【コラム 山口利昭】常勤監査役の責任限定契約締結は監査の実効性を上げるか?

2015年2月27日 16:48

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【2月27日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 監査等委員会設置会社への移行を表明した上場会社が順調に増えているようでして、20日現在で(私の知る限り)合計9社に上っています。サントリー食品インターナショナルさんのように、サントリーホールディングスや寿不動産という非上場親会社が存在することから、「うちの会社は決して親会社のほうを向いて事業をしておりません!一般株主のために事業をしていることを、監査等委員会設置会社に移行することで表明いたします!」と明確なストーリーを打ち出すところも今後出てくるのではないでしょうか。

 さて、監査等委員会設置会社やコーポレートガバナンス・コードをとりまとめた東証上場規則案などが話題になっていますが、2月20日、JASDAQの共同ピーアールさんが常勤監査役の責任限定契約締結を可能とする定款変更議案を3月総会に上程することを表明しています。社外監査役さんが責任限定契約を締結できるところは多くの会社と同様だったと思いますが、このたびの会社法改正に合わせて、被業務執行役員については社内の常勤監査役さんでも責任限定契約が締結できるように同社の定款を変更されるそうです(もちろん株主さんの賛同が条件ですが)。

 リリースを読むと、「取締役及び監査役が期待される役割を十分に発揮できるよう」責任限定契約を締結したい、とのこと。たとえば会長のような被業務執行取締役さんや、常勤監査役さん等が対象となるようです。常勤監査役さんの責任限定契約を認める定款変更議案はおそらく第1号ではないでしょうか。なお、このたびの改正会社法、改正会社法施行規則では、当該企業が監査役監査をどの程度重視しているか、という点について試金石となりそうな開示項目もありますので、今後の上場会社のリリースには要注意です。

 この常勤監査役さんに認められる責任限定契約ですが、多くの監査役の方々が支持されているかどうかは明確ではないと思います。いま、私は日本監査役協会の講演で全国を回っている最中でして、この「責任限定契約」について意見をお聞きすることもあるのですが、この共同ピーアールさんのリリースにあるように「監査役に本来的に認められた権限を行使するためには効果的。監査環境の整備につながる」というご意見もあれば、ぎゃくに「監査役が責任ある立場からモノを言うからこそ社長が意見を真摯に聞き入れてくれる。責任が限定されているということであれば、言いっぱなしと思われてしまう」というご意見もあります。

 なるほど、監査役さんの中でも意見が分かれているのだなぁと意外に思いました。ただ社外役員の責任限定契約とは異なり、会長さんや常勤監査役さんの責任限定契約締結を会社側が提案することについては、経営執行部が「監査」や「執行と監督の分離」の重要性について関心を抱いていることの証左でもあります。したがって対外的にストーリーを示す、という意味ではかなりインパクトはあるのではないでしょうか。監査等委員会設置会社への移行・・・という「監督重視」のインパクトはないかもしれませんが、取締役会の責務をどう考えているのか、経営陣のメッセージとしての意味がうかがわれますので、今後同様の定款変更議案がどれくらい出てくるのか、こちらも注目しておきたいと思います(実際に、このような責任限定契約を締結された監査役さんにとって、どの程度、契約の存在が監査業務への姿勢に影響を及ぼすのか、またお聞きしてみたいところです)。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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