Tencent「Hyra 2.0」発表、タンパク質モデルや量子符号を再利用できる研究ツールに

2026年11月4日 17:15

Tencentは2026年11月2日、科学研究エージェント「Hunyuan Research Agent(Hyra)2.0」を発表した。科学的な問題への解答に加え、後続の研究で再利用できるモデルや検証手法、ソフトウェアの開発を目指す。

成果にはタンパク質配列を設計する「HyInv」、タンパク質言語モデル「HyPLM-Flash」、量子誤り訂正ツール「HyQEC」、数学研究のワークフロー「HyProver」がある。Tencentはタンパク質モデルの重み、推論コード、技術報告書を公開しており、外部の研究者も実行して評価できる。

■単発の解答から、次の研究を支えるツールへ

2026年7月21日に発表されたHyra 1.0は、候補を作り、実験や計算を実行し、評価結果を基に改良する反復型の研究システムだった。Tencentは数学定数の改善、AI開発ベンチマークの向上、組合せ論の配置問題などで成果を報告している。

公開リポジトリには、整数の有限集合について和集合と差集合の大きさを関係づける最適な指数を扱った研究もある。7月29日付の更新では、この問題を解決したとする論文と、Lean 4による機械検証用の証明が案内された。

Hyra 2.0が重視するのは、一度の開発成果を繰り返し使える形で残すことだ。配列生成モデルを改善すれば、それを呼び出す後続の設計作業に利用できる。検証手順や実験の進め方も、再利用するツールの対象となる。

Tencentによると、研究作業はOverall、Mission、Workerの3層に分かれる。Overallは人間の研究者との目標調整や資源配分を担い、Missionは個々の研究課題の方針や実験を管理する。Workerはコードの調査、実験、失敗の分析などを実行する。

同社はプロジェクトの状態、各エージェントの作業記憶、共有知識ベース「Books」を分けて保存する設計も説明している。研究で得た転用可能な手法は、後続の作業で利用するスキルとして整理する。システムはTencent社内の研究環境に接続され、大きな計算資源を使う操作などには人間の承認を組み込む。

■HyInvは196万パラメータのタンパク質配列設計モデル

HyInvは、目標とするタンパク質の主鎖構造からアミノ酸配列を設計する、逆フォールディング用のモデルだ。配列から立体構造を予測する方向とは逆に、指定した構造に適合する配列候補を探す。創薬や酵素設計などで候補を作る工程に使える。

Tencentによると、Hyra 2.0が事前学習、教師あり微調整、強化学習、推論の最適化を実施した。HyInvは196万パラメータのグラフニューラルネットワークで、ProteinMPNNの設計を基にしている。公開モデルには、構造への適合度を報酬とする強化学習を適用した重みが収録されている。

比較対象のProteinMPNNは、米ワシントン大学のデビッド・ベイカー氏らが開発し、2022年にScienceで発表したタンパク質配列設計手法だ。ベイカー氏は計算によるタンパク質設計の功績により、2024年のノーベル化学賞を受賞している。

Tencentは、HyInvの配列生成速度がProteinMPNNの57倍で、生成配列と目標構造の適合度も高かったと報告した。公開資料では、NVIDIA H20を1基使い、402残基のタンパク質について128本の候補配列を生成する処理が、高速なBF16経路で約50ミリ秒だったとしている。

この時間は、コンパイルやCUDAグラフの準備を除いた測定値だ。公開実装には標準のFP32経路と高速化経路があり、速度や数値計算の条件が異なる。研究に組み込む際は、使用する経路、配列長、バッチ数、乱数シードなどをそろえ、生成速度と配列の品質を併せて評価する必要がある。

高速化の先行研究には、2022年にプレプリントが公開され、ICLR 2023で発表されたPiFoldがある。同研究は平均1632残基の長い配列100本を使った評価で、ProteinMPNNなどの自己回帰型モデルに対して約70倍の推論速度を報告した。配列生成の高速化は、候補を多数作って調べる工程の計算負担を減らす研究テーマとなっている。

