【雑感】当社は被害者? 加害者?-彷徨う日本企業の広報コンプライアンス

2014年8月7日 11:05

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

 【8月7日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

●たて続く不祥事


 消費者の生命、身体、財産の安全を脅かすような不祥事が続いています。先日のベネッセHDによる個人情報漏えい問題に続き、今度は上海の食品会社による期限切れ食材使用問題で日本マクドナルドHDが揺れています。数日前の決算発表では、同社CEOの方が計画よりも15〜20%も売り上げが落ちてしまった・・・とのこと。

 中国の第三者検査機関の検査結果の信用性にも問題があったようですが、食材偽装問題による企業の業績悪化のダメージは相当なものです。

 ところで先日、ベネッセの不正防止対策に関する雑感を述べましたが、広報コンプライアンス上の問題点は述べておりませんでした。詳しくは雑誌「広報会議」で書かせていただきますが、このベネッセの件にしても、日本マクドナルドの件にしても、広報コンプライアンス上で似たような問題があるように感じています。

 私のセミナー、講演を聴講いただいている方なら、すでにご存じかもしれませんが、こういった広報コンプライアンス上の問題への対応を誤り、私は過去に大失敗をしています(会社の方々にもご迷惑をおかけしました・・・)。

 今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしいマスコミ対応でした。

 ベネッセ社長の記者会見で、社長さんは記者さんから「御社は被害者なのですか?加害者なのですか?」と質問を受けました。たしか社長さんは「顧客にご迷惑をかけたという意味においては加害者です」と回答されたものと記憶しています。実際のところ、情報管理会社の社員が情報を流出させ、名簿業者がこれをジャストシステム社等に転売し、顧客名簿を買い付けた会社がこれを活用したわけですから、ベネッセ側からみれば被害者であることには間違いありません。

 ただ、たしかにベネッセ社に個人情報を預けた消費者側からみれば加害者です。

 私が過去に失敗したのは、いきなり「これは当社の責任ではなくA社の責任である。我々も被害者の一人なのだ」といった記者会見から始めてしまったところにありました(しかも法的な理屈をもって・・・)。被害状況がまだよく把握できない状況で、世間が一番知りたいことを後回しにして、自社のリーガルリスク回避に向けた対応を優先してしまいました。

 「そんな理屈はもっと後の話でしょ!いまは被害回復への御社の対応こそ消費者の関心事でしょ!」

 と多くの批判を浴び、もちろん最悪の結果になりました。ベネッセ社の危機対応として、このあたりの広報にはかなり腐心されているのではないでしょうか。

●グローバル企業のコンプライアンス


 さらに問題なのは日本マクドナルド社の対応です。中国ではネット上で食品会社とグルになって消費期限切れの食材を使っていたのではないかとの疑惑が盛り上がっています。このようなときに、日本の消費者向けに謝罪していたのでは、「ほらみろ、やっぱり食品会社とグルだったではないか」と思われてしまいます。

 そこで、まずは「私たちはグルではありません!完全に騙された被害者です!」といった広報が必要になります。しかし、この広報を見た日本の消費者は「被害者ヅラするな!20年も仕入れていたのだろう!管理責任はどうなんだ!」といった対応をされてしまうので、すかさず「お客様にとって私たちは加害者です」と謝罪会見を開かなければなりません。

 被害者か加害者か・・・、グローバル企業にとっての広報コンプライアンスはとても難しい局面があります。以前、仕事をご一緒させていただいたリスクマネジメント会社の方は、加害者としての立ち位置を維持しながらも、暗に「私たちも実は被害者なんです」という趣旨を理解していただくような雰囲気を醸し出すことが大切だといわれました。たしかに、そのような高等戦術も必要かもしれませんが、私は結局のところ、消費者に対して謝罪する意思があるのであれば、再発防止のためにいかに商品やサービスの「安心」を形として示していくか、という点にまい進するしかないのでは・・・と思っています。

 どんなに頑張ってみたところで不祥事は100%防ぐことは不可能です。

 ただ、事故を回避するためにどれだけ企業が努力しているのか、その姿を消費者に示して、安全よりも安心を提供するしかありません。安全認証機関があるのなら、その最高レベルの認証をとる、中国工場がアブないのであればタイの工場に仕入れ先を変える、海外工場に日本人管理者を一人常駐させる、といった「見える化」によって安心をお届けする以外に危機広報のキモは存在しないと思っています。

 広報コンプライアンスの重要なポイントは、単に自社のリーガルリスクを最小限に抑えることではなく、不祥事は起こしたけれども、どうすればこれからもお客様でいてもらえるかを考えることだと思っています。【了】

 山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」より、本人の許可を経て転載。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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