固着ボルトで持ち越したISSアンテナ交換、6時間30分の船外活動で完了
2026年8月26日 23:45
NASAのアニル・メノン宇宙飛行士と欧州宇宙機関(ESA)のソフィー・アデノ宇宙飛行士は2026年8月25日、国際宇宙ステーション(ISS)で予備の対地通信アンテナを設置した。船外活動は午前8時27分(米東部夏時間、日本時間同日午後9時27分)に始まり、6時間30分後の午後2時57分(日本時間26日午前3時57分)に終了した。
2人は予備のSpace-to-Ground Antenna(SGANT)をISSのZ1トラスに取り付け、電力系統とデータ系統に接続した。NASAによると、設置後の初期確認では電力供給とデータ伝送が良好だった。地上の管制チームは完全な機能を確認するため、引き続き試験を行う。
■2回の船外活動でアンテナ交換を完了
SGANTは、ISSと地上との高速データ通信を担う可動式アンテナである。故障したアンテナはNASAの追跡・データ中継衛星(TDRS)を追尾できなくなり、2025年11月から使用不能となっていた。もう1基のSGANTが稼働していたため高速通信は維持されたが、アンテナ系統の冗長性は失われていた。
メノンとアデノは8月18日の船外活動「米国船外活動97」で、故障したアンテナの取り外しに着手した。作業は6時間23分に及び、故障ユニットをブームから取り外してISSのトラスに固定するところまで完了した。
しかし、電気コネクタの切り離しや固定ボルトを緩める作業に予定以上の時間がかかり、予備アンテナの設置まで進めなかった。作業時間が限界に近づいたため、管制チームは故障ユニットを安全な状態で長期固定し、交換作業の残りを次回へ持ち越した。
8月25日の「米国船外活動98」では、メノンがカナダアーム2の先端に乗り、外部保管場所から予備アンテナを運んだ。アデノとともにZ1トラスへ取り付け、電力とデータの接続を完了した。
2人はその後、前回の船外活動で一時的にトラスへ固定していた故障アンテナを回収し、トラス上にある船外保管プラットフォームへ移した。
■軌道上で難航するボルトとコネクタの作業
ISSの船外機器は、真空環境や大きな温度変化にさらされる。こうした環境に長期間置かれたボルトや電気コネクタの取り外しには、地上とは異なる難しさがある。さらに、宇宙飛行士は気密性の高い宇宙服と厚い手袋を着用し、安全確保や生命維持装置の残量を考慮しながら作業しなければならない。
今回の作業遅延についてNASAは、故障アンテナにつながる電気ケーブルの切り離しとボルトを緩める作業に、想定以上の時間がかかったと説明している。具体的な固着原因は公表されていないため、温度変化など特定の環境要因だけで説明することはできない。
メノンは最初の船外活動後、作業を完了できない場合も含め、さまざまな事態に対応する手順が事前に用意されていたことに感銘を受けたと述べた。船外活動では予定した全作業の完遂よりも、機器と宇宙飛行士を安全な状態に戻すことが優先される。
■SGANTとTDRSが支える高速通信
SGANTは固定されたパラボラアンテナではなく、2軸のジンバル機構で向きを変えられる。ISSが地球低軌道を移動する間、静止軌道上に配置されたTDRSを追尾し、高速通信を維持する役割を担う。
ISSとTDRSでは軌道や地球に対する相対的な動きが異なるため、アンテナは方位角と仰角を継続的に調整する必要がある。追尾している衛星が通信可能な範囲を外れると、次のTDRSへアンテナを向け直して通信先を切り替える。
TDRSは、ISSをはじめとする地球低軌道の宇宙機と地上局との間で信号を中継する。地上アンテナから直接見える範囲だけに通信を限定せず、宇宙機と地上とのほぼ連続した通信を可能にする仕組みである。
ISSのKuバンド通信は、映像や大量の実験データを含む高速データ伝送に使われる。SGANTが1基故障していた期間も、稼働中のもう1基によって高速通信は継続していた。今回の設置により、片方に問題が生じてももう一方を利用できる構成への復旧が進んだ。