■HyPLM-Flashは配列の特徴を学ぶ言語モデル

HyPLM-Flashは6億5000万パラメータのタンパク質言語モデルだ。Tencentによると、Hyra 2.0が累計7260億トークンを使って訓練した。タンパク質言語モデルはアミノ酸配列の規則性を学び、変異の影響の評価や構造・機能の予測などに利用する特徴表現を生成する。

公開READMEでは、H20を1基使うINT8推論で、毎秒約13万残基を処理するとしている。BF16経路の処理速度は毎秒約9万残基で、よく似た変異配列の特徴を使って回帰モデルを訓練する用途にはBF16を推奨している。

HyInvとHyPLM-Flashの公開パッケージはMITライセンスで提供される。HyInvはCPUとGPUで動作し、重みは約7.8MBだ。HyPLM-FlashはCUDA対応GPUを必要とし、約2.6GBの重みをGitHub Releasesから取得できる。研究者は自らの計算環境でモデルを動かし、既存手法との比較や用途別の評価を進められる。

■HyQECの「48%向上」は符号距離を含む指標

量子誤り訂正は、複数の物理量子ビットで論理量子ビットを保護する技術だ。実用規模の誤り耐性量子計算に向けては、必要な物理量子ビット数などの負担を抑えることが重要になる。量子低密度パリティ検査符号、いわゆる量子LDPC符号は、そのために研究されている符号の一群である。

量子LDPC符号では、一つの検査に関わる量子ビット数や、一つの量子ビットが関わる検査数を抑える。符号は一般に[[n,k,d]]と表し、nが物理量子ビット数、kが論理量子ビット数、dが誤り訂正能力に関わる符号距離を示す。符号化率k/nに加え、符号距離や検査の重みなどを組み合わせて評価する。

Tencentによると、HyQECは[[488,123,22]]の符号を構築し、符号距離を厳密に検証した。物理量子ビット488個に論理量子ビット123個を符号化するため、符号化率は約25.2%となる。同社が従来首位比で約48%向上したとするのは、符号距離の2乗を含む指標kd²/nで、値は約122.0だ。

この比較には、非CSS符号で検査の重みが8以下という条件がある。Unitary FoundationのqLDPC Challengeの公開データにも当該符号が収録され、Hyra 2.0を用いて発見したと記載されている。2026年11月4日時点の登録では、距離22はリーダーボード上では上界として扱われ、提出者側が独自の探索による厳密検証を説明している。

量子誤り訂正の研究は各社でも進む。IonQは2026年8月、Tempoの技術試験システムで量子LDPC符号による誤り訂正のブレークイーブンを報告した。IBM、QuEra、Quantinuumも同年に関連する研究成果を公表しており、符号の構築とハードウェア上の検証の両面で開発が続いている。

■HyProverは数学研究の手順を再利用する

HyProverは、文献や手掛かりの探索、問題の変形、中間的な予想の提案、証明の作成と検討を組み合わせる数学研究のワークフローだ。Tencentは、数学者と協力して成果を確認し、論文として整理したと説明している。公開リポジトリにはPetty予想と丘成桐(Shing-Tung Yau)氏の円周作用予想に関する成果がある。

Petty予想について同社が報告したのは5次元の場合で、任意の5次元実ノルム空間に、互いの距離が等しい6点が存在するという結果だ。Tencentは、解決された次元を従来の4次元から5次元へ進めたとしている。

円周作用予想については、単連結性を仮定しない形の予想への反例を報告している。公開説明によると、正の断面曲率を持つ7次元閉多様体で、有効な滑らかな円周作用を持たないものを構成した。対象の多様体は非単連結で、単連結の場合の予想は引き続き未解決の研究課題となる。

これらの論文は、主張の条件や証明を専門家が検討するための公開資料となる。数学者による論証の検討と、Lean 4などの証明支援系による形式検証は、それぞれ異なる作業だ。成果を利用する研究者には、対象となる命題、仮定、証明の依存関係を確認することが求められる。

■成果物の評価と、研究過程の再現を分ける

公開モデルは、外部の研究者が推論を実行し、自らのデータで評価する出発点になる。一方、同じモデルを一から開発する過程を再現するには、訓練設定、試行履歴、採用・不採用の判断、人間による介入なども調べる必要がある。AlphaSignalとremio.aiも、公開成果物の検証と、エージェントによる研究過程の評価を分けて考える必要性を指摘している。

