OpenAI・Anthropicで研究者の発言力強まる AI安全規制巡り経営方針に影響
2026年10月3日 23:46
OpenAIやAnthropicなど米大手AI企業で、研究者がAIの安全性や規制を巡る経営方針に強い影響を及ぼしている。希少な高度人材を巡る獲得競争を背景に、研究者の発言力は技術開発の現場だけでなく、企業の政治・規制戦略にも広がっているとAxiosが報じた。
Axiosによると、OpenAIやAnthropicなどの有力研究者の一部は、勤務先の方針を公然と批判し、AIの安全対策や政府による監督の強化を求めている。
AI人材の獲得競争が激化した2025年には、特に需要の高い研究者の報酬パッケージが数億ドル規模に達した例もあったという。報酬の権利確定条件で優遇を受けるほか、自社の研究成果や競合他社、AI開発競争について比較的自由に公に発言できる研究者もいる。
その影響は企業の政治活動にも及んでいる。Axiosによると、OpenAIのグレッグ・ブロックマン社長は、一部研究者から批判を受けていたAI推進派の政治団体に対する追加2500万ドルの寄付計画を取りやめた。
OpenAIの研究者や従業員は、州レベルのAI規制への同社の姿勢にも影響を与えたと説明している。同社はイリノイ州のAI安全法を支持しており、OpenAIは同州のSB315について、重大なリスクの評価や安全上の事故に関する透明性、内部告発者の保護などを重視した枠組みとして支持を表明している。
カリフォルニア州では、OpenAIが独立した安全性評価の仕組みを整えるSB813や、AI監査人の基準を定めるAB1405などを支持した。同州のギャビン・ニューサム知事は9月9日、両法案に署名した。SB813はAIシステムを独立して評価する機関の枠組みを設け、AB1405はAI監査人の州登録制度と独立性・透明性などの基準を定める。
OpenAIの広報担当者はAxiosに対し、社内では多くの議論があり、それは望ましいことだとしたうえで、政策姿勢を最終的に左右するのは、自社技術で確認していることや、その能力が進歩する速さだと説明した。
一方、OpenAIは10月1日、機密情報の取り扱いに関する社内規定に違反したとして、3人との雇用関係を終了した。OpenAIの広報担当者はCBS Newsに、調査の結果、3人が定められた手続きを外れて機密情報を扱い、社内規定と業務に不可欠な信頼に反したことが確認されたと説明した。CBS Newsによると、OpenAIは具体的にどの情報がどのように不適切に扱われたかは明らかにしていない。
Bloomberg Lawは関係者の話として、3人のうち2人は安全性・アラインメント研究者、1人は研究プログラムマネジャーで、一部の機密情報を外部のAI評価組織に提供した疑いがあると報じた。
AI企業の規制姿勢については、政府内でも見方が分かれている。Axiosによると、トランプ政権に近い関係者は、研究者の影響によってOpenAIが政策形成を主導する力を失ったとの見方を示した。一方、ホワイトハウス当局者はOpenAIを重要な協力相手と評価し、トランプ大統領とAI企業が結んだ最近の自主的なAI安全協定を挙げた。
この安全協定にはOpenAIやAnthropic、エヌビディア、メタ、アルファベットなどが参加し、内部管理や独立監査などの安全措置が盛り込まれた。法的な強制力を持たない自主的な枠組みで、規制のあり方を巡っては引き続き議論が続いている。
Anthropicでも研究者の存在が政府との関係に影響している。Axiosによると、同社と米国防総省は2026年初め、軍によるAI利用の条件を巡って対立した。国防総省側は軍が「合法的なあらゆる目的」でAIを利用できることを求めた一方、Anthropicは米国人に対する大規模監視と完全自律型兵器での利用について制限を維持する姿勢を示していた。
企業の枠を越え、研究者や従業員が政策に働きかける動きも広がっている。OpenAI、Anthropic、Googleなどを含むフロンティアAI企業の従業員による「Pacing the Frontier」と題する声明では、米政府に対し、AI開発の進歩を必要に応じて意図的に調整するための技術的・統治上の仕組みを国際的に整えるよう求めている。公式サイトでは現在、署名者は1,386人となっている。
Anthropicでは、研究者のジェイコブ・コクソン氏がAIの安全性への懸念を理由に退職した。Axiosによると、コクソン氏は株式報酬の権利確定を約2カ月後に控えながら退職し、同社の安全対策を公に批判した。Axiosは、その後Anthropicの複数の現職社員も同氏の懸念に賛同したと報じている。
AIの能力向上に伴い、安全性を巡る企業内部の議論は経営判断や政府との交渉にも関わる問題となっている。高度な専門知識を持つ研究者の希少性が高いなか、研究者と経営陣、政府の間でAI開発の速度と規制のあり方を巡る調整が続きそうだ。