インド・マディヤプラデシュ州で先端半導体実装計画 Parasが約1030億円投資を提案
2026年10月25日 13:41
インド中部のマディヤプラデシュ州が、半導体の設計・製造・実装産業の誘致を進めている。インドールで10月23~24日に開催された半導体サミットで紹介された主要計画の一つが、Paras Semiconductorsによる620億ルピー(約1030億円)規模の先端パッケージング施設だ。
同社は2.5D/3D実装や異種集積技術を導入する方針を掲げる。まずセンサー、光学・光電子システム、防衛などの戦略用途に取り組み、将来のAIチップ分野への展開も視野に入れる。
■620億ルピー(約1030億円)の施設計画と州の投資誘致
Paras Defence and Space Technologiesは7月22日、子会社Paras Semiconductorsが州科学技術局を代表するマディヤプラデシュ州電子開発公社(MPSeDC)と覚書を締結したと発表した。インドール―ウッジャイン地域に、半導体後工程の組み立て・試験を請け負うOSAT施設を新設する計画だ。
提案投資額は620億ルピー(約1030億円)で、州政府は同回廊に50エーカーの用地を割り当てた。計画する工程には、3D異種集積、2.5D/3D先端実装、ハイブリッド接合、超高密度ファンアウト実装、チップレット集積、ウエハーバンピング、フリップチップ組み立て、試験・信頼性評価が含まれる。
PTI通信によると、モハン・ヤダブ州首相はサミット初日の23日、約1000億ルピー(約1660億円)の投資を提案する5社に用地を割り当てたと説明した。さらに5社から580億ルピー(約963億円)の新規提案を受け、合計の投資見込み額を1580億ルピー(約2620億円)とした。
この総額は、用地割り当て案件と新規提案を合わせた投資見込みである。Parasの施設も、7月に公表された覚書に基づく計画として位置付けられる。実際の生産拠点づくりでは、資金調達、技術導入、設備設置、顧客による認定などが重要になる。
■防衛・センサー用途を足掛かりに事業を拡大
Paras Semiconductorsは2026年2月27日に設立され、Paras Defenceが株式の70%を保有する。設立時の開示では、AI、高性能コンピューティング、ネットワーキング、データセンター用途に向けた先端異種集積・3D実装事業を掲げていた。
7月の施設計画発表では、当面の対象をセンサー技術、光学・光電子システムなどの戦略用途と説明した。AIチップなどへの拡張は、市場機会に応じた将来の展開としている。
NDTV Profitによると、Paras Defenceのアミット・マハジャン取締役は、当初は高付加価値・少量生産のチップを対象に、2.5D/3Dを含む先端実装から段階的に事業を進めると説明した。同社には米国の提携先があり、欧米企業との追加提携も検討しているという。
親会社のParas Defenceは2009年設立で、インドのNSEとBSEに上場する。光学・光電子システム、防衛用電子機器、通信・指揮制御システム、宇宙向け光学機器、電磁パルス防護装置、ミサイルや艦艇などに使う精密部品を手掛ける。半導体への進出は、こうした防衛・宇宙分野の顧客や精密製造の経験を生かす取り組みとなる。
7月の発表で、Paras Semiconductorsのサントシュ・クマールCEOは、インドの半導体産業の次の成長には、生産能力とともに周辺の産業基盤の強化が重要だと述べた。Paras Defenceのムンジャル・シャラド・シャーManaging Directorも、覚書の締結を国内半導体能力の構築に向けた節目と位置付けた。
■2.5D・3D実装がチップの性能を支える仕組み
半導体の後工程では、ウエハーから切り出したダイを組み立て、電気的に接続し、保護したうえで試験する。金、アルミニウム、銅などの細線を使うワイヤボンディングは、その接続方法の一つだ。QFNやSOICなどは、自動車、民生機器、産業機器で使われる代表的なパッケージである。
