【コラム 山口利昭】役員解任議案の理由開示と名誉毀損に基づく不法行為の成立

2014年6月11日 22:10

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【6月11日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

本日(6月10日)の日経新聞夕刊のトップに「企業育てる株主の台頭-対話で経営改善促す」として、機関投資家のスチュワードシップコード導入に関連する記事が掲載されています。

今後、機関投資家を中心として、役員選任議案に対する議決権行使等を通じた「企業統治への株主コントロール」が進むことになりそうです。

ところで、社外役員が増えたり、モノ言う監査役が増えたりしている中で、会社側から役員の解任に関する議案が上程されることがあります。

正当な理由なく解任された役員の損害賠償請求が裁判所で認容されることは当然ですが、「株主との対話」を実りのあるものにするためには、解任理由が明確にされる必要があり、その適否に関する法律問題はまったく別に考えなければなりません。会社側が主張する解任理由と、これに反対する役員側の意見が株主側に正しく伝わらなければ、いくらスチュワードシップコードが設定されたとしても絵に描いた餅になってしまいますが、そこで浮上してくる法律問題が「役員解任理由に対する名誉毀損の成否」です。

会社側から役員解任議案が上程されるのはまだ良いのですが、最近の傾向(流行?)として、監査役や社外取締役の解任議案が株主提案権として出てくることがあります。

おそらく会社側が大株主または緊密な関係にある株主と意思を通じて、株主側から解任議案上程に関する臨時株主総会の招集請求をしてもらい、または定時株主総会における株主提案権を行使してもらって解任を通すというものです。これだと会社と役員の対立関係が明確にならないので、名誉毀損によって会社が訴えられるリスクが少なくなりそうです。

しかし、「株主との対話」が求められる時代となれば、株主提案に対しては、きちんと会社側も一般株主のために解任議案への賛否だけでなく、その理由についても説明すべきだと思いますので、やはり名誉毀損問題については、株主提案による解任議案上程の場合にも検討しておくべきではないでしょうか。

たとえば「モノ言う監査役」さんが、社長や大株主(親会社)からみれば

「うるさいなぁ、あいつ、なんかはきちがえているのと違うか?」

「あれだけ『御用監査役』でいいと言ってたのに、何考えてるんだ」

と、煙たい存在になってしまい、結局、言うことをきかない監査役ならいっそのこと解任してしまおう、といった事例が散見されます。

こういった場合、たとえば株主総会の招集通知に●●監査役の解任の件、といった議題が書かれて、参考書類にはその解任理由が記載されています。たとえば監査役解任議案は特別決議が必要ですが、前にも述べたとおり、定款で株主総会の定足数が3分の1あたりにまで緩和されていますと、わずか全体の22%程度の株主の賛同で解任議案が通ってしまいます。

解任議案が可決されるかどうかは別として、その解任理由には「●●監査役は、監査役としての資質に欠け、その能力不足が著しいため」とあります。弁護士や会計士の社外監査役の場合ですと、このような「資質に欠け」「能力不足」と書かれますと、本業にも影響が出ます。

当然、「けしからん!会社を名誉毀損で訴えてやる!謝罪公告の掲載も求めてやる!」といったことになります(もちろん常勤監査役さんも、社会的名誉を害されたとして提訴することもあります)。こういったケース、果たして会社に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求、謝罪公告要求は認められるのでしょうか?

このあたりの問題について、社名は伏せますが、東京地裁平成24年4月11日判決(判例タイムズ1386号253頁)が詳しく示していまして、参考になります。

「解任理由」ではありませんが、取締役の善管注意義務違反を指摘する監査役監査報告への会社側の反論文(適時開示リリース)が、果たして(名誉毀損の成立要件たる)事実の適示にあたるのか、それとも意見表明(論評)にあたるのか、仮に意見表明にあたるとすれば、公正な論評なのかどうか、公正な論評にあたるのであれば、どのような目的に出た意見表明なのか、その表明された表現方法に行き過ぎた表現はないか、といったことが様々な角度から検証されています。

株主との対話が求められる時代となれば、なぜ当該取締役、監査役を解任するのか、当該取締役、監査役はどう反論するのか、といったことは(株主への判断資料を提示するために)個別具体的に事実を示して理由を述べることが求められるはずです。とくに社外取締役が増えて、取締役会がモニタリングモデルへと変遷していくのであれば、社外役員と経営トップとの軋轢も増えてくるはずです。

したがいまして、会社側、対立する役員側、双方とも、どういった表現方法で、どういった意見や事実を述べておけば名誉毀損によって刑事・民事の責任を問われないのか、リスク管理の一環として少し理解しておいたほうが良いかもしれません。

(1)事実だけを述べて解任理由とする場合、

(2)意見とともに、その意見に至った事実を指摘して理由とする場合、

(3)意見だけを述べる場合等、

名誉毀損に基づく損害賠償、謝罪広告要求は、その成否について「場合分け」しながら判断する必要があり、結構むずかしいところなので、顧問弁護士の方々と一度相談されたほうが良いかもしれませんね。【了】

山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」より、本人の許可を経て転載。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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