アパレル企業のWeb責任者が見る「2018年。3年後のWeb戦略」【後半】

2014年12月18日 17:15

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記事提供元:アパレルウェブ


アーバンリサーチ事業本部WEB事業部シニアマネージャー 坂本満広氏

オンラインストア。スタッフが活躍する場所。

―人材面のO2O問題に悩んでいる企業はとても多くいらっしゃいますよね。御社は店舗ブログを早くから始めており、販売スタッフさんがWebを積極的に活用しているように思います。特別意識して取り組んでいることはありますか?

 んー、特にないですね(笑)。使用する端末スペックを統一化するぐらいでしょうか。細かく指示をするよりかは、先ほどの話の通り、ブランドの世界感を意識してもらった方が大事かなと思います。

 URオンラインストアなどで、もともとWebモデルをやっているスタッフもいるのですが、そういう子たちは、Webの使い方が上手ですよね。「WEAR」で人気のあるKBF南船場店のスタッフや、アーバンリサーチ神南店のスタッフなんかは特に。ファンも多くて、街中で声を掛けられるみたいですよ。

― 一時のカリスマスタッフのようなマスメディアからの押しつけではなく、ボトムアップで育つカリスマスタッフって今っぽいですよね。

 店舗ブログは社長の一声で全店導入が決まったんですよ。最初は何をアップしたらいいか、店舗スタッフ側も悩んでいることが多かったですが、徐々にコーディネート記事が増えてきた。お客様の声を調べてみると、スタッフスタイリングが見たいという声も聞こえ、コーディネート記事がどんどん増えていきました。

 ここまできたら、コーディネートだけ抜き取って何かしようという話になり、専務が「じゃ、アプリを作ろう」ということになりました。これが「UR STYLE」のはじまりですね。

 URオンラインストアで今も配信している「STYLEBOOK」というコンテンツは、URオンラインストアの立ち上げから1年後ぐらいからやっていますが、最初からPV(ページビュー)が大量に集まりましたので、洋服を着こなすシーンが見たいというニーズがあることは感じていました。

以前、竹村専務から「Webをもっとスタッフが活躍できる場所にする」という話を伺ったことがありますが、店舗ブログやWebモデルはまさにそれが活かされる場所ですね。


URBAN RESEARCH DOORS STYLE BOOK

テクノロジー×企画力。アパレル企業の枠を飛び越える。

―「UR STYLE」はスタイリングやURオンラインストアとの連携だけではなく、スキャン機能やBLE(Bluetooth Low Energy)機能(※)を実装しています。どのような形で発展していくのでしょうか。

 スキャン機能を使えば、商品バーコード、カタログからコーディネート写真やスペック情報、さらに動画コンテンツが見ることができるようになりました。さらに発展していけば、TVや雑誌で気に入った洋服を見つけたら、ピっとスキャンして、すぐに買えるようになったらいいなと思っています。

 利用者も増えて、店舗では会員カードの代わりにどんどんダウンロードされており、「UR STYL」というアプリを起点に我々のメディアを増やしていき、URオンラインストアの集客に繋げていきたいと思っています。

 例えば、「ウェアラブルクロージング」だったり、「教えて!びい子」もその一環ですし、今の時代的に必要なキュレーションメディア的な要素も考えています。

―「ウェアラブルクロージング」や「教えて、びい子!」のような施策は、アパレル企業の枠を飛び越えていますよね。

 2つとも東京のプレスが担当しています。プレスはもともと雑誌や貸し出しが多かったのですが、最近ではテクノロジーを使った施策も手がけるようにもなりました。ちょっと前には渋谷のスクランブルの交差点のビジョンに、1年間スパンでURオンラインストアのプロモーションを流しました。Webチームとプレスの連携が強いのも、うちの特徴かもしれませんね。

―雑誌だけがアパレル企業のブランディングってわけじゃないですよね。今、仕掛けている新しい試みが、種となり数年後に大きな花を咲かせそうで、とても楽しみですね。


(左)「ウェアラブルクロージング」。端末に設置されたカメラが体形を正確に読み取り、体のラインに合わせ、ワンピースやスカートなどの洋服を試着することができる。(右)店舗に設置した際の様子。

