科学と魔術を操るドクター・ドゥーム 『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』予告から迫る人物像

2026年9月9日 15:29

『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』の社内試写が高い評価を得たとの情報が、業界スクーパーから伝えられた。上映時間も約2時間45分と報じられているが、いずれもマーベル・スタジオが正式に発表した情報ではなく、公開版の内容や長さは今後変わる可能性がある。

一方、公式映像では、ドクター・ドゥームがヒーローたちに「お前たちは奪われた人生を生きてきた」と告げる姿が描かれている。その言葉が何を意味するのかはまだ明かされていないが、時間移動や別宇宙との接触を重ねてきたMCUの物語を踏まえると、ドゥームがマルチバースの混乱そのものを問題視している可能性を示す場面として読める。

■「エンドゲーム超え」とされる試写情報

業界スクーパーの@MyTimeToShineHは9月7日、『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』の社内試写で、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を上回る評価が得られたと伝えた。撮影されたばかりの未完成のポストクレジットシーンも上映され、一部では非常に好意的な反応があったという。

現在の編集版は約2時間45分とも報じられている。しかし、試写の参加者、評価方法、具体的なスコアは公表されておらず、マーベル・スタジオも試写結果を確認していない。したがって、「エンドゲーム超え」は現段階では内部評価に関する未確認情報であり、完成作に対する批評家や一般観客の評価を予測するものではない。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』は全世界で約28億ドルを稼ぎ、現在も世界歴代興行収入第2位に位置する。評価や興行面で巨大な基準となった作品だけに、それを上回ったとする情報が注目を集めるのは自然だが、ドゥームという敵役の魅力を試写結果だけから説明することはできない。

公式映像から確かに読み取れるのは、ドゥームが力だけでヒーローを圧倒する敵ではなく、彼らがこれまで選んできた行動そのものを告発する人物として描かれていることだ。

■「奪われた人生」が示すマルチバースへの告発

『エンドゲーム』では、アベンジャーズが過去の複数の時点へ移動し、インフィニティ・ストーンを集めた。ブルース・バナーは、過去へ移動しても自分たちの現在は書き換わらず、過去への介入によって別の時間軸が生じ得るという考え方を説明している。

この仕組みは、量子力学の多世界解釈を連想させる。多世界解釈は、観測によって可能性が一つだけに収束するのではなく、異なる結果に対応する世界がそれぞれ存在すると考える量子力学の解釈である。ただし、『エンドゲーム』の時間移動は物語上の独自ルールであり、多世界解釈をそのまま映像化したものではない。

公式映像に登場する「奪われた人生」という言葉について、マーベルは具体的な意味を説明していない。時間移動によって得られた人生、死や消滅から取り戻された人生、別の宇宙の犠牲によって存続する世界など、複数の解釈が可能である。

そのため、ドゥームが特定の物理理論に基づいてアベンジャーズを「設計不良」と判定しているとまでは言えない。それでも、ヒーローたちが人命を救うために時間や現実へ介入してきた事実を、別の立場から問い直すという構図は、今回の敵役を読み解く有力な補助線になる。

マーベルが公表したあらすじでは、「3つの異なるユニバース」のヒーローたちが危険な衝突へ向かい、かつてない存亡の危機に直面する。ドゥームの告発は、個々のヒーローだけでなく、複数の宇宙が同時に存続することの代償へ向けられているのかもしれない。

■科学と魔術を組み合わせるドゥーム

コミックのドクター・ドゥームは、科学者、発明家、魔術の使い手、そして架空国家ラトベリアの君主という複数の顔を持つ。マーベルの公式プロフィールによると、そのチタン製装甲には防護機能のほか、個人用フォースフィールド、衝撃波を放つ装置、飛行用の小型推進機構などが組み込まれている。

『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』の映像では、ドゥームがソーの斧ストームブレイカーを指先で受け止める場面も公開されている。しかし、その場面で装甲、魔術、身体能力のどれが働いているのかは説明されていない。

