米Odyssey、単一の基盤モデルでロボットや車などを制御する「Odyssey-3」を発表
2026年9月18日 16:23
米AIラボのOdysseyは2026年9月15日、ロボットアーム、ヒューマノイド、自動車、ドローン、ゲームの操作方策に共通の基盤モデルを利用する「Odyssey-3」を発表した。対象ごとに小規模なアクションデコーダーや制御方策を学習させる一方、事前学習済みのバックボーンは固定する設計だ。
同社は、シミュレーションデータだけで学習した運転方策をインドの公道で走行させたほか、ロボットアームやヒューマノイド、ドローン、ゲームでの実験結果を示した。ただし、公開された数値やデモはOdysseyによる評価であり、モデルの規模、絶対的な走行性能、試行回数など、外部から性能を比較するための詳細は明らかにされていない。
■身体ごとの学習負担を減らす共通バックボーン
ロボットや車両の制御モデルは、機体、センサー、操作体系、タスクが変わるたびに、専用データの収集や個別の学習が必要になることが多い。Odyssey-3は、視覚的な観測から環境の変化を学習した共通バックボーンを固定し、対象ごとの制御部分だけを学習することで、この負担を減らすことを目指す。
Odyssey-3は、自己回帰的に時間方向の変化を予測する仕組みと、拡散モデルによる生成を組み合わせたTransformerとして説明されている。観測と行動を組み合わせたデータから、環境の状態が時間とともにどう変わるかを表現し、その内部表現をアクションデコーダーが各機体の操作へ変換する。
例えば、ロボットアームでは把持や関節の動作、自動車では進行方向を示すウェイポイント、ドローンでは飛行経路を出力する。言語モデルで大規模な事前学習済みモデルを固定し、比較的小さな追加部分を目的別に学習する手法と、情報処理の構造に共通点がある。
もっとも、共通バックボーンだけで各機体を直接操作できるわけではない。実際の制御には、対象となる機体の観測と行動を対応付けたデータや、個別の制御方策を開発する作業が必要になる。Odyssey-3の特徴は、この適応過程でも基盤モデル自体を更新しない点にある。
■20時間のシミュレーションデータで公道走行
自動運転の実験では、20時間分のシミュレーションデータを用いて制御方策を学習させ、インドの公道で閉ループ走行を行った。閉ループ走行とは、車両が走行中の観測を基に次の動作を決め、その結果を再び入力として制御を続ける方式である。
Odysseyによると、シミュレーションだけで学習した方策は、実際の走行映像で学習した同社の方策と比べ、安全運転者が介入するまでの走行距離が約77%だった。両方の方策は、追い越し車両、カーブ、混雑した交差点などを含む道路で評価されたという。
この77%は、商用の自動運転システムや業界標準のベースラインとの比較ではない。Odysseyが同じ基盤モデル上で構築した、学習データの異なる2種類の方策を比較した相対値である。
また、発表では介入までの絶対的な走行距離、走行ルート、試行回数、結果のばらつきなどは示されていない。このため、現段階では、限定されたシミュレーションデータから実道路で動く方策を構築できたことを示す結果であり、実用段階の自動運転性能を示す指標ではない。
この実験は、シミュレーションで学習した方策を現実の環境へ移す「sim-to-real」の問題に対する一つのアプローチとなる。シミュレーターの再現性だけを高めるのではなく、実世界の視覚観測で事前学習した表現を制御方策の土台にするという発想だ。77%という結果に事前学習がどの程度寄与したかを判断するには、条件をそろえた比較や独立した再現評価が必要になる。
■ロボットアームとヒューマノイドで復帰動作を確認
ロボットアームの実験では、数十時間分のデモデータを使い、物体の移動、容器への投入、清掃など複数段階のタスクを学習させた。Odysseyは、把持に失敗した後にグリッパーの向きを変えたり、通常とは異なる位置に落ちた物体を取り直したりする動作が見られたとしている。
これらの復帰動作は、事前学習した表現が、デモに含まれない状態への対応に役立つ可能性を示す。ただし、どの程度の頻度で成功したかを示す数値は公表されていない。Odysseyは、ロボットデータと方策の分析を手掛けるPoke & Wiggleと協力し、異なる機体、カメラ視点、制御方式で評価を進めている。
ヒューマノイドでは、ロボット学習と全身制御を開発するFlexionと協業した。FlexionはOdyssey-3を基盤として、数十時間分の遠隔操作データからヒューマノイド向けの制御方策を構築した。
Odysseyによると、この方策はリアルタイムでタスクを実行し、同社が比較した視覚・言語・行動モデルのベースラインよりも照明変化への耐性が高かった。ベースラインが失敗した照明条件でも動作を継続したという。ただし、対象タスクや比較条件を含む体系的な成功率は示されていない。
