ISSで衛星捕獲と部品交換を実証へ Orbital Robotics、2027年にAIアーム投入計画
2026年11月7日 21:41
米スタートアップのOrbital Roboticsは2027年第3四半期、国際宇宙ステーション(ISS)へAI制御のロボットアーム2本を送る計画だ。NASAの船内自由飛行ロボット「Astrobee」に取り付け、別のAstrobeeの捕獲と部品交換を実証する。持続的な微小重力環境で、衛星整備に必要な操作技術を確かめる取り組みとなる。
■捕獲後に計算モジュールを交換
GeekWireが2026年10月5日に報じた計画によると、実証は約1カ月間隔で3回行う予定だ。宇宙飛行士がアームをAstrobeeに装着し、この機体がISS内の別のAstrobeeを捕獲する。捕獲後には、対象機にあらかじめ取り付ける簡単な計算モジュールを交換するという。
使うアームは、同社が研究室で製作した大型アーム「ORA-A」の小型版だ。実証は同社の自己資金で進め、NASAのAstrobeeの維持・保守を担うArkisysが、機器の統合や実証基盤の提供で協力する。
GeekWireが伝えたArkisysのDavid Barnhart最高経営責任者(CEO)の説明では、自由飛行は対象まで到達する能力を、アームによる操作は到達後に作業する能力を示す。両者を組み合わせ、宇宙での整備や組み立てを研究するモデルとして活用する考えだ。
Orbital Roboticsは2024年にBlue Origin出身者らが設立した。GeekWireによると、2026年1月時点の資金調達額は約31万ドル(約4900万円)だった。今回の実証後もアームをISSに残し、貨物移動の補助や簡単な作業の自動化、追加の研究に利用する計画だ。
■Astrobeeが衛星整備の研究基盤になる理由
Astrobeeは一辺約31.8センチ、質量約10キログラムの立方体ロボットだ。船内の空気を取り込み、逆方向に回転する2基の羽根車で加圧して、計12個のノズルから噴き出す。ノズルの開口面積を調節することで、移動と回転を制御する。
NASAの設計資料によると、この配置は任意の方向へ力を加え、任意の軸回りに回転させる力を生み出せる。3方向の移動と3軸回りの回転を扱う6自由度の制御ができるため、ほかの宇宙機の推進器配置を模擬する研究にも使える。推進剤として船内の空気を利用し、電力はドッキングステーションで充電する。
空気をためる内部室の加圧は約0.1psiと低い。NASAの設計資料では、前身のSPHERESが使う低温ガス推進器の作動圧力は約25psiとされる。Astrobeeは大きなノズルと低い噴出速度で電力効率を重視し、ソフトウェアには秒速0.5メートルを超えた際に推進を停止する仕組みを備える。機体の緩衝材と合わせ、乗員の近くで運用する設計だ。
位置や姿勢の推定には、カメラ画像と慣性計測データを組み合わせる「AstroLoc」を使う。開発チームの論文によると、処理には単一のプロセッサコアを利用し、その計算速度は比較対象のIntel Core i9-9980HKよりおよそ10倍遅い。限られた計算資源での自己位置推定は、継続的な開発課題となっている。
標準のAstrobeeにも、手すりにつかまるためのアームがある。駆動部はアームを動かす2軸とグリッパーの開閉の計3自由度で、把持後は推進を止めて電力を節約できる。把持の成否は機体を後退させる動作で確認するため、開発チームはつかまり直しがしばしば必要になると報告している。今回の実証では、Orbital Robotics製のアームを別途搭載する。
■アームと機体の動きを一緒に制御する
自由飛行する宇宙ロボットでは、アームを動かすと機体も動き、機体の運動がアーム先端の位置や姿勢にも影響する。この「動力学的干渉」を考慮し、機体とアームを協調して制御することが、対象物を捕獲する際の重要な課題となる。
Orbital RoboticsのAaron Borger CEOは、2025年のTechCrunch Disruptで、この相互作用を扱う深層強化学習エンジンを同社の主要技術として説明した。位置、姿勢、速度などの情報を使い、対象の捕獲や操作を目指すという。
Borger氏は、姿勢制御や並進制御など、それぞれの仕事を担う小規模なニューラルネットワークを使う方針も示した。一般的な画像認識の処理系をそのまま使うより、各要素を個別に検証しやすくする狙いだ。同氏には、学部生チームを率いて、ボールを投げて捕るためのロボットアーム2本をNASAの弾道飛行ロケットで打ち上げた経験がある。
宇宙ロボットによる捕獲は、対象の運動を観測し、接近経路を計画し、つかんだ後に安定させるまでの連続した作業だ。2021年に学術誌Frontiers in Robotics and AIに掲載された総説は、姿勢が乱れながら回転する衛星のロボット捕獲を、当時まだ試みられていない課題として挙げていた。Astrobeeは、こうした技術を微小重力下で研究する場となる。
