北大、知床のヒグマの栄養源に占めるサケの貢献度はわずか5%であることを明らかに

2014年8月28日 18:02

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河川内でサケを探すヒグマ。ヒグマがサケを自由に捕獲できる環境の減少が、サケ利用の低迷の一因とみられる。2012年秋、知床半島内の河川にて撮影(北海道大学の発表資料より)

河川内でサケを探すヒグマ。ヒグマがサケを自由に捕獲できる環境の減少が、サケ利用の低迷の一因とみられる。2012年秋、知床半島内の河川にて撮影(北海道大学の発表資料より)[写真拡大]

 北海道大学の森本淳子准教授らによる研究グループは、知床のヒグマの栄養源に占めるサケの貢献度は5%と、北アメリカなどのヒグマと比べると極めて少ないことを明らかにした。

 サケは河川で生まれてから海へと下り、海洋で栄養を蓄えながら成長して産卵時に再び河川へ戻るというユニークな生態を持っている。サケが運ぶ窒素やリンといった海由来の元素は、河畔の動植物やヒグマのような陸域の動物にとって貴重な栄養源となる。中でもヒグマはサケを多量に利用するため、海由来の栄養源を陸域へと持ち上げる運搬者としての役割を果たす。一方、これまでの研究から、現在はサケがヒグマの主要な食物資源になっていない可能性が示唆されていた。

 今回の研究では、知床半島内で捕獲されたヒグマの大腿骨191試料を用いて、炭素と窒素の安定同位体比を測定した。その結果、ヒグマ全体のサケの利用割合はわずか5%であることが分かった。また、子育てをする年齢のメス及びその子供のヒグマは、サケの利用が相対的に低下することや、開発がほとんど行われていない世界遺産地域では、サケの利用割合は2倍以上になることも明らかになった。

 世界遺産地域でサケの利用割合が高いことは、ヒグマによるサケの利用が人為的な活動によって制限された可能性を示唆している。ヒグマによるサケの捕食を制限する要因としては、沿岸部でのサケ親魚の捕獲、サケの上流への遡上を阻害するような河川工作物の設置、沿岸部での土地開発などが想定されるという。

 研究グループによると、知床半島では、サケからヒグマへというユニークな栄養源の流れを修復するためにダムの切り下げのような対策が始まっている。今後は、こうした対策による効果の検証や、サケ利用の減少をより明確に調査するための研究が必要だと考えているという。

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