Tencentの説明では、Workerは結果を報告する際にコードの版、実験結果、ログなどの証拠を添える。必要に応じて別のReview Workerを起動し、実行者の結論を先に読ませず、問題と証拠から確認させる。こうした内部の確認手順と、外部研究者による再現実験を組み合わせることが、ツールの信頼性を評価するうえで重要になる。

分野全体では、生成した論文と実際の実験記録を照合する研究もある。Google Cloud AI Researchの研究者らが2026年5月に公開したScientistOneのプレプリントは、5システム、5課題にわたる75本の論文を調べた。比較対象のシステムには架空の参考文献の割合が21%に達したものや、スコア検証の通過率が42%にとどまったものがあり、研究成果を証拠まで追跡できる仕組みを提案している。

■他の自動研究システムとの比較

Googleの「AI co-scientist」は、科学的な仮説や研究計画を提案する複数エージェント型のシステムだ。GoogleはGoogle Cloudを通じた提供を進めている。仮説の生成を支援する仕組みと、科学モデルや検証ツールを開発するHyra 2.0では、評価すべき成果物が異なる。

日本のSakana AIは「AIサイエンティスト(The AI Scientist)」で、アイデアの生成から実験、論文執筆までの自動化を研究している。同社によると、AI Scientist-v2が生成した論文はICLR 2025のワークショップで採択水準の査読評価を受けた。システムの構成や実験結果を研究者らが説明した論文は、2026年3月26日にNatureへ掲載された。

Google DeepMindのFunSearchは、言語モデルが生成したプログラムを自動評価し、良い候補を次の探索に使う手法だ。研究機関がシステムを比較する際は、仮説の提案、プログラムの探索、モデルの訓練など、任せたい工程を明確にする必要がある。公開コードやモデルを自施設で実行できる範囲も、実務上の比較項目となる。

■次世代Hunyuanモデルの開発にも参加

Tencentは、Hyra 2.0が次世代Hunyuanモデルの開発にも参加していると説明している。具体的には、事前学習向けの訓練基盤や手法の実験、事後学習向けのデータ合成、推論システムの最適化を挙げた。

同社が描くのは、研究ツールの改良によって次世代モデルの開発を助け、より高性能なモデルを後続のツール開発に使う循環だ。Hyra 1.0の研究ではHy3を使用しており、Hy3は全体2950億、推論時に使う部分が210億パラメータのMoEモデルとして、Apache 2.0ライセンスで公開されている。

AI研究開発の自動化を巡っては、ジェフリー・ヒントン氏、ヨシュア・ベンジオ氏ら22人が2026年9月28日に報告書を公表した。著者らは、AIが後継システムの開発を助ける循環によって技術進歩が急加速する可能性を論じ、研究開発の自動化の状況を把握する仕組みや監査の充実を提案している。Hyraのような研究システムでも、成果の品質と、その成果を次の開発に採用する判断の記録が重要になる。

■研究データの管理は実行環境に応じて確認

公開されたタンパク質モデルは研究機関の計算環境で実行できる。導入時には各パッケージのライセンスと依存ソフトウェアを確認し、入力データ、生成結果、ログの保管先とアクセス権限を設計することになる。Hyra 2.0本体についてTencentが説明しているのは、同社の社内研究環境に接続した運用だ。

中国の国家情報法第7条は、組織と国民に対し、法に従って国家情報活動を支持・援助・協力することを定める。データ安全法第35条は、国家安全の維持や犯罪捜査のためのデータ取得について、厳格な承認手続きを経た法に基づく実施と、関係する組織・個人の協力を規定している。

データ安全法はデータの分類・等級別保護や重要データの越境移転も規定する。サイバーセキュリティ法には、重要情報インフラ運営者が中国国内で収集・生成した個人情報と重要データの国内保存などの規定がある。未公表の研究データを外部基盤で扱う場合は、契約主体、処理場所、データの種類に応じて、適用法と移転・開示の条件を確認する必要がある。

元記事: Tencent Hyra 2.0 Launches: Protein Models, Quantum Codes, Recursive Self-Improvement Loop

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