欧州の再使用型宇宙機VORTEX、有人型を含む開発構想 2028年に極超音速飛行を実証へ

2026年9月18日 16:23

欧州で再使用型宇宙機「VORTEX」の開発計画が進んでいる。開発を主導するフランスのDassault Aviationは、2028年に小型実証機VORTEX-Dを飛行させ、極超音速での再突入や飛行制御、熱防護技術などを検証する計画だ。その後は軌道上で運用する多目的機や大型貨物機へ段階的に発展させ、最終段階では宇宙飛行士を運ぶ有人型を構想している。

■フランス政府がVORTEXへの支援を表明

Dassault Aviationは2026年9月10日、パリで開かれた国際宇宙サミットで、フランス政府がVORTEX計画を支援する方針を示したと発表した。同社は機体全体の設計と統合を担い、ドイツの宇宙企業OHBなど欧州各国の企業と開発を進める。

VORTEXは「Véhicule Orbital Réutilisable de Transport et d'Exploration」の略称で、再使用型軌道輸送・探査機を意味する。軌道上で貨物輸送、微小重力環境を利用した研究・製造、衛星へのサービスなどを行い、大気圏再突入後は航空機のように滑走路へ着陸する構想だ。

民生と軍事の双方の軌道上任務を想定していることも計画の特徴である。Dassault Aviationは、フランスと欧州の宇宙輸送能力や技術的自立性を高める戦略的な基盤としてVORTEXを位置付けている。

■4段階で大型化、最終段階に有人型

VORTEXは、機体規模と機能を段階的に拡張するロードマップを採用している。第1段階のVORTEX-Dは全長4m、重量1トンの小型飛行実証機で、第2段階のVORTEX-Sは全長8m、基準重量10トンの多目的機となる。

VORTEX-Sは、宇宙ステーションとの間で貨物を輸送するほか、単独で軌道上に滞在するフリーフライヤーとしての利用も想定されている。最大2トンの貨物を往復輸送し、微小重力環境での研究や製造、衛星の点検・補給、技術実証などに対応する構想だ。

その後は輸送能力を拡大した貨物型VORTEX-Cと、宇宙飛行士を運ぶ有人型へ発展させる。公式ロードマップは有人機を最終段階に位置付けているが、2031年という時期はOHB関係者による専門記者向け説明会で示された試作機の目標と報じられたものであり、現時点で確定した運用開始時期ではない。VORTEXの公式サイトでは、貨物型と有人型について2030年代半ばの運用開始を見込むとしている。

■2028年にVORTEX-Dを飛行

最初の重要な節目は、2028年に予定されるVORTEX-Dの準軌道飛行である。機体はマッハ10を超える速度で大気圏へ再突入し、空力設計、極超音速飛行技術、飛行制御則、フェアリングを使わない打ち上げ方式、主要システムなどを検証する。

極超音速で大気圏に突入すると、機体前方で圧縮された気体が高温になり、機体には大きな熱負荷がかかる。VORTEX-Dでは、こうした環境に対応する熱防護技術も重要な検証対象になる。

熱防護システムは再使用型宇宙機の運用コストを左右する要素の一つだ。スペースシャトルでは、機体表面に取り付けられた多数の耐熱タイルの点検と補修が、飛行間の整備負担を大きくした。再使用型宇宙機で短期間の再飛行を実現するには、再突入に耐えるだけでなく、飛行後の点検や補修を抑えられる耐久性と整備性が求められる。

もっとも、2028年の実証飛行は熱防護システムだけを判定する試験ではない。極超音速から低速飛行へ移る過程での姿勢制御、空力特性、機体システムの統合など、後続機の開発に必要な複数の技術を確認する役割を担う。

■リフティングボディで滑走路へ帰還

VORTEXは、胴体の形状によって揚力を生み出すリフティングボディを採用する。カプセル型宇宙船よりも大気圏内での機動範囲を広げ、着陸地点を柔軟に選択できるほか、滑走路へ着陸して機体や貨物を回収できることが利点となる。

VORTEX-Sでは、再突入時の加速度を2G未満に抑え、横方向に最大1500km移動できる能力が計画されている。低い加速度で帰還できれば、壊れやすい実験試料や軌道上で製造した材料を地上へ運ぶ用途にも適する。

