ベピコロンボ、水星軌道投入へ機器の健全性を確認 11月21日から到着運用

2026年11月7日 10:12

欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星探査計画「ベピコロンボ」が、2026年11月21日に予定する水星周回軌道投入へ向けて準備を進めている。ESAが公表した試験結果では、巡航用モジュールの分離後に科学機器の良好な状態が確認され、推進系による軌道修正にも成功した。

ESAの水星表面探査機(MPO)とJAXAの水星磁気圏探査機「みお」は、結合した状態で水星周回軌道へ入り、12月9〜10日に分離する予定だ。その後も軌道調整や機器の確認を進め、2027年4月の科学観測開始を目指す。

■約8年の航行を経て到着運用へ

ベピコロンボは2018年10月20日、フランス領ギアナのクールーからアリアン5ロケットで打ち上げられた。打ち上げ時の質量は推進剤を含めて4100kgで、ESAによると、2026年9月の巡航用モジュール分離までに約99億kmを航行した。

名前の由来は、イタリアの数学者・工学者ジュゼッペ・コロンボだ。1970年にNASAのマリナー10号の軌道計画に関わり、水星への接近を当初予定の1回から3回へ増やす航法の実現に貢献した。

航行を支えた水星輸送モジュール(MTM)は、2026年9月3日に分離された。以後はMPOが、自機と結合中の「みお」への電力供給や、水星到着に必要な推進を担っている。

MTMの分離によって、それまで構造物に遮られていた一部の科学機器の視野も開けた。観測チームは水星周回時に使う構成で機器を作動させ、長期間の航行を経た状態を調べている。

■レーザー高度計と赤外分光計を試験

ESAが10月6日に公表した更新情報によると、MPOの全科学機器をMTM分離後に初めて同時起動したのは9月15日だった。初期解析では、機器は良好な状態を示した。

ドイツ航空宇宙センター(DLR)やベルン大学などが開発したレーザー高度計BELAは、9月14日に宇宙空間で初めてレーザーを作動させた。翌15日には約21.5時間にわたって稼働し、70万発を超えるパルスを宇宙空間へ放出した。

この試験では、放出したレーザー光の一部を機器内部で受信側へ導き、レーザーと受信系の状態を調べた。DLRはレーザーと機器全体が極めて良好な状態にあると報告しており、ESAは2016年の地上での全面試験以来の健全性確認として紹介している。

DLRとミュンスター大学が主導する水星放射計・熱赤外分光計MERTISも、9月15日に本来の惑星観測用開口部を使って深宇宙を観測した。22時間の性能試験では、惑星観測用と較正用の両方の光路を通じて約1ギガビットのデータを取得した。

DLRによると、初期解析では、分光計の感度は2013年の低温環境での地上較正と比べてほとんど低下していなかった。MERTISは巡航中にも較正用の光路を使って月、金星、水星を観測しており、今回は開放された惑星観測用の光路で性能を確かめた。

イタリア宇宙機関(ASI)によると、分光・撮像複合機器SIMBIO-SYSも9月15日に最終構成で3つの光学チャンネルを作動させ、宇宙空間で初めて画像を取得した。立体視、高解像度撮像、表面組成の観測を組み合わせる機器で、チームは科学観測に向けて運用条件の調整を進めるとしている。

■推進系は9月24日の軌道修正に成功

MPOは9月24日、MTM分離後の構成で初めて軸方向のスラスターを試験した。ESAの9月28日の報告では、噴射は8分42秒続き、毎秒11.4mの速度変化を与えた。

ドイツ・ダルムシュタットの欧州宇宙運用センター(ESOC)では、スペインのセブレロス深宇宙地上局を通じて電力、温度、圧力、加速度、ドップラー観測データを監視した。これはMTM分離後、最初に計画された軌道修正であり、11月の軌道投入へ向けてさらに小規模な修正機会が設けられている。

MPOの軌道変更用推進系には、22ニュートン級の二液式スラスターが使われる。巡航を担ったMTMのイオン推進とは異なり、燃料と酸化剤を使う化学推進で、水星周回軌道への移行や、その後の軌道縮小を担う。

運用チームの訓練も並行して進められた。ESAによると、ESA、JAXA、産業界の関係者は6月にシミュレーションを開始し、10月末まで実施する計画を組んだ。分離運用の途中で異常が発生し、予定を中止して組み直す想定も含まれていた。

■11月の捕捉から2027年春まで続く軌道調整

11月21日には、結合したMPOと「みお」が水星の重力に捕捉され、最初の大きな楕円軌道へ移る予定だ。到着は、探査機の分離と推進系の噴射を順番に進める、数カ月にわたる運用となる。

探査機の設計資料では、水星と太陽の重力を利用して初期捕捉へ導き、化学推進で軌道を安定させて縮小する方式が採られている。ESAが公表した運用計画では、11月21日から2027年3月までに計16回の噴射を実施する。

遠距離での運用には通信の遅延も伴う。例えば、DLRが9月のBELA試験について報告した地上と探査機の電波伝搬時間は片道約11分で、指令を送って反応を確認するには往復分の時間が必要だった。到着運用でも、事前に準備した手順と探査機側の自動制御が重要になる。

