東北大、フラーレン超電導体の転移温度を最大にする方法を明らかに

2015年4月20日 13:19

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フラーレンC60超伝導体の、3次元的な結晶構造。フラーレン分子は60個の炭素原子からなり、切頭正二十面体(サッカーボール)型の分子である。これが規則正しく3次元的に配列した結晶構造を有する(東北大学などの発表資料より)

フラーレンC60超伝導体の、3次元的な結晶構造。フラーレン分子は60個の炭素原子からなり、切頭正二十面体(サッカーボール)型の分子である。これが規則正しく3次元的に配列した結晶構造を有する(東北大学などの発表資料より)[写真拡大]

  • C60分子間距離の変化によるフラーレンの電子状態の変化を示す図。右:分子が歪んだ状態で固定されており、電子は分子から分子へ飛び移れず、電気的に絶縁の状態(モット-ヤーン-テラー絶縁体)。中:電子が分子間を移動し、それに合わせて分子が時間的に歪んだ状態(ヤーン-テラー金属)。真ん中の軌道にある電子が移動できる。この状態で超伝導転移温度が最高になる。左:分子は歪んでおらず、電子は分子から分子へと自由に伝わっていく状態(通常の金属)。3つの軌道は同じ準位にあるため、3つの電子は均等に配置されている。右の状態で分子間距離が最も長く、分子間距離が小さくなると中→左と変化していく。(東北大学などの発表資料より)
  • フラーレン固体の電子相図。C60分子1個当たりの占める体積(横軸、C60分子間距離)と温度(縦軸)平面上でのフラーレン固体(左上挿入図)の電子状態。右端の一番分子間距離の大きい状態が、分子のひずんだモット-ヤーン-テラー絶縁体状態。分子間距離が小さくなると、分子のひずんだヤーン-テラー金属状態となり、超伝導が現れ、超伝導転移温度(Tc)は最大値をとる。さらに分子間距離が小さくなると、分子ひずみのない通常の金属状態となり、超伝導転移温度も低下していく。(東北大学などの発表資料より)

 東北大学のコスマス・プラシデス教授らによる研究グループは、フラーレン超伝導体の超伝導転移温度が最大になる条件を明らかにした。

 同研究グループは、これまでの研究で、炭素原子60個からなる分子「フラーレン」を構成単位とする物質が、分子性物質の中で最高の転移温度38K(ケルビン)を示すことを発見している。ただし、超伝導転移温度や、磁性絶縁体から超伝導への転換などの顕著な物性はすべて高圧下のみで観測されるため、詳細な電子状態の解明は未解決のまま残されていた。

 今回の研究では、Cs3-xRbxC60という組成の化合物の合成に初めて成功し、磁性絶縁体から超伝導への転換を常圧の状態で実現することに成功した。その結果、38Kという高温の転移温度を持つ超伝導体では、分子の特性と固体の特性が均衡しているため、通常の金属状態とは異なり、ヤーン-テラー金属と呼ばれる特殊な状態を形成していることが明らかになった。

 今回の研究成果は、新しい分子性超伝導の開発を後押しすると期待されている。

 なお、この内容は4月17日付の米科学雑誌「Science Advances」に掲載された。論文タイトルは、「Optimized unconventional superconductivity in a molecular Jahn-Teller metal」。

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