日本優位とは言えない自動運転技術 世界標準規格競争は最終局面に入ったのか?

2014年9月13日 19:44

印刷

記事提供元:エコノミックニュース

東京都内(皇居前付近)で自動運転の実証実験を行なうトヨタ(レクサス)の実験車両

東京都内(皇居前付近)で自動運転の実証実験を行なうトヨタ(レクサス)の実験車両[写真拡大]

 トヨタとホンダは、9月7日から米国ミシガン州で開催された「第21回ITS世界会議デトロイト2014(ITS世界会議)」で安全運転支援に向けた自動運転技術に関し、開発の進捗状況を公表した。ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)とは、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の向上等を目的に、最先端の情報通信技術等を用いて、人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムの総称だ。

 トヨタは、昨年秋に高速道路上での安全運転を支援することを目的に「オートメイテッド・ハイウェイ・ドライビング・アシスト(AHDA/Automated Highway Driving Assist)」を開発し公開していた。今回新たに公表し、米ITS世界会議で展示したAHDAは、昨年までのものとは異なり車両間通信技術は搭載していない。が、米国の実際の道路環境にあわせて改良されており、時速70マイル(約110キロ)まで対応可能。このAHDAは、要約すると以下の3つの技術で高速道路上を安全に車線・車間を維持しながら走行し、ドライバーの運転を支援する。

 ダイナミック・レーダー・クルーズ・コントロール(DRCC)は、フロントグリルに搭載された77ギガヘルツのミリ波レーダーで先行車を検知し、一定の車速および先行車との距離を確保する。レーン・トレース・コントロール(LTC)は、前方カメラとミリ波レーダーからのデータを用いて白線や前方車両を検知、最適な走行ラインを算出し、自動的かつ適切にステアリング角やアクセルを調整、ドライバーが車線内で走行ラインを簡単・安全に維持できるように支援する。ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)は、高度運転支援システムにおいても“ドライバーが運転の主役であるべきだ”との考え方のもと、手動運転と自動運転の切り替えがスムーズに行なえる、専用のHMIシステムを採用した。

 トヨタの自動運転システムでは、加速や減速、カーブへの対応もクルマが判断して実行するが、自動とはいっても、ドライバーがステアリングから手と離すような運行が前提ではない。ドライバーが完全にステアリングから手を離すと、5秒後に警告音が鳴る。米グーグルはハンドルもブレーキもない完全な自動運転車の開発を進めているが、これでは公共交通の電車やバスに乗っているのと一緒。トヨタによると自動車は運転する人の意志で動き「運転に責任を持つのはドライバーだ」という姿勢を堅持する。

 ホンダは、自動運転による高速道路上での「合流・分岐・車線変更」など、業界をリードするホンダ最新の「コネクティッドカー技術(ネット接続型自動車技術)」と「自動運転技術」のデモンストレーションを米国で初めて行なった。

 今回の世界会議でホンダは、クルマと歩行者・自転車「Vehicle-to-Pedestrians/Bicycle(V2P/B)」、クルマと二輪車「Vehicle-to-Motorcycle(V2M)」の通信技術を含む最新の「Vehicle-to-X(V2X)技術を紹介。そのなかには、ホンダ初の技術として、運転中に運転継続が何らかの理由で困難になったドライバーのクルマを、別のクルマが無線で牽引していく「バーチャル牽引」を紹介していた。

 ホンダのグローバル安全コンセプト「Safety for Everyone」は、これまで「事故に遭わない社会」の追求が基本概念としていたが、今回のイベントでクルマや二輪車のユーザーのだけではなく、歩行者のほか道路を利用するすべての人に提供する安全技術開発をアピールした。

 ところで、昨年秋に東京で開催された「ITS世界会議東京2013」で、日本は世界に向けて日本の自動運転技術を紹介した。そこで、日本の自動車メーカーだけでなく部品メーカー、通信インフラを担うIT業界、そして霞ヶ関の官僚も含めて、日本がこの分野でリードしていると確信したはずだ。

 しかし、今回トヨタやホンダが参加した「米ITS世界会議」に先んじて、今年7月に米サンフランシスコのハイアット・リージェンシーで開催された「Automated Vehicle Sympoium2014」の初日にSAE(米自動車技術協会)が行なったセッションでは、自動運転の規格が現在、世界に3つあるとされた。

 ひとつは、NTHSA(米運輸省・道路交通安全局)が2013年5月30日に公開した、自動運転開発におけるポリシーに基づく規格案。ふたつ目が、SAE(米自動車技術協会)が2014年1月に基本案を提示した自動運転に関する規格「J3016」。そして3つめが、BASt(ドイツ運輸省・連邦道路交通研究所)による提案である。そこに日本が提唱する規格はない。

 もちろん日本はこうした欧米での動きと連携している。国土交通省は2010年10月に米運輸省と、2011年6月にEC(欧州委員会)とそれぞれ自動運転に関する協力覚書を交わした。日本はITSの実用化によって自動運転における技術面では世界をリードしてきた。だが、規格標準化という「世界中が真剣になって取り組む」段階になった現在、結局のところ欧米主導で規格が決まってしまう流れに従わざるを得ない。

 世界の自動車自動運転の規格標準化が最終調整局面に入ったいま、日本や日本の自動車メーカーは「わが社の自動運転技術は……」ではなく、「わが国が提唱する……」というような世界にアピール出来る最先端技術のマーケティング合戦の段階に入ろうとしている。(編集担当:吉田恒)

■関連記事
ドイツ車を迎え撃て 日本車でも過給器搭載が加速
日本は世界最高の長寿企業社会 次世代は自動車業がカギとなる?
燃料電池車「FCV」の購入補助金は300万円か? FCVが売れれば、あの業界にも利益をもたらす
世界ナンバーワンも射程距離 ドイツ不屈の「メルケル」と「ゴルフ」
東京モーターショー2015開催概要発表 次のテーマは・・・

※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。

関連記事