2.5D実装では、複数のダイをインターポーザと呼ばれる中継基板上に並べ、高密度の配線で結ぶ。シリコン、ガラス、有機材料などを使う方式があり、GPUとHBM(広帯域メモリー)を短い距離で接続する構成が代表例だ。接続を高密度化することで、演算部とメモリー間の大きなデータ転送量を支える。
シリコンインターポーザでは、ダイ間の信号は主に面内の微細配線を通り、シリコン貫通電極(TSV)は厚さ方向の接続を担う。積層メモリー内部でもTSVが使われる。横方向の配線と縦方向の接続を組み合わせることが、高密度な実装の要点だ。
TSMCのCoWoSは、こうした2.5D先端実装技術の代表例で、シリコンインターポーザを使う方式に加え、再配線層を使う方式などがある。NVIDIA H100やAMD Instinct MI300XのようなAIアクセラレーターでは、毎秒テラバイト級のメモリー帯域が重要になる。AMDによると、MI300Xは8基のHBM3スタックを搭載し、ピークメモリー帯域は毎秒5.3テラバイトに達する。
3D実装では、ダイを垂直に積み重ね、TSVやハイブリッド接合などを組み合わせて接続する。AMDの3D V-Cacheは、プロセッサとキャッシュメモリーを積層する商用例だ。異なる機能や製造プロセスのダイを一つにまとめる異種集積は、ロジック、メモリー、センサーなどを用途に応じて組み合わせる設計につながる。
こうした実装には、精密な位置合わせと接合、微細配線形成、接合部を保護するアンダーフィル材や封止材、放熱・反りの管理が必要になる。採用方式に応じて、ダイ・ツー・ウエハー接合装置、熱圧着装置、露光装置などを整え、安定した品質と歩留まりを確保する技術が求められる。
■中央政府の支援制度と2035年の目標
インド政府は7月15日、半導体産業支援の第2段階となるSemicon 2.0を承認し、8月31日に制度を告示した。先端パッケージングと従来型パッケージングで、対象となる設備投資への支援率を分けている。
官報によると、2.5D/3D実装、ウエハーレベル・チップスケール・パッケージング、異種集積などの先端実装・先端基板は、適格設備投資額の35%が支援対象となる。従来型パッケージングの支援率は25%だ。
両区分とも、提案する工程について生産水準の技術を自社で保有するか、ライセンスにより保有することが要件となる。最低投資額は100億ルピー(約166億円)で、申請前の3会計年度のいずれかに、グループ企業や合弁会社を含めて20億ルピー(約33.2億円)以上の売上高が必要だ。施設計画を具体化する企業には、技術と事業の双方で要件を満たす準備が求められる。
政府の政策シンクタンクNITI AayogのFrontier Tech Hubは、5月に公表したロードマップで、2035年までにOSAT・先端パッケージングの世界上位3拠点を目指す構想を示した。2.5D/3D集積、チップレット、ファンアウト・ウエハーレベル実装、パネルレベル実装などを重視し、設計と実装を一体で育てる方向を打ち出している。
市場拡大も背景にある。Grand View Researchが2026年に公開した予測では、世界の先端パッケージング市場は2025年に417億ドル(約6兆5500億円)、2026年は439億ドル(約6兆8900億円)と推計され、2033年には660億ドル(約10兆4000億円)に成長する見通しだ。AIや高性能コンピューティング、小型化への需要が成長要因とされている。
■州の補助金と用地を組み合わせた誘致策
マディヤプラデシュ州は2025年2月、半導体政策2025を承認した。中央政府が承認した対象案件には、適格設備投資額の25%、または中央政府が承認した補助額の50%のうち、低い方を州が支援する。
中央政府の承認を受けていない案件では、ウエハー製造以外の対象製造事業に、適格設備投資額の40%を上限15億ルピー(約24.9億円)で支援する。支給は5年間の均等分割となる。ウエハー製造には別の規定があり、案件の区分によって支援条件が異なる。
利子補給は年6%または実際の適用金利の低い方で、商用操業開始から5年間、累計上限1億ルピー(約1.66億円)となる。用地に関する支援に加え、操業開始後10年間は電力使用量1キロワット時当たり2ルピー(約3.32円)の料金補助を設けている。
