手法が主流であるが、脂肪と筋肉の混合比率を定量的に計測することは原理的に困難であり、新しい原理による脂肪交雑の計測法が望まれていた。

 今回の研究では、産総研が資源開発・地盤工学に応用するために開発してきた、片側開放型という特殊な形状の磁石を採用したプロトン核磁気共鳴スキャナーを応用して、肉用牛の脂肪交雑計測装置を開発した。ただし、牛のロース芯は体表から10cm以上も深いところにあり、片側開放型のプロトン核磁気共鳴スキャナーで計測するのは技術的に困難であるため、より体表に近い筋肉である僧帽筋を対象に水分子と油分子をプロトン緩和時間を測定した。

 その結果、脂肪をほとんど含まない赤身試料(モモ肉)の緩和時間は短く(61ms)赤身(筋肉)をほとんど含まない脂肪塊の試料の緩和時間は長かった(141ms)。霜降り肉である僧帽筋試料は、脂肪と赤身の混合物なので、測定結果から脂肪交雑を計算したところ、脂肪57wt%、筋肉39wt%であることが分かった。なお、別の計測手法との推定誤差は±約10wt%であり、1試料の計測に要する時間は約10秒と短時間である。

 今後は、脂肪交雑が重要視されているブランド豚やマグロ(トロ)などへの適用、さらに、高級食材だけではなく、水と油を含む大きな物体をその場で非破壊計測できる特性を生かして、老朽化したインフラのメンテナンス(トンネル壁をスキャンして水をふくむ空洞を検出)や油汚染土壌試料の計測(石油を含む部位の検出)など土木方面への応用も行うことが期待されている。

 なお、この内容は「Applied Magnetic Resonance」に掲載された。

関連記事