『The Batman Part II』は何を「大胆に再解釈」するのか 洪水後のゴッサムと自警行為を読み解く

2026年9月8日 12:51

ロバート・パティンソンは、撮影中の『The Batman Part II(原題)』について、前作とは異なる方向に進む「大胆な再解釈」になると語った。物語の詳細や中心となる敵役は明かされていないが、洪水後のゴッサムを舞台に、一人の人間としてのブルース・ウェインをこれまで以上に掘り下げる作品になるとみられる。米国での劇場公開は2028年2月18日を予定しており、日本での正式名称や公開日は発表されていない。

■「大胆な再解釈」が示す続編の方向性

パティンソンは2026年9月、ベネチア国際映画祭で出演作『Primetime(原題)』の取材に応じた際、『The Batman Part II』について、マット・リーヴスが「素晴らしい脚本」を書いたと評価した。そのうえで、前作でバットマンを新たに作り直したところから、続編は「まったく異なる方向」へ進み、撮影映像を見ても前作とは違って見えると説明した。

さらに、リーヴスだからこそ許される「本当に大胆なバットマンの再解釈」だとも語った。ただし、どの物語や人物、出来事を再解釈するのかには触れておらず、この発言だけから具体的な展開を特定することはできない。

『The Batman Part II』の米国公開予定日は2028年2月18日で、2022年の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』から約6年後となる。前作は全世界で約7億7200万ドルの興行収入を記録した。続編は英国で撮影が進められており、パティンソンは戦闘場面の撮影が以前より厳しく感じられるとしながらも、作品への期待を語っている。

■洪水後のゴッサムを形作るインフラと格差

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の終盤では、リドラーの協力者たちがゴッサムを守る防潮設備を爆破し、市街地に大規模な浸水を引き起こした。バットマンはそこで、恐怖を与える「復讐」の象徴から、被災者を安全な場所へ導く存在へと変わり始めた。

ドラマシリーズ『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』は、その後も洪水の影響が残るゴッサムを描いている。被災地区では生活基盤の復旧が遅れ、既存の犯罪組織が弱体化して生じた空白を巡り、新たな権力争いが広がっていく。災害そのものに加え、復旧能力の違いが都市の分断を深める構図である。

現実の災害研究でも、被害や復旧の速度は地形や建物の状態だけで決まらない。所得、住宅事情、行政サービスへのアクセス、政治的な発言力といった災害前からの条件が、被災後の回復に影響する。こうした知見は、洪水後も地区によって異なる時間が流れるゴッサムを読み解く補助線になる。

■ゴッサムを使った災害レジリエンス研究

コロラド州立大学のHussam MahmoudとAkshat Chulahwatは、インフラ、社会、経済を統合して地域の災害レジリエンスを評価する数理モデルを構築し、架空都市ゴッサムを概念実証の対象に選んだ。研究成果は2018年に学術誌『Computer-Aided Civil and Infrastructure Engineering』へ掲載された。

このモデルは、災害や社会的混乱が都市の一部に与えた影響が、電力、水道、交通、住宅、医療などの相互依存する機能を通じて、空間的、時間的にどう広がるかを表現するものだ。ゴッサムの具体的な物語を分析した研究ではないが、都市を個別施設の集合ではなく、社会と経済を含む相互接続されたシステムとして捉えている。

この考え方を作品に重ねると、洪水で壊れたのは堤防や道路だけではないことが見えてくる。行政への信頼、治安を支える制度、地域社会のつながりも都市機能の一部であり、いずれかの弱体化が別の問題を拡大させる。『The Batman Part II』の冬のゴッサムは、こうした複合的な回復過程を描く舞台になり得る。

■ニューヨークの沿岸防災との共通点

ゴッサムは架空都市だが、その都市景観にはニューヨークを連想させる要素が多い。ニューヨーク市では、ハリケーン・サンディによる被害を受け、マンハッタン東側の沿岸部で「East Side Coastal Resiliency」事業が進められている。

総事業費14億5000万ドル規模のこの計画は、盛り土した公園、洪水防護壁、堤防、開閉式の防潮ゲートなどを組み合わせ、沿岸から連続する防護線を構築するものだ。2024年には北側区間が完成し、残る区間は2026年末までの完成が予定されている。

一方、大規模な高潮防護設備だけでは、あらゆる種類の都市型洪水に一つの仕組みで対応できない。高潮、海面上昇、集中豪雨による内水氾濫では、それぞれ必要な対策が異なる。巨大な設備だけに依存するのではなく、地域ごとの防護、排水、土地利用、避難計画を組み合わせることが重要になる。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が描いた防潮設備の破壊は、都市の安全を特定の施設へ集中させることの脆弱性を物語上で可視化したものと読み解ける。続編が洪水後のゴッサムを扱うなら、焦点は設備の復旧だけでなく、都市が失った機能と信頼をどう再構築するかに移る。

■災害後の犯罪をどう描くのか

大災害の直後に犯罪が急増するというイメージには注意が必要だ。ハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズでは、暴力犯罪が広範囲で多発したとの情報が報じられたが、後に根拠のない話や誇張が多く含まれていたことが検証された。

Jonathan Simonは2007年の論文で、こうした犯罪報道が救助活動を妨げ、避難者への偏見や排除を強めたと論じている。災害後の治安を描く際には、犯罪件数の変化と、犯罪への恐怖が報道や政治によって増幅される過程を分けて考える必要がある。

