オリンパス社長解任と日本企業のグローバル経営(2/2)

2011年10月17日 18:13

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■人材に関する問題:日本人に海外人材の評価ができるか?
 関連した課題として、日本人以外のビジネスマンの評価をすることが、日本企業には致命的にできない、ということもあげておこう。

 それも当然だ。20年の「失われた期間」の最中に、世界のマネジメントスタイルは、徐々にある程度のスタンダードを形成しつつある。お隣韓国も大統領を中心としたリーダーシップで、かなりの改革を進めた結果、企業経営という点では日本企業よりはグローバル化に対応している。

 こうした状況で、多勢に無勢ともなりつつあるなかで、スタンダードから遅れているのが日本企業の姿だ。こうした日本企業だけで育った人材には、海外の人材を評価することは難しいと私は考える。自分たちの知らない、経験したことのない世界で業務をしている人の評価はできない、というのが単純な理由だ。

 遅れているだけではない。本来であれば、一本筋を通して主張すべきこと、価値のあることさえしっかり伝えきれていない。海外の人間に伝えられないと、「あいつらは分からない」よばわりをして、分かっている人間=日本人だけでビジネスを進める。海外の人間からは「日本人は何を考えているか分からないと」言われる。

 結局前項でも述べたコミュニケーション問題になってしまう。コミュニケーションで留まっている間は、本当に生産的な、付加価値のある話はできない。

 今、欧米だけでなく、アジアの主要国でも人材についてジャパン・プレミアムならぬ、ジャパン・ディスカウントがあるのはご存知だろうか。

 日本人ということだけで「本当に仕事ができるのか」という偏見を持たれる。(ただし、生産技術等、一部の特殊スキルや経験を持った人は別だ。こうした人にはむしろシニアが多い。皮肉なことにそうした方々が本来の価値とは比較にならないほど安い給与で雇用されている。)

 私の知っている某超大企業では、北米事業の責任者(本社役員も兼ねる)を選ぶときの選択肢の基準が、「長く付き合った人間」という評価軸であった。この評価軸だけ聞くとそれほどおかしいとは思わない。しかし裏がある。

 日本企業の海外子会社で、長く在籍して認められた人間の中で、本当に優秀な人間がいるのか、という問題だ。

 これに答えるだけの事例を私はまだ持っていない。しかし、優秀でない場合、平凡であった場合に関わらず、著名日本企業であってもその海外子会社のトップ級の人材が、それほど高い評価を人材市場で受けていないということは知っている。

 彼らは、長年日本企業に勤めることで、結果的にグローバルな市場に戻る機会や、その時の自分の価値をリスクに晒していることを知っている。

■今回の失敗について
 話をオリンパス社に戻そう。今回の社長解任は、明らかに任命者責任があると私は考える。事実、菊川会長自身がそれを認めている。しかし、責任が明らかとは言え、日本全体について確実に言えることは、海外からみると「何のために社長にしたのか?どんな意思決定があったのか?やはり日本人は分からない」と思われていることだけは確実である。この際ウッドフォード氏が優秀であったかどうかは、大きな問題ではない。

 以前、ラグビーの平尾選手のお話を聞いた事がある。外国人にパスを出すときの「ちょっと出せ」とか「すぐそこ、その前」という感覚を合わせるのがものすごく大変だったという。

 海外でも当然ながら同じ国の人間同士であればこそもっている暗黙知や阿吽の呼吸はある。しかし、ダイバーシティに取り組み、人材を多様化している中で彼らは、当たり前と思っていることでも話をし、確認をする。

 そうしたことの面倒を厭わないことで、結果的に双方の視点の違いの理解ができる。それがイノベーションにつながり、組織の柔軟さにつながるという事例を、日本以外の国では実はもう何十年の単位で積み重ねている。

 いまから間に合うのか、日本は?

 私個人のエールとして、今から間に合わせるしかない、というのが答えだ。

 政治環境も合わせ、幕末、敗戦を通してパラダイム変化を経験しながら、常に成長してきたのが日本だ。確かに外圧による変化が多かった。

 今回、幕末や敗戦ほどではない、緩慢な変化であり、まだまだパラダイムシフトには至らないかもしれない。しかし、今もう一度成長に向かえないと、日本は本当に沈没する。それを食い止めるよう個人的に改めて何ができるかを考え、自分の仕事を通じて支援していきたいと改めて覚悟した。

■蛇足ながら
 オリンパス社の今回のケースは、材料として使っただけのつもりではあったが、この原稿の第一稿を送り終えてから、Financial Timesにウッドフォード前社長のインタビュー記事をまとめたものが発表された。

 過去に買収を行った際のファイナンシャルアドバイザーに対して支払ったフィーについて調査をしたことが解任の理由につながったと伝えられている(FT社記事のリンク先http://www.ft.com/intl/cms/s/2/87cbfc42-f612-11e0-bcc2-00144feab49a.html#axzz1axfLYVrp)。

 これからは双方の主張の交換になるであろう。事実であるにせよ、そうでないにせよ、単なる解任を超えてオリンパス社の企業価値を棄損したことに変わりはない。

 事実であった場合、その解任の仕方も含め、日本の企業統治にまた一つケチがつく。米国でもエンロン等、企業経営における不透明な資金の動きという点で、企業統治についての見直しのきっかけとなった。今回ウッドフォード社長が、疑いを確認するという当たり前のことを行ったことが解任につながったとしたら、お粗末極まりないことになる。

 (文章中の「」付き引用は主にロイターから:http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-23628720111014

著者プロフィール

太田 信之

太田 信之(おおた・のぶゆき) バレオコンマネジメントコンサルティング パートナー / アジアパシフィック代表

グローバルコンサルティング会社”バレオコン”のアジア圏責任者として、日本・アジア各国での戦略実行に関わるコンサルティングを提供しています。
プロジェクトを立上げ、従業員の皆さんを活性化し実行力を付けながら事業上の成果を出すための方法論とコーチングを提供。新商品・サービス企画から導入、現地法人と日本本社の海外事業部門との間の課題解決など、測定可能な目標の構築、達成、実現をお客様と共に目指します。
JMAM人材教育にて「組織の壁を破る!CFT活動のすすめ」等を連載。グロービスマネジメントレビュー「実行する組織のマネジメント」(共著)
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