2018年―3年後のWeb戦略。

―URオンラインストアの今後の取り組みについて、教えていただけないでしょうか。

 色々とありますが、1番大きいのは在庫データ連携になるでしょうね。アイルミネと在庫データを連携しましたし、ZOZOTOWNさん以外のモールさんとも連携を検討しています。今はどうしてもZOZOTOWNの売り上げが高いですが、いずれURオンラインストアのEC比率を30%以上にできればと思っています。

 あとはサイト内での多店舗展開も本格的に検討しています。URオンラインストアで母の日に販売した花が好評だったのですが、配送などの手間がとても大変でした。花をアレンジして梱包して送るとなると、それができるメンバーに倉庫内に入ってもらうのはちょっと厳しいわけですよね。洋服と場所が異なるものを無理矢理やっても良くないので、それならば、外部パートナーさんにURオンラインストアに参加してもらおうと思いました。もちろん、花だけじゃなく、家具、フード&ライフスタイルなど、我々の空気感にあうパートナーさんにはどんどん出店してもらいたいなと思います。

―なるほど。内製化でしっかりとした入れ物(URオンラインストア)を作ったので、これからは外に向けて、広げていくのですね。楽しみですね。

 ところで、各社が気にしていることですが、ブランドの自社オンラインストアとZOZOTOWNとの共存は可能だと思いますか?

 共存は可能だと思いますが、差別化が必要でしょうね。そのために色々な企画をどんどん出していける“企画力”とブランドの“世界感”が必要になってくると思います。例えば「SMELLY」というアクセサリーブランドのマニキュアですが、URオンラインストアのネイルギャラリーというコンテンツで塗り方の動画を配信し、リアル店舗でも同じ動画をサイネージで連携させました。コンテンツをリアル店舗と共有して広げていくということは、今後も仕掛けていきたいですね。

 ZOZOTOWNや他のモールサイトではなく、なんでURオンラインストアで買ってくれるのかと考えた時に、「URオンラインストアでの買物が楽しい」ってことかなと思うわけですよ。これはお店にも言えることですよね。なので、オンラインストアで買えるのになぜわざわざお店に行くんだろうと考えた時に、やっぱり「お店に遊びに行きたい、買い物が楽しい」ということが大事になるわけですよ。

 ただ、店づくりもWebサイトのレベルもどんどん上がっていきましたが、同質化してきてしまっている面もあります。Webの施策については、“洋服をどうやって売るのか”という営業的な考えと、“IT的テクノロジー” の考えをミックスした企画を考えていきますが、それを外の会社さんにお願いして企画を考えてもらっていては、商品やブランドの理解が似てしまい、同じような切り口の企画になってしまいがちですよね。

 もしかすると、将来的にはリアルで買い物をしなくてもよくなる時代がくるかもしれませんが、あのお店のスタッフに会いに行くとか、あのお店にしかないモノを体験してもらうとか、その時代に合った、洋服だけじゃない衣食住のライフスタイルを、ブランドごとの“世界感”と“企画力”で作っていかなければいけないと考えています。

―最後の質問です。展開が早すぎて3年後(2018年)の見通しすら立てづらい中で考えるWeb戦略について、坂本さんの考えを教えていただきたいです。

 もともとはPCをメインで展開してきましたが、今は端末が小さいわけですよね。小さい端末で勝負していくためには、表現の幅も限定されてしまい難しくなってきている。もしかしたら、将来的に端末という形が物理的に消えてしまうことになるかもしれないですし、どうなるか本当に誰も分からないですよね。

 ビッグデータやウェアラブルデバイスなど色々言われていますが、データを読み解くことや、デバイス対応することは誰でもできてしまうんですよね。なので、我々は発想力で差別化していくためにも独自の世界感と企画力を大事にしていきたいと思っています。それさえあれば、どんな未来になっても商品は売っていけると思っていますわ。


―長い時間にわたりインタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。

<聞き手:アパレルウェブ 吉岡 芳明>


坂本満広(さかもと・みつひろ) 1980年アーバンリサーチ入社。ジーンズカジュアルショップ店長を務めた後、1985年店舗マネージャーに就任。1997年URBAN RESEARCHアメリカ村店(1号店)の責任者として従事。2004年通販の責任者として事業を展開。約10年で売上高80億円。2013年よりアーバンリサーチWEB事業部シニアマネージャーに就任。現在に至る。

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