一方、リフティングボディは、宇宙空間から極超音速、超音速、亜音速へと飛行状態が変化する中で機体を正確に制御する必要がある。高高度では姿勢制御用スラスターを使用し、大気が濃くなるにつれて空力操縦へ移行する。VORTEX-Dは、こうした一連の飛行制御を実際の環境で検証するための機体でもある。

VORTEX-Dの姿勢制御システムには、スペインのArkadia Spaceが開発する推進システムが採用される。過酸化水素を推進剤とする推力250ニュートンのARIELスラスターと、タンク、電子機器などで構成され、高高度での姿勢制御を担う。

■IXVなど欧州の実証技術を継承

Dassault Aviationは、欧州宇宙機関(ESA)の再突入実験機IXVをはじめ、Hermes宇宙往還機やNASAのX-38乗員帰還機などの研究・開発に参加してきた。

IXVは2015年2月に飛行し、リフティングボディによる大気圏再突入と飛行制御に必要なデータを取得した。回収地点は欧州ではなく太平洋上で、パラシュートを使って着水した。IXVで蓄積された空力、熱、誘導・航法・制御に関する知見は、欧州が再使用型宇宙機を開発するうえでの技術的な基盤の一つとなっている。

ESAとDassault Aviationは2025年6月、低軌道向けの輸送機や高速再突入技術などに関する協力の可能性を検討する基本合意書に署名した。合意はVORTEXをESAの正式計画として承認するものではないが、縮小型実証機を使った技術検証や将来の協力に向けた準備を進める枠組みとなる。

■OHBなど欧州企業が開発に参加

Dassault AviationとOHBは2026年5月、VORTEX-SをESAへ提案するために協力すると発表した。Dassault Aviationが機体全体の基本設計と統合を主導し、OHBはサービスモジュールの設計と統合を担当する。

このほか、APCO Technologies、MT Aerospace、Sener、Sonaca、Space Cargo Unlimitedなどが計画に参加している。Dassault Aviationは、単一企業で全システムを開発するのではなく、各分野の欧州企業を組み合わせた産業体制を構築している。

フランス軍事省は2025年6月、VORTEX-Dの開発支援に関するDassault Aviationとの合意を発表した。実証機は、極超音速飛行の制御、高度な熱防護、飛行制御など、将来の民生・軍事用宇宙機に必要な技術上の不確実性を減らす役割を担う。

■ESAはNyxによる貨物輸送も推進

国際宇宙サミットでは、ESAがThe Exploration Companyの宇宙船Nyxを採用するALADDIN計画の契約も発表された。契約総額は7億6000万ユーロで、このうち3億1000万ユーロが国際宇宙ステーションへの実証飛行に割り当てられ、残る4億5000万ユーロは追加2回の貨物輸送に関するオプションとなる。

ALADDINは、欧州が低軌道の宇宙ステーションとの間で貨物を往復輸送する能力を確立するための計画である。Nyxはカプセル型であり、滑走路へ帰還するVORTEXとは機体形式が異なる。

VORTEX-Sも宇宙ステーションへの貨物輸送を想定しているため、両計画は一部の利用分野や欧州の宇宙予算を巡って重なる可能性がある。一方、VORTEXは長期間の自律飛行、軌道上サービス、滑走路への帰還、将来の有人輸送まで含む、より広い段階的構想として進められている。

■有人型への道筋はなお流動的

VORTEXの有人型を実現するには、VORTEX-Dによる極超音速飛行の実証に続き、VORTEX-Sで軌道上の自律運用、再突入、滑走路着陸、再使用性などを確認する必要がある。さらに、運用機の開発資金、安全性の検証、有人飛行に必要な認証を確保しなければならない。

フランス政府はVORTEXへの支援を表明したが、ドイツを含む他国の政府がどのような形で資金参加するかや、ESA加盟国がVORTEXを正式な機関計画として承認するかは明らかになっていない。

2028年のVORTEX-Dは、有人型の実現時期を一度の試験だけで決めるものではなく、段階的な開発の最初の飛行実証に当たる。その成果と、その後の資金・事業判断を積み重ねられるかが、貨物型や有人型へ進むロードマップを左右することになる。

元記事: European Spaceplane VORTEX Confirmed for Crewed Flight: 2031 Hinges on Heat Shield

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