州は用地と政策支援を組み合わせ、インドール―ウッジャイン地域やボパールへの企業誘致を進める。Indian Mastermindsによると、ヤダブ州首相は9月にニューデリーのYashobhoomiで開かれたSEMICON India 2026で州パビリオンを訪れ、国内外の企業と協議した。日本、韓国、米国企業の代表を含む産業団体の代表団とも面会している。
■実装から設計、フォトニクス、量子技術まで
サミットの会場はインドールのBrilliant Convention Centreだった。The Tribuneによると、事前に公表されたプログラムには、8件のパネル討論、5件の円卓会議、2件の基調講演が組まれ、50社超による展示が予定されていた。
初日の議題は、先端パッケージング・試験拠点の形成、製造設備を持たず設計に特化するファブレス企業の育成、半導体製造のサプライチェーンなどだった。円卓会議では、データセンター向けAIインフラ、ファブレス製品、知的財産、教育機関との連携を取り上げる構成とされた。
2日目の議題は、AIとチップ技術、電子機器製造、設計サービス、研究開発、人材育成に広がった。The Times of Indiaによると、24日の閉幕に向けた討論では、AIを活用したチップ設計や、フォトニクス、量子技術、中小・零細企業の供給網への参加が取り上げられた。
スタートアップ競技会も開催され、IIT IndoreのIITI DRISHTI CPS Foundationが知識・技術評価パートナーを務めた。同財団が示した対象分野は、半導体・チップ設計、電子・組み込みシステム、半導体製造・実装、パワーエレクトロニクス・先端材料、センサー・フォトニクス、AI・スマート半導体技術、IoT・エッジ技術、その他の関連技術である。
■国内各地で進む半導体拠点づくり
グジャラート州サナンドでは、Micron Technology、Kaynes Semicon、CG Semiが後工程の生産基盤を整えている。Micronは2月28日、DRAM・NANDウエハーをメモリー・ストレージ製品に仕上げる施設の開設と商用生産開始を発表した。Kaynes Semiconも、パワー半導体のマルチチップモジュールの組み立て・出荷を公表している。
CG SemiはCG Power、ルネサス エレクトロニクス、タイのStars Microelectronicsによる合弁会社で、7月4日にサナンドのG1施設で商用生産を開始したと発表した。同社はQFN、SOIC、BGAに加え、フリップチップ方式のパッケージなどを扱う方針を示している。
先端実装への投資は他州でも進む。インド電子情報技術省によると、オディシャ州では米3D Glass Solutionsのインド子会社が進める3D異種集積・ガラス基板を用いた先端実装施設が4月19日に起工した。商用生産は2028年8月、全面的な量産は2030年8月を目標としている。
ウエハー上に回路を形成する前工程では、Tata Electronicsが台湾PSMCと組み、グジャラート州ドレラに工場を建設している。Bloombergの7月報道によると、商用稼働の見込みは2028年半ばだ。Tata側は、55nmと90nmから開始し、その後28nmを導入する計画を説明しており、自動車や産業機器などで使われる成熟プロセスの生産基盤を築く。
Business Todayは9月、先端実装がインドの半導体産業への参入を早める可能性を指摘した。同誌が取材した専門家は、歩留まりの改善、顧客認定、工程技術の蓄積を重視し、先端基板、材料、設備、経験ある技術者の国内供給基盤を課題に挙げている。
マディヤプラデシュ州の取り組みも、こうした国内各地の能力形成に加わるものとなる。Parasの計画では、防衛・センサー用途で培う実装能力を、将来のAIや高性能計算用途へどう広げるかが焦点だ。州の投資提案を継続的な生産へつなげるには、技術提携、顧客の確保、人材育成、電力・水・物流などの基盤整備を並行して進める必要がある。
元記事: Madhya Pradesh Bets $655M on India’s First 3D AI Chip Packaging Facility