【コラム 山口一臣】朝日の「吉田調書取消報道」にかき消されたスクープ

2014年9月12日 22:03

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【9月12日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■「吉田調書」報道取消の裏で・・
 なんだか世間は朝日新聞の「吉田調書」報道取り消しの話題で持ちきりだが、メディアがこういう大ネタで祭り状態にあるときは、その陰で意外にオモロいネタがスルーされていることが多い。今回は、最近は気になったスルーネタをふたつ。

 まず、長く雑誌業界で飯を食っていた人間として見逃せないのが写真週刊誌「FLASH」(光文社)の発売中止問題だ。9月9日発売予定だった同誌が突如、発売中止、自主回収になったというもの。

 昔は雑誌の回収騒動というと皇室がらみと相場が決まっていた。皇族の写真を取り違えたとか、名前の誤植が発見されたとかなどだ。

 出版元はたいてい回収の理由を明確にしない。「一部記事に不適切な表現がありました」などと曖昧にする。今回もまた光文社の公式サイトに「一部記事に不備がありましたので、発売を中止することにいたしました」と書かれただけだった。

 こうなると同業者同士で「なんだ、なんだ」ということになる。

■テレ朝ディレクターの自殺記事
 当初、ネットやツイッターを席巻していたのが、テレビ朝日「報道ステーション」ディレクターの自殺に関する記事だ。

 表紙に〈朝日新聞の従軍慰安婦問題をけっして報じない『報ステ』に激震ーーー反原発ディレクター衝撃自殺! テレ朝が古舘伊知郎を見限った〉と、おどろおどろしいタイトルが刷られていたからだ。

 このディレクターとは直接の面識はないが、私の親しいジャーナリストと“盟友”といえる関係で、その熱心な仕事ぶりについてよく話を聞かされていた。それだけに、訃報を聞いたときは残念な気持ちでいっぱいになった。亡くなる少し前まで、そのジャーナリストと一緒に福島県内で横行する不法除染問題を追いかけていた。

 原発報道では、テレビ記者の中では右に出る者はいないといわれていた。東京電力に対する追及姿勢も鋭かった。今回の「FLASH」発売中止も、原発村や権力サイドからの圧力ではないかなどと謀略説まで流れるほどだ。真相はどうなのか。

 すでにネットなどにも「正解」が出ているが、光文社の知人に聞いた話では、〈ハリウッド美女が破廉恥自撮り 世界最大の流出SEX写真 アカデミー賞女優から金メダリストまで〉の記事が、発売中止・回収の原因だったという。

 これは、インターネットに流出した世界的セレブスターたちプライベートなヌード写真をコピペして、そのまま掲載したというシロモノだ。

 この流出事件自体は、アップル社が提供するサービス、iCloudがハッキングされ、ハリウッドのトップスターらのプライベートヌードが匿名画像共有サイトに投稿されたというもので、すでに世界中でニュースになっていた。ハッカーによる不正侵入事件として、米FBIも捜査に乗り出している。

■あられもない姿は、すべてネットからのコピペ
 「FLASH」はなんと、そんな“危ない物件”を、女優やモデルの実名顔出し、ノーカットで載せてしまったのだ。

 発売中止・回収といっても実際はかなり市場に出回っていた。定期購読者の元にはもちろん、回収が発表された後もコンビニで手に入ったという人もいた。私も実物を手にして中身を見たが、これは見るだにヤバイというものだった。

 ハリウッドの一流女優や人気モデルが私的に撮ったヌードや恋人との絡みなど、思わず唾を飲み込んでしまうようなあられもない姿が、袋とじ計8ページ渡って印刷されてしまっていたのだ(驚)。もちろん掲載の許諾などないだろう。すべてネットからのコピペらしい。

 ハッキリ言ってこれはマズイわ。

 まず、女優やモデルには肖像権がある。顧客吸引力のある肖像や名前を勝手に使ってはいけない。今回のケースは、明らかな肖像権侵害だ。加えて、プライバシー侵害や当然、名誉毀損にもあたる。掲載された女優が米国の裁判所に訴えでもしたら、賠償額はいくらになるかわからない。発行元の光文社は潰れてしまうのではないか。

 どんなコストがかかっても、発売中止・回収しなければならなかった理由がこれである。

 それにしても、写真週刊誌をつくっている人間なら肖像権は基本の「キ」だろう。なんでこんなミスをしてしまったのかと思う一方、ネット時代にありがちな、今後もどの出版社でも起こりうることかもしれない、と思ったりした。もって他山の石としたい。

