ISS、最後のiROSA設置完了 5年超の太陽電池アレイ増設に区切り

2026年11月7日 10:12

NASAのアニル・メノン宇宙飛行士とカナダ宇宙庁(CSA)のジョシュア・クトリク宇宙飛行士は、米東部標準時2026年11月5日、国際宇宙ステーション(ISS)で8基目かつ最後となる新型太陽電池アレイ「iROSA」の設置・展開を完了した。2021年に始まった電力増強作業が、5年以上を経て完了した。

NASAによると、増設によってISSの発電能力は約160kWから約215kWへ高まる。同庁は増強幅を最大約30%と説明しており、研究や商業利用、運用終盤の重要な設備を支える電力基盤となる。

■ロボットアームと受け渡しで最後の設置地点へ

今回の米国船外活動「EVA-101」は、11月5日13時36分UTC(日本時間同日22時36分)に始まり、6時間59分後の20時35分UTC(日本時間6日5時35分)に終了した。設置先は、ISS右舷側の骨組みであるS6トラスの3B電力系統だ。

NASAの記録では、今回の作業はISSの組み立て、保守、更新を支える286回目の船外活動に当たる。メノンにとって通算5回目、クトリクにとって2回目だった。船内ではNASAのジェシカ・ワトキンス、ルーク・デラニー両宇宙飛行士がロボットアーム「カナダアーム2」を操作した。

Spaceflight Nowによると、3Bの設置地点はロボットアームだけでは届かない位置にある。そこでメノンが質量約340kgのアレイを抱えてアームで近づき、トラスに固定した足部拘束具を使うクトリクへ受け渡した。メノンも足場を移して再びアレイを受け取り、取付位置へ運ぶ手順を採った。

船外活動フライトディレクターのギャレット・ヘンは、この受け渡しを「リープフロッグ」と呼んでいる。アームによる輸送と、宇宙飛行士がトラス上で姿勢を固定して行う作業を組み合わせ、最後の距離を埋める方法だ。3B用の取付金具は、2026年8月6日にジェシカ・メイアとメノンが行った船外活動で準備された。

設置では折り畳まれたアレイを開いて固定し、既存アレイが発電しない地球の影の時間帯に電力ケーブルを接続した。Spaceflight Nowの作業報道によると、途中で電流が想定を下回ったため、クトリクが接続部を点検して再接続した。その後、アレイを展開し、電力増強作業を完了した。

■既存アレイを生かして発電能力を補う

ISSの既存の太陽電池アレイ8翼は、2000年から2009年にかけてスペースシャトルで運ばれた。設計上の運用寿命は15年で、最初の1対は2000年12月から発電を続けている。NASAは、長期運用に伴って予想された性能低下が現れていると説明してきた。

宇宙空間では、放射線や日照・日陰の繰り返しに伴う温度変化にさらされる。ISSでは居住設備や運用機器に加え、科学実験や商業活動にも電力が必要になる。iROSAは、既存設備の経年変化を補い、こうした需要に対応するための増設だ。

NASAとISS運用の主契約企業ボーイングが採ったのは、既存アレイの手前に小型で高効率のアレイを取り付ける方式である。Spaceflight Nowによると、新アレイは既存アレイから約10度傾けて配置される。既存の太陽追尾機構や電力系統を活用しながら、新旧の設備を組み合わせる設計だ。

新アレイは既存アレイの半分強を覆うが、覆われていない部分は引き続き発電する。NASAと製造企業Redwireによると、iROSA自体の発電能力は1基当たり20kW超だ。ISS全体の増強幅は、新アレイの出力と、部分的に影になる既存アレイの出力を合わせて決まる。

■巻き取った支持材のエネルギーで展開

iROSAは「ISS Roll-Out Solar Array」の略称で、巻き取り式の太陽電池アレイを意味する。その基盤となるROSA技術は、炭素繊維複合材の支持材と、柔軟なシート状の太陽電池を組み合わせている。NASAの技術資料では、支持材は長手方向に切れ目のある管状の構造として説明されている。

収納時には支持材を平らにして巻き取り、変形による「ひずみエネルギー」を蓄える。拘束を解除すると、ばねのように元の形へ戻る力で支持材が伸び、太陽電池シートを引き出す。展開の駆動源にモーターを使わず、収納時に蓄えた機械的なエネルギーを利用する仕組みだ。

ヘンは10月20日の説明会で、アレイをスナップブレスレットになぞらえ、側面に磁石を備える構造や、約10分で巻き出される展開工程を説明した。NASAは、複合材の支持材を使う方式について、展開機構の部品数や複雑さを抑え、機構の詰まりやモーター故障に関わるリスクを減らせるとしている。

輸送時にはアレイを巻き取り、さらに折り畳むことで、SpaceXのドラゴン補給船の非与圧トランクへ収める。折り畳み時の約3mから開いた約6mは、展開後のアレイの幅に当たる。NASAが示すアレイの展開寸法は、長さ約18.2m、幅約6mだ。