■アデノはフランス人女性初の船外活動
8月18日の船外活動は、アデノにとって初めての船外活動だった。アデノはフランス人女性として初めて宇宙船外で活動し、欧州出身の女性としては2人目の船外活動経験者となった。8月25日の作業は2回目の船外活動である。
アデノは1982年にフランスで生まれ、ISAE-SUPAEROで航空機と宇宙機の飛行力学を学んだ後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で人間工学の修士号を取得した。エアバス・ヘリコプターズでコックピット設計に携わり、その後フランス空軍に入隊した。2018年にはフランス初の女性ヘリコプター実験飛行操縦士となった。
ESAは2022年、アデノを宇宙飛行士候補に選抜した。2026年2月13日にSpaceXのCrew-12で打ち上げられ、翌14日にISSへ到着した。ISSでの初飛行は「イプシロン」と名付けられ、約9カ月にわたる計画となっている。
■メノンは3回目の船外活動
メノンにとって、8月25日の作業は通算3回目の船外活動となった。船外活動では赤いストライプの入った宇宙服を着用してクルーメンバー1を務め、無印の宇宙服を着用したアデノがクルーメンバー2を担当した。
メノンは2021年にNASAの宇宙飛行士候補へ選ばれた。ハーバード大学で神経生物学を学び、スタンフォード大学で機械工学の修士号と医学の学位を取得している。NASAではISS長期滞在ミッションのフライトサージャンを務め、SpaceXでは同社初のフライトサージャンとしてDemo-2を含む有人宇宙飛行を支援した。
救急医として2010年のハイチ地震と2015年のネパール地震などで救援活動にも参加した。米宇宙軍の大佐でもあり、2026年7月14日にソユーズMS-29でISSへ向かった。
■ISSの冗長性を回復
ISSでは、重要な機能を単一の装置だけに依存しないよう、電力、冷却、通信などの主要システムが冗長化されている。1つの機器に不具合が起きても、別系統で機能を維持しながら修理や交換を進めるためである。
2基あるSGANTのうち1基が使用不能となった後も、残る1基によって高速データ通信は維持された。一方で、それ以上の障害に備える予備系統は失われていた。
今回設置されたアンテナについて、初期確認では電力とデータ伝送に問題は見つかっていない。NASAは地上で追加試験を続け、完全に機能していることを確認する。
米国船外活動98は、ISSの組み立て、保守、改良を目的とした通算283回目の船外活動となった。6時間30分の作業を終え、メノンとアデノはISS内部へ戻った。
■注目ポイントQ&A
●なぜISSのアンテナ交換に2回の船外活動が必要になったのですか?
8月18日の船外活動では、電気コネクタの切り離しと固定ボルトを緩める作業に予定以上の時間がかかりました。故障アンテナの取り外しと安全な固定を終えた段階で作業を終了し、予備アンテナの設置を8月25日に持ち越しました。
●ISSは地上とどのように高速通信しているのですか?
ISSのSGANTが追跡・データ中継衛星を追尾し、衛星を介して地上とのデータ通信を行います。ISSの移動に合わせてアンテナの向きを2軸のジンバルで調整し、必要に応じて追尾する衛星を切り替えます。
●ソフィー・アデノ宇宙飛行士の船外活動にはどのような意義がありますか?
アデノ宇宙飛行士は、8月18日にフランス人女性として初めて船外活動を行いました。欧州出身の女性としては2人目で、8月25日の作業が自身2回目の船外活動となりました。
●交換したアンテナは正常に作動していますか?
NASAによると、設置直後の確認では電力供給とデータ伝送は良好でした。地上の管制チームが追加試験を行い、完全な機能を確認します。
元記事: Adenot Finishes What Stuck Bolts Stopped: ISS Gets Its Backup Antenna Today