「みお」の分離後、MPOは巡航中に「みお」を熱から守ってきたサンシールド兼結合構造(MOSIF)を12月16日に分離する予定だ。MOSIFはMPO、MTMとともにESAが提供し、「みお」の開発・運用はJAXAが担当する。

■メッセンジャーの成果を引き継ぐ観測

NASAの探査機メッセンジャーは、2011年から2015年まで水星を周回した。NASAは2016年、その撮像データを使った水星初の全球数値標高モデルを公開している。ベピコロンボは、レーザー測距や赤外分光などを組み合わせ、地形と組成をさらに詳しく調べる。

BELAは、地表へ照射したレーザーパルスが戻るまでの時間から距離を求める。メッセンジャーのレーザー高度計MLAは、軌道の形状によって主に北半球と赤道付近を観測した。BELAは南半球を含む全球規模の地形観測を目指し、立体視画像と併せて衝突盆地、火山地形、地殻変動の研究に役立てる。

BELAは地形に加え、水星の自転状態や、潮汐力による表面の変形も測定する計画だ。これらは惑星内部の構造や性質を調べる手掛かりになる。

MERTISの分光計は波長7〜14マイクロメートル、放射計は7〜40マイクロメートルを観測する。可視光・近赤外域の反射光を調べたメッセンジャーのMASCSに対し、MERTISは地表からの熱放射を使って鉱物組成や温度、熱的性質を探る。水星周回軌道で初めて行う熱赤外分光観測となる。

鉱物は熱赤外域に特徴的なスペクトルを示す。クリスチャンセン効果や、結晶が強く赤外線を反射する反射帯などの特徴が、組成を読み解く手掛かりになる。MERTISは室温付近で動作する非冷却型のボロメーター検出器を採用し、温度を安定させながら較正を繰り返して測定する。

MPOには電波科学実験MOREも搭載される。地上との電波の往復時間や周波数の変化を精密に測り、水星の重力場、自転状態、軌道を調べる。一般相対性理論の検証にも使われ、研究チームのシミュレーションでは、重力理論を表すパラメーターの一つであるγについて、周回観測で約100万分の1の測定精度を目指している。

■9回のスイングバイと航路の変更

水星へ向かう探査機は、地球の公転運動に由来するエネルギーを持ち、太陽に近づくにつれてその重力で加速する。水星に捕捉される速度へ調整するには大きな減速が必要になるため、ベピコロンボは電気推進と惑星の重力を使うスイングバイを組み合わせた。

実施したスイングバイは、2020年4月の地球での1回、2020年10月と2021年8月の金星での2回、2021年10月から2025年1月までの水星での6回だ。計9回の接近で進行方向や太陽周回軌道を調整し、水星への到着条件を整えてきた。

MTMは太陽電池から電力を得て、QinetiQ製T6イオンスラスター4基を使う推進系で航行した。電力の調整・分配には、デンマークのTermaが開発・製造した装置が使われている。

2024年4月にはMTMから推進系へ十分な電力を供給できない問題が発生した。ESAは同年5月、推力を従来の約90%まで回復したと発表した。その後、太陽電池と電力を取り出して分配する装置の間で予期しない電流が見つかり、電気推進に使える電力が減っていることが機上データから示された。

ESAは同年9月、低下した推力に合わせて航路を変更し、水星到着を2025年12月から2026年11月へ延期すると発表した。変更後も科学観測の目標を維持する計画だ。米惑星協会が2018年に紹介した費用規模では、ESAとJAXAの負担を合わせて16億5000万ユーロ(約2920億円)とされていた。

■2機の同時観測で水星の内部と宇宙環境を探る

「みお」は毎分15回転するスピン安定方式の探査機で、水星の磁場、プラズマ、電磁波などを調べる。予定する極軌道の高度は約590〜1万1640km、周期は約9.3時間で、惑星近傍から磁気圏外縁にかけての環境を観測する。分離後はJAXAが運用を担う。

MPOは化学推進でさらに軌道を下げ、高度約480〜1500km、周期約2.36時間の極軌道へ移る計画だ。ESAが9月に公表した工程では、観測用の最終軌道への到達を2027年3月19日としており、4月に両探査機の科学観測を始める予定となっている。

基本となる観測期間は地球時間で約1年で、水星の公転約4回分に相当する。ESAの運用計画には、2029年12月末までの延長観測も検討対象として示されている。

水星の大きな謎の一つが、惑星の大きさに対して巨大な金属核だ。NASAは核の半径を惑星半径の約85%と説明している。核の構造や磁場を生む仕組み、極域の永久影に存在する水氷の起源は、水星の形成と進化を考える重要な課題となる。

水星の表面温度は昼側で約427℃、夜側で約マイナス173℃まで変化する一方、極域の永久影には氷を保存できる低温環境がある。MPOと「みお」は地形・組成と磁場・宇宙環境をそれぞれ観測し、水星の姿を多方面から捉える。

JAXAは、2地点から同時に磁場を測ることで、水星内部に由来する磁場と、太陽風による変動を切り分けることを目指している。到着運用を経て実現する2機の共同観測が、メッセンジャーの成果をさらに発展させることになる。

元記事: BepiColombo Clears Every Pre-Burn Hardware Check in Final 16 Days Before Mercury Orbit Insertion

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