■不透明な東京五輪ゴルフ会場選び
 さて、もうひとつの話題はガラリと変わって、10日発売の「文藝春秋」に掲載されたジャーナリスト上杉隆氏が書いた〈東京五輪 ゴルフ会場決定の「闇」〉というスクープ記事(http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1112)だ。

 大きい記事の間に挟まれ、いかにもマイナー感漂う扱いだが、この記事がいまゴルフ界を震撼させている。

 要は、2020年に開催される東京オリンピックの会場選びが極めて不透明に行われた疑いがある、という内容だ。

 といってもゴルフをやらない人にはあまり興味がわかないかも知れない。そもそもゴルフがオリンピック競技として行われたのは過去に1900年と1904年の2回しかない。オリンピック的にはマイナー競技だ。

 それが2016年のリオデジャネイロからオリンピック競技に復活することになったのだ。

 ゴルフにとって、復活第2回目となる東京大会はきわめて重要だ。当然、会場がどこのゴルフ場が選ばれるかは、一般ゴルファーにとっても注目なのだ。

 結論から言うと、現在ゴルフ会場に決定しているのは埼玉県川越市にある「霞ヶ関カンツリー倶楽部」である。1929年開場と歴史もあり、旧皇族や政治家、財界人がメンバーに名を連ねる名門中の名門ゴルフ場だ。

 過去に国際的な大会が開かれた実績もあり、なるほどオリンピックにふさわしい。

 だが実は、この東京にはこの名門ゴルフ場に勝るとも劣らないゴルフ施設がある。「若洲ゴルフリンクス」という名前を聞いたことがあるだろうか。

■条件では「若狭」の方が勝る
 「若洲」は東京都港湾局が所有するゴルフ場で、鈴木俊一都知事時代に湾岸部を埋め立ててつくられた。選手村予定地から直線距離でわずか4kmと至近で、石原慎太郎都知事時代から掲げた五輪開場を8km圏内に収める「コンパクト五輪」の条件にもピタリとはまる。

 実際、私も何度かプレーしたことがあるが、東京のど真ん中に位置し、周りを海に囲まれた景観が素晴らしく、東に東京ディズニーランド、西は東京タワーを中心に摩天楼群が広がり、ゲートブリッジが間近に迫るなど、まさに東京をアッピールするに相応し過ぎる場所なのだ(行ったことのない人はぜひ行って欲しい)。

 羽田空港からゲートブリッジ経由でわずか10分、新幹線品川駅からも15分ほどで到着し、隣接する東京へリポートからは徒歩でも5分とかからない(最寄り駅は新木場)。

 しかも、東京都の所有だから賃貸料がゼロだ(経費削減)。

 対する「霞ヶ関」は日本を代表する名門だが、都心から50km、車で順調にいって1時間以上かかる。内陸にあるため真夏の開催だと体感温度が40度を超え、ギャラリーには熱中症対策が必要となる。ここを五輪用に借り上げると、期間中の休業補償などを含め少なく見積もって1億円はくだらないという(記事より)。

 そしてなにより重要なのが、「若洲」が誰でもプレーできるパブリックコースなのに対して「霞ヶ関」は限られた会員だけが利用できるプライベートコースだということだ。「若洲」なら、オリンピック開催後も都民やゴルフファンに五輪記念会場として開放される。

 コース名を「東京五輪記念ゴルフコース」と変えることだってできるのだ(さすがに「霞ヶ関」の名前を変えることは不可能だろう)。

 東京オリンピックの競技会場としてどちらがふさわしいかは明らかだ。実際、リオデジャネイロに負けた前回の招致では、ゴルフ競技の開場予定地は「若洲ゴルフリンクス」となっていたのだ。

 にもかかわらずなぜ、今回は「霞ヶ関」になったのか。これには実に面白い「闇」というより「裏」があった。興味をもっていただけた方は、ぜひ文藝春秋10月号を読んでもらいたい。

 う〜ん、なんだか今回は宣伝みたいだなぁ(笑い)。【了】

 やまぐち・かずおみ/ジャーナリスト
 1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に大手新聞社の出版部門へ中途入社。週刊誌の記者として9.11テロを、編集長として3.11大震災を経験する。週刊誌記者歴3誌合計27年。この間、東京地検から呼び出しを食らったり、総理大臣秘書から訴えられたり、夕刊紙に叩かれたりと、波瀾万丈の日々を送る。テレビやラジオのコメンテーターも。2011年4月にヤクザな週刊誌屋稼業から足を洗い、カタギの会社員になるハズだったが……。

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