現実の材料科学には、内部の微細構造を設計することで、電磁波や音、振動などに通常とは異なる応答を示すメタマテリアルの研究がある。特定の波を迂回させる構造や、振動の伝わり方を制御するフォノニック結晶は、攻撃を受け流すドゥームの装甲に科学的なイメージを重ねる手掛かりになる。

ただし、運動エネルギーと電磁波、さらに作品内の魔術まで同じ装置で吸収する多層装甲が確立されているわけではない。ドゥームの装甲の面白さは、特定の現実の素材と正確に対応することではなく、異なる種類の脅威に複数の手段で対処するシステムとして描かれている点にある。

科学と魔術を併用する設定も同様だ。魔術を高次元物理学や未知のエネルギー源として説明できるとの裏付けはない。むしろ、技術だけ、あるいは魔術だけに依存せず、異なる知識体系を組み合わせることが、ドゥームの強さと予測しにくさを生んでいると捉える方が作品設定に即している。

システム工学には、一部が故障しても全体が直ちに停止せず、機能を徐々に低下させながら動き続ける「グレースフル・デグラデーション」という考え方がある。装甲、フォースフィールド、武器、ロボット、魔術を重ねるドゥームの戦い方には、単一の能力を無力化されても別の手段で補えるという共通構造を見いだせる。

■インカージョンから連想されるブレーン宇宙論

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、二つの宇宙の境界が不安定になり、互いの世界が破壊される危険を伴う現象として「インカージョン」が説明された。『ドゥームズデイ』の公式あらすじにある「3つの異なるユニバース」の衝突は、この概念が物語の中心に置かれることを示唆している。

現実の宇宙論には、別々の宇宙を表す膜状の構造を考えるブレーン宇宙論がある。2001年にジャスティン・クーリー、バート・オヴルート、ポール・スタインハート、ニール・チューロックが発表したエキピロティック宇宙モデルでは、高次元空間にあるブレーンの衝突が、高温で高密度な初期宇宙を生み出す筋書きが提案された。

これはインフレーション宇宙論に代わる理論モデルの一つであり、MCUのインカージョンを説明するために作られた理論ではない。それでも、通常は隔てられている世界が接近し、衝突によって宇宙規模の変化が生じるという発想には共通点がある。

一方、MCUでは個人による次元間移動や現実への干渉が、宇宙同士の衝突に関係する場合がある。これはエキピロティック宇宙モデルから導かれる仕組みではなく、作品独自の因果関係である。

また、インカージョンを量子デコヒーレンスの巨視的な応用とみなす根拠も確認されていない。量子デコヒーレンスは、量子系が環境との相互作用によって、量子的な重ね合わせに特有の干渉を観測しにくくなる過程を指す。二つの宇宙の障壁が溶ける現象とは異なるが、環境との接触によって系の状態が変わるという情報処理上のイメージは、マルチバースの不安定化を考える補助線にはなる。

■ドゥームボットが投げかけるAIと自己認識の問い

ドゥームボットは、コミックに登場するドクター・ドゥームのロボット型複製体である。外見と行動を模倣する単なる替え玉にとどまらず、自分自身を本物のドゥームだと信じるようにプログラムされた個体も描かれてきた。

この設定は、知能や心が物質そのものではなく、入力、内部処理、出力の関係によって成立すると考える機能主義を連想させる。機能主義の立場からは、十分に同じ機能的構成を持つシステムが、同じ心的状態を持ち得るのかという問いが生まれる。

これに対し、意識には生物固有の過程が重要だと考える生物学的自然主義など、計算や機能の再現だけでは意識の成立に十分ではないとする立場もある。現在も、意識が成立するための最小条件について学術的な合意はなく、既存のAIが主観的経験を持つかどうかを確定する方法も確立されていない。