NASA宇宙技術ミッション局は、ROSA技術全般について、寸法に応じて1枚当たり30kW超を発電できる設計も紹介している。コンパクトに収納でき、用途に応じて大きさを変えられることが、ISS以外の宇宙機への展開にもつながっている。

■2021年から重ねた設置作業

NASAによると、電力増強のための船外作業は2021年2月に始まった。取付設備の準備と8基のアレイ設置のため、計18回の船外活動を実施した。当初は6基を設置する計画で、その後に2基が追加された。

最初の2基は2021年6月、ドラゴン補給ミッション「CRS-22」で打ち上げられた。シェーン・キンブローとトマ・ペスケがP6トラスの2B、4B系統への設置を担当した。2B用は6月16日に取り付け作業を行い、接続・展開は20日に完了し、4B用は25日に設置・展開された。

次の2基は2022年11月のCRS-26で運ばれた。ジョシュ・カサダとフランク・ルビオが、同年12月3日にS4トラスの3A系統、22日にP4トラスの4A系統へ設置した。

2023年6月のCRS-28で届いた2基は、スティーブ・ボーウェンとウォーレン・ホーバーグが設置した。6月9日はS4トラスの1A系統、15日はS6トラスの1B系統が対象だった。これにより、2023年6月までに6基がそろった。

最後の2基は2026年10月のCRS-35で運ばれた。メノンとクトリクは10月29日、7時間11分の船外活動でP4トラスの2A系統に7基目を設置・展開した。その際に最後のアレイの準備作業も進め、11月5日の3B系統への設置につないだ。

■作業を担った米国とカナダの宇宙飛行士

メノンは50歳の救急医で、米宇宙軍大佐でもある。NASAの2021年宇宙飛行士候補生に選ばれ、2026年7月にソユーズMS-29でISSへ向かった。NASAに宇宙飛行士として加わる前は、SpaceX初のフライトサージャンとして、同社初の有人飛行などを支えた。

ハーバード大学で神経生物学の学士号、スタンフォード大学で機械工学の修士号と医学の学位、テキサス大学メディカルブランチで公衆衛生学修士号を取得している。医師としての経験と機械工学の専門性を持つ宇宙飛行士だ。

クトリクは44歳で、カナダ空軍大佐、テストパイロット、エンジニアとしての経歴を持つ。アルバータ州フォートサスカチワン出身で、2009年の宇宙飛行士選考を経て、2017年にCSAに選抜された。CSAの略歴によると、40機種超で4000時間超の飛行経験を持ち、米空軍テストパイロット学校を卒業している。

クトリクは米東部時間10月1日、日本時間2日にCrew-13でISSへ到着した。10月29日の初めての船外活動で、船外活動を行った5人目のカナダ人となり、カナダ人による船外活動は2019年のデイビッド・サンジャック以来となった。SpaceQによると、クトリクは初回の作業後、ISSでの活動を深宇宙探査や将来の月面での船外活動につながる一歩と位置付けた。

■運用終盤を支え、ほかの宇宙機にも広がる技術

NASA低軌道プログラムの運用統合マネージャー、ゴーラン・パテルは10月20日の説明会で、増強した電力がISSの残りの運用期間における重要な活動を支え、安全で制御された軌道離脱にも役立つと説明した。ISSでは2030年までの運用と、その後の制御された大気圏再突入に向けた準備が進む。

NASAは2024年6月、専用の米国軌道離脱機の開発・引き渡し先としてSpaceXを選定した。契約額は最大8億4300万ドル(約1330億円)で、打ち上げサービスは別途調達する。ドラゴンを基にした専用機で、質量約42万kgのISSを、人が住む地域を避けた海域への再突入へ導く計画だ。

Spaceflight Nowによると、SpaceXのサラ・ウォーカーは2024年7月、軌道離脱機には通常のドラゴンの3〜4倍の発電・蓄電能力が必要になると説明した。ISSの電力増強と並行して、運用終了に必要な専用機の開発も進められている。

ROSA技術はDeployable Space Systemsが開発し、同社は2021年にRedwireに買収された。2017年にはISSで展開技術を実証し、2021年に打ち上げられたNASAの小惑星軌道変更実験「DART」でも採用された。ISSでの増設は、巻き取り式アレイを実際の宇宙機で運用する経験を積み重ねる機会にもなった。

ROSAは月周回拠点「Gateway」の電力・推進要素(PPE)にも採用され、2基で計60kWを発電する設計が進められていた。NASAは2026年3月、Gatewayを現行の形では一時停止し、月面での持続的活動を支える設備へ重点を移す方針を発表した。関連機器の転用も検討されており、ISSで培われた展開型電源の技術は、次の用途へ受け継がれていく。

元記事: ISS Solar Array Upgrade Complete: NASA Installs the Final Panel in a Five-Year Push That Raised Station Power 30%

関連記事

最新記事