炭素税とトヨタ・オーストラリア

2013年6月19日 18:48

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記事提供元:エコノミックニュース

 2012年7月の導入以来、何度も豪州国会の討論の中心となっている炭素税だが、今年9月の豪州総選挙を控え、選挙戦でも炭素税が争点のひとつとなっている。「小さな政府」歳出削減を目指す野党保守連合は、炭素税が物価上昇を招き、生活を直撃したとして政権奪取後の炭素税廃止を公約、与党労働党政権は、代替歳入源の明示を求めている。

 炭素税は、製造業界にも波紋を起こしている。今年4月、GMホールデンは自動車生産台数計画を400台/日か ら335台/日に下方修正した。500人規模の従業員削減となる。さらに今週に入って、賃下げを含む更なるコスト削減策を労働組合に提案している。豪ドル高と炭素税導入に伴い、価格面で国際競争力が下がっているのが原因、とGMホールデンでは説明している。10年前よりも、豪州国内での自動車製造コストが 60パーセント上昇、海外で製造するより一台あたり3750豪ドル(約36万円)もコスト高であるとし、炭素税に矛先を向けている。

 炭素税については、今年3月のフォード・オーストラリアの豪州国内自動車生産打ち切り発表時にも、野党保守連合のトニー・アボット自由党首が政府を批判している。炭素税で電気料金等が値上がり、自動車製造コストが一台あたり400ドル(約3万8000円)上昇したとし、製造業界は安い電気料金を望んでいると強調した。

 ただし、この400ドルという数字には疑問が提示されている。自動車業界には、炭素税導入で価格競争力を損なわないよう、各種補助金が支給されており、実際の影響は一台あたり約50ドルから約400ドルまで、さまざまに計算されている。GMホールデンは豪州内で4000人以上を雇用しており、関連会社、下請け企業と合わせれば2万人以上、経済への影響は非常に大きい。過去12年間でGMホールデンは18億豪ドル(約1700億円)の支援を受けているが収益は芳しくなく、仮にフォードに続いての豪州撤退となれば、地域への影響は甚大である。

 炭素税導入にどれほど省エネ効果があるかには議論がある。電気代が10パーセント上がっても、直ちに電気使用量を10パーセント下げることはまず不可能である。ただし、7,8年後には、省エネ製品への買い替えが進み、電気使用量と二酸化炭素排出量の低下に効果が現れる。もっとも、一般家庭と比較して大工場ではすでに省エネが徹底されているので、更なる改良はより困難が伴う。なお、炭素税導入に伴い、豪州では太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギー源の利用が30パーセント増加した。

 炭素税導入で豪州国内自動車製造のコストがいくらか上がったトヨタだが、逆に輸入車にお買い得感が生まれ、利益/損失を互いに相殺できるような収益構造を維持している。(編集担当:轟和耶)

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