したがって、自分をドゥームだと主張するドゥームボットが、その言葉どおりの主観的経験を持つとは限らない。一方で、本人と同じ記憶や判断様式を持ち、自らを本人だと認識する複製体が登場すれば、その存在を道具として扱うべきか、独立した主体として扱うべきかという問題が生じる。

ドゥームボットの設定は、AI意識論争への回答というより、外見、記憶、行動が一致する存在を本人と呼べるのかを考える思考実験として読み解ける。MCU版にドゥームボットが登場するかは正式発表されていないが、採用されれば、ドゥームの支配欲だけでなく、自己像を複製して世界へ拡張しようとする性格を描く装置にもなり得る。

■ラトベリアとロマとしての出自

コミックの公式設定で、ヴィクター・フォン・ドゥームは架空の東欧国家ラトベリアに生まれたロマの両親の子である。母シンシアは魔術を使い、父ヴェルナーは治療師だった。両親を失ったヴィクターは科学と魔術を学び、やがてラトベリアの君主となる。

この設定は、中東欧におけるロマの歴史とも重なる。現在のルーマニアに当たる地域では、ロマの人々が長期間にわたって奴隷状態に置かれ、モルダヴィアでは1855年、ワラキアでは1856年に制度が廃止された。ナチスとその協力勢力による迫害では、欧州のロマとシンティ約50万人が殺害されたとの推計もある。

ドゥームが国家を支配し、科学、魔術、軍事力を自らに集中させる姿は、歴史上権力から排除されてきた人々の出身者が、あらゆる権威を一身に獲得しようとする物語として読むことができる。ただし、それをキャラクターの行動に対する唯一の説明とすることはできない。ドゥームには、リード・リチャーズへの対抗心、傷ついた自尊心、支配によって秩序を作ろうとする思想など、複数の動機が重なっている。

ロバート・ダウニー・Jr.が演じるMCU版で、ロマとしての出自がどの程度扱われるかは明らかになっていない。映画がコミックの文化的背景を引き継ぐのか、科学と魔術を操る君主という側面を中心に据えるのかは、完成作を評価するうえで重要な点になる。

■マルチバースの混乱に向き合う敵役

コミックのドゥームは、混乱を放置するよりも、自分が絶対的な支配者となって秩序を強制する人物として繰り返し描かれてきた。ジョナサン・ヒックマンによる『Avengers』『New Avengers』から『Secret Wars』へ続く物語では、崩壊した複数の世界の断片からバトルワールドを作り、その支配者となる。

この構図は、分岐した時間軸や宇宙同士の衝突を描いてきた現在のMCUと相性がよい。ドゥームは単にマルチバースを破壊する存在ではなく、その混乱を自分の定める秩序へ組み替えようとする敵役になり得る。

公式映像の「奪われた人生」という言葉も、ヒーローたちの選択が別の誰かや別の宇宙に代償を負わせたという主張なら、ドゥームの思想と結び付く。もっとも、彼の告発が正しいのか、マルチバースの危機とアベンジャーズの行動にどのような因果関係があるのかは、現段階では明らかになっていない。

『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』は、日本でも2026年12月18日に公開される。同日には『デューン 砂の惑星PART3』も日米同時公開される予定だ。

これに先立ち、日本では新映像を追加した『アベンジャーズ/エンドゲーム:アンコール』が、米国より2日早い9月23日から10月8日まで期間限定で公開される。追加映像の具体的な長さや内容は日本の公式発表では明示されていないが、『ドゥームズデイ』の物語への布石になると案内されている。

未確認の試写情報が最終的な評価をどこまで先取りしているかは判断できない。それでも、科学と魔術、国家と個人、本人と複製体、複数の宇宙と一つの秩序という対立を一人で体現できることが、ドクター・ドゥームをマルチバース・サーガの終盤に適した敵役にしている。

元記事: Avengers Doomsday Test Score Tops Endgame: Doom Diagnoses What Avengers Got Wrong

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