『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』の中心にあるのも、単純な「被災地の住民が犯罪に走る」という構図ではない。カーマイン・ファルコーネの死と洪水によって既存の秩序が揺らぎ、犯罪組織同士が空いた地位や資源を奪い合う。制度や権力の空白が新たな支配者を生むという犯罪ドラマである。

また、David McBrideによるカトリーナ後のニューオーリンズ研究は、復興政策や既存の制度が歴史的な人種・階級格差を再生産したと論じている。この観点を重ねると、洪水後のゴッサムは、犯罪との戦いだけでなく、誰が復旧の恩恵を受け、誰が取り残されるかを問う都市として見えてくる。

■ブルース・ウェインと道徳的傷害

前作のブルース・ウェインは、自らを「復讐」と名乗り、恐怖によって犯罪を抑えようとしていた。しかし、その言葉はリドラーの支持者にも共有され、終盤では同じ「復讐」を口にする襲撃者を目の当たりにする。自分が作り上げた象徴が意図しない意味で受け取られたことを知り、バットマンとしての役割を見直す転換点となった。

この心理を考える手掛かりの一つが「道徳的傷害」である。道徳的傷害とは、自らが深く信じる価値観に反する行為をしたり、それを止められなかったり、目撃したりした後に生じる心理的、社会的、精神的な苦痛を指す。軍人や退役軍人を対象とした研究から発展した概念だが、医療従事者や救急要員などを含む幅広い状況でも研究されている。

ブルースを臨床的に診断することはできないものの、自分の掲げた象徴が他者の暴力に利用されたと認識する展開には、道徳的傷害と共通する構造がある。問題は単に作戦に失敗したことではなく、自らの信念と行動が守ろうとした人々への害につながった可能性と向き合うことにある。

リーヴスは、続編ではバットマンだけでなく、その仮面の下にいるブルース・ウェインをより深く描く考えを示している。前作の結末で復讐から希望へと踏み出したブルースが、その変化を個人の決意だけでなく、都市との関係としてどう形にするかが重要になる。

■自警行為を支える制度不信

犯罪学では、自警行為は正式な司法制度への不信と結び付けて研究されている。Amy Nivetteが2016年に学術誌『Criminology』へ発表した研究は、ラテンアメリカ18カ国の323地域を対象に、暴力的な自警行為への支持を分析した。

その結果、自警行為への支持を強く予測した要因には、制度が正当ではないという主観的認識、犯罪被害の経験、懲罰的な態度が含まれていた。地域の殺人発生率で測った客観的な治安状況も一定の条件では関係していたが、制度を信頼できないという認識が重要な説明要因となっていた。

この共通構造は、バットマンが支持されるゴッサムの背景を理解する手掛かりになる。警察、司法、行政が腐敗し、市民が正規の制度では救われないと考えるほど、制度外の人物へ期待が集まりやすくなる。

一方、バットマンが個々の犯罪者を制圧しても、汚職、貧困、災害対応の格差、犯罪組織と政治権力の関係を一人で修復することはできない。『The Batman Part II』がブルース・ウェインをより前面に出すなら、暴力による介入とは異なる形で、彼がゴッサムに何を提供できるかも物語の焦点になり得る。

■未確認の敵役と出演陣

続編の中心となる敵役は、2026年9月8日時点で正式に発表されていない。リーヴスは、敵役に対するアプローチについて、映画ではこれまで本格的に扱われてこなかったものになるとの趣旨を語っているが、特定のキャラクター名は挙げていない。

撮影現場の写真や小道具を根拠に、コミックに登場する秘密結社「梟の法廷」が関係するとの説も出ている。ただし、撮影用の意匠だけで物語上の役割を判断することはできず、登場を裏付ける公式発表もない。

出演陣には、ブルース・ウェイン/バットマン役のロバート・パティンソン、ジェームズ・ゴードン役のジェフリー・ライト、アルフレッド・ペニーワース役のアンディ・サーキス、オズ・コブ役のコリン・ファレルら前作からの俳優が名を連ねる。新たにセバスチャン・スタン、スカーレット・ヨハンソン、チャールズ・ダンス、ブライアン・タイリー・ヘンリー、セバスチャン・コッホも参加している。

セバスチャン・スタンはハービー・デントを演じることを明らかにしている。コミックのデントは、ゴッサムの地方検事からトゥーフェイスへと変貌する人物として知られる。ただし、映画がコミックと同じ経緯を描くのか、続編の時点でどこまで物語が進むのかは分かっていない。

■バットマンからブルース・ウェインへ

リーヴス版のゴッサムでは、災害、格差、制度不信、組織犯罪が相互につながっている。バットマンはその都市で強い象徴になれるが、一人の自警者による行動だけでは、壊れたインフラや制度への信頼を回復できない。

前作の終盤で、バットマンは市民を恐れさせる存在から、暗闇の中で進路を照らす存在へと変わり始めた。続編がブルース・ウェインを深く描くなら、その変化を一時的な気付きで終わらせず、富と社会的立場を持つ一人の市民として、ゴッサムとの関係を再構築する過程が描かれる可能性がある。

パティンソンのいう「大胆な再解釈」が何を指すのかは、依然として伏せられている。それでも、洪水後の都市を舞台にバットマンではなくブルースへ踏み込むという方向性は、続編が問いかけるものを示している。ゴッサムを救うとは、犯罪者を倒すことなのか。それとも、犯罪と自警行為の双方を生み出す都市の条件に向き合うことなのか。『The Batman Part II』は、その答えを探る物語になりそうだ。

元記事: Batman Part II: Gotham Flood Science and Vigilante Psychology Explained

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