Flexionの共同創業者兼CEOであるNikita Rudinは、「Odyssey-3で期待しているのは、ロボット自身のデモをはるかに超えて獲得された物理知識を基盤にできることだ。その基盤と、ヒューマノイドの学習・制御に関する研究を組み合わせることで、ロボットが有用なスキルを獲得し、未知の状況へ適応する速さに新たな可能性が開ける」と述べている。
この実験にはFlexionによる制御方策の研究開発が含まれる。したがって、結果はOdyssey-3がヒューマノイド向け制御の共通基盤として利用できる可能性を示すものであり、基盤モデルだけで適応作業なしにロボットを操作したことを意味するものではない。
■ドローンはシミュレーション、ゲームでは長時間操作も
ドローンの実験では、直近のカメラ映像、機体の運動状態、上位のナビゲーション指示を入力とし、飛行経路を生成する方策を学習させた。数十時間分のシミュレーションデータを用い、仮想の屋内環境で安定した飛行と障害物回避を確認したという。
ドローンについて公表されたのはシミュレーション内の結果であり、実機による飛行試験は示されていない。Odysseyは、方策を学習する前の凍結バックボーンについても定性的な出力を調べ、空間構造や移動方向を捉えたとみられる予測が得られたとしている。
ゲームでは、ゲーム画面とキーボード、マウスの入力を組み合わせた記録から操作方策を学習させた。Odysseyは「Grand Theft Auto V」で、運転、射撃、近接戦闘を含む長時間のゲームプレイ例を公開している。
ロボットや車と同様に、ゲームでも共通バックボーンは固定され、操作を出力する部分が直近の画面を基に次の入力を生成する。現実の機体と仮想世界では出力先が異なるものの、観測を解読し、意図した行動へ変換し、その結果を次の入力として使うという共通構造がある。
■AIが失敗を探すPROWL
Odysseyは、ワールドモデルが生成した環境でAIエージェントを行動させ、モデルの弱点を発見する研究も進めている。そのための研究フレームワークが「PROWL」である。
PROWLでは、エージェントがワールドモデルの予測誤差が大きくなる行動を探索し、見つかった失敗例をワールドモデルの追加学習に利用する。モデルが改善すれば、エージェントは別の弱点を探すことになり、失敗例の探索とモデル改善を繰り返す構造となる。
公開されているPROWLの研究は、ゲーム環境のMineRLと既存の動画生成モデルを基盤とした実験であり、Odyssey-3そのものを使った性能評価ではない。Odyssey-3の発表では、こうした失敗探索型の学習を、将来のAIエージェント向け環境生成へ応用する構想が示されている。
■物理AIで広がる共通基盤モデル
複数の機体へ適応できる基盤モデルを開発する動きはOdysseyに限らない。Skild AIは、異なる種類のロボットを共通モデルで操作する「omni-bodied intelligence」を掲げている。NVIDIAのCosmos 3も、視覚的な推論、世界の生成、行動予測をMixture-of-Transformersによって統合した物理AI向けのオープンモデルとして発表された。
これらは対象領域や適応方法が異なるが、大規模な事前学習を共通基盤とし、個別の機体やタスクへ追加学習で適応するという方向性を共有する。Odyssey-3の特徴は、同じ凍結バックボーンをロボットアーム、ヒューマノイド、自動車、ドローン、ゲームの操作方策に使ったと明示している点だ。
Odysseyは2026年6月、Natural Capitalが主導し、Amazon、GV、AMD Ventures、EQT、IQTなどが参加するシリーズBで3億1000万ドルを調達した。評価額は14億5000万ドルだった。AWSはOdysseyの優先クラウドプロバイダーとなり、両社はAWS Trainium上でのワールドモデル最適化に取り組む。
■独立評価に必要な情報はまだ限定的
Odyssey-3の発表では、バックボーンのパラメータ数、事前学習データの構成、推論に必要なハードウェア、制御周期、レイテンシー、デコーダーの具体的な学習方法などは開示されていない。
運転実験についても絶対的な介入間走行距離や試行回数は不明で、ロボットとヒューマノイドの実験ではタスク別の成功率が示されていない。ドローンの結果はシミュレーションに限られている。
今回の発表は、視覚世界から学習した共通表現を、異なる身体や操作対象に接続するという設計を具体的なデモで示したものだ。単一の凍結バックボーンが、専用モデルと比べてどの程度データ収集や開発コストを減らせるのかは、実装詳細の公開と、同じ条件で行う第三者評価によって明らかになる。
元記事: One Backbone, Five Bodies: Odyssey-3 Drives Cars, Runs Humanoids, Plays Games