朝日新聞のがんペプチドワクチン被験者出血報道に関する騒動まとめ

2010年10月24日 20:23

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記事提供元:スラド

tarbz2の日記 曰く、 非常に出遅れ感があるが、なかなかの大きな騒動になっているようなのでまとめてみる。

 15日の朝日新聞の一面を飾った記事によれば、東京大学医科学研究所が開発したがんペプチドワクチンの臨床試験をめぐり、医科研付属病院で2008年、被験者に起きた消化管出血が「重篤な有害事象」と院内で報告されたのに、医科研が同種のペプチドを提供する他の病院に知らせていなかったことが分かったとのことである。このがんペプチドワクチンは、医科研ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授が開発したものであり、東大医科研が全体を把握できる状況にありながら他の施設に伝えていなかったのは、倫理に反すると朝日は主張している。朝日の論調的には、医科研の中村祐輔教授が自分が開発したワクチンでの有害事象を意図的に隠していたことを非難しているように読める。(続く)

 朝日の報道でマスコミ各社が追って報道を開始していたようだが、これに対して、東京大学医科学研究所が記者会見を行い、朝日の報道に反論した。簡単にまとめると、記事での被験者は、進行性すい臓がんであり、臨床試験にエントリーしたものの残念ながらすい臓がんにおいては少なからず起こりうる消化管出血が認められたため、被験者から外れたもので、その後、患者は無事に回復している。出血によって入院期間が約1週間延長したために、「重篤な有害事象」として報告されたが、「重大な副作用」とは全く異なるものである。さらにこの試験は、多施設共同研究でなく、医科学研究所附属病院が単独で行っていたものであり、そもそも朝日新聞がワクチンを開発したとしている中村教授は、ワクチンの開発者でもないし、臨床試験の責任者でもないということである。

 この反論はマスコミにはあまり載らなかったようだが、朝日自身は旗色が悪いと感じたのか、翌16日の朝日新聞では混合診療批判を開始していたらしい。リンク先のブログに書いてあるように、これは全くの誤認である。

 さらに20日には、報道によって臨床試験が停滞することを危惧する41の癌患者団体が厚生労働省で記者会見を行う(pdf)という行動に出たらしい。この会見に対して、朝日新聞側は翌21日にこの件に対する報道を行っているのであるが、リンク先PDFにあるように「有害事象などの報道に関しては、がん患者も含む一般国民の視点を考え、誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実を分かりやすく伝えるよう、冷静な報道を求めます」としていた団体側の声明文から、「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分をわざわざ省いて掲載したようである。団体側の声明は、明らかに朝日に対して不適切な報道を戒める文章であるのだが、その部分が省かれると、一般的な指針を示しているだけに読めてしまう。

 これでさらに火に油を注いだのかどうかは分からないが、読売新聞の記事によれば、日本癌学会と日本がん免疫学会が22日、朝日新聞社に対する抗議声明を公開した。ここまでが現状である。

 朝日としてはミドリ十字的な隠蔽を暴いたというつもりだったのかもしれないが、この報道で一歩間違えば、東京大学医科学研究所が大野病院事件とまでとはいかなくともかなりのダメージを被る可能性があったかもしれない。

 24日になって朝日新聞が、日本癌学会の抗議声明に対しての記事を掲載している。それによれば、朝日の当初の記事は「薬事法の規制を受けない臨床試験には被験者保護の観点から問題があることを、医科研病院の事例を通じて指摘したものです。抗議声明はどの点が「大きな事実誤認」か具体的に言及していませんが、記事は確かな取材に基づくものです」との回答である。当初の記事は、医科研および中村教授を追求するように読めたが、朝日としては臨床試験の現状そのものへの問題を追求したということのようだ。

 なお、朝日と医科研の見解相違については、このあたりの記事がまとまっている。

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