■地上試験を補う船内の微小重力
NASAのGranite Labでは、空気軸受を使ってロボットを定盤上に浮かせ、平面内の2方向の移動と回転の計3自由度を試験できる。かつてはガントリーとジンバルで6自由度の動きを再現する設備も使われたが、細かな動作の制御や保守が難しく、2021年に運用を終えた。
Astrobeeの開発チームは、航空機による放物線飛行についても、微小重力の継続時間や残留加速度を考慮し、費用に見合う効果を得にくいと判断した。2021年の同総説では、放物線飛行で得られる試験時間は1回当たり30秒未満と説明されている。ISS船内では、より長く3次元の浮遊運動を扱える。
NASAの開発資料によると、船内の温度は18~27度、標準気圧は約101.3キロパスカルに保たれる。Astrobeeの運用前には、宇宙飛行士が照明や機器の配置を整える。空気と照明を管理できる環境で、捕獲や操作を繰り返し試せることが船内実証の利点だ。
船外で使うシステムの開発では、真空下の熱環境や強い明暗差への対応も必要になる。2021年の同総説は、厳しい照明条件に対応する手段として、レーザーなどを使って対象を計測する能動的な視覚システムを挙げている。捕獲時の運動制御と、船外環境への対応をそれぞれ積み上げていくことになる。
■先行するREACCHは172回の捕獲試験
Astrobeeに捕獲用アームを搭載する実験には先例がある。Kall Morris Inc.(KMI)の「REACCH」は2024年11月にISSへ打ち上げられ、2025年までに6回の実験セッションで計172回の捕獲サイクルを実施したと同社は公表している。
ISS向けの小型版は、ヤモリの足に着想を得た接着パッドを備える触手状アーム4本を使った。宇宙専門メディアPayloadによると、各アームの長さは約1.5フィート、約46センチだ。ISS米国国立研究所の報告では、対象には表面材を交換できる立方体を用い、静止、回転、接近する状態や、異なる接近角度・速度を試した。
初期の対象には、太陽電池パネルやロケット本体の表面を模すアクリル製やアルミニウム製の面板が使われた。REACCHが対象をつかんで保持する仕組みを検証したのに対し、Orbital RoboticsはAI制御アームで捕獲後の部品交換まで進める計画だ。GeekWireによると、Borger氏もREACCHの実験を今回の実証に似た先例として挙げている。
KMIの説明によると、REACCHの開発はDARPA、NASAのジェット推進研究所(JPL)、南カリフォルニア大学(USC)が関わる研究に由来する。Arkisysを創業したBarnhart氏はUSCの宇宙工学研究センターを率い、同センターもAstrobeeを使ってドッキング試作機「CLINGERS」を試験している。KMIは今後、宇宙機「Laelaps」にREACCHを搭載して実際のデブリを捕獲する構想を進め、2027年からの運用を目指している。
■Swiftの軌道引き上げ計画が残した経験
実際の衛星整備では、対象へ到達する宇宙機本体の機能も重要になる。NASAは2025年9月、Katalyst Space Technologiesに3000万ドル(約47億4000万円)の契約を付与し、天文衛星Swiftを捕獲して軌道を引き上げる計画を進めた。冷蔵庫ほどの大きさで3本のアームを備える「LINK」は、2026年7月3日に打ち上げられた。
AP通信によると、LINKでは電子系の問題で3基のリアクションホイールのうち2基が機能を失い、バルブの不具合による高速回転も発生した。制御の回復に推進剤を使った結果、捕獲と軌道引き上げに必要な量を確保できなくなった。NASAとKatalystは8月19日、継続する姿勢制御の問題を理由に捕獲・軌道引き上げを断念すると発表した。
その後は技術実証を続け、NASAによると、LINKはSwiftから約12~15キロメートルまで接近し、3本のアームの展開や電気推進器の作動を試した。LINKは9月25日に大気圏へ再突入した。NASAの天体物理学部門を率いるShawn Domagal-Goldman氏は、計画を当初からリスクも得られる成果も大きい取り組みだったと説明している。
Swiftは2004年の打ち上げから約22年後の2026年11月4日午前7時39分(米東部標準時、日本時間同日午後9時39分)、インドネシアの北スマトラ地域上空で大気圏へ再突入したとNASAが発表した。Swiftの計画では宇宙機本体の姿勢制御が課題となり、2027年のAstrobee実証では船内での捕獲と部品交換に取り組む。衛星整備には、移動、姿勢制御、捕獲、操作という各段階の技術が必要になる。
■ハッブルの整備検討と標準化も進む
NASAは2026年10月29日、ハッブル宇宙望遠鏡の軌道引き上げ、能力向上のための整備、運用終了時の制御再突入や軌道上での処分について、企業の能力や関心を調べる情報提供依頼を出した。回答期限は11月30日午後3時(米東部標準時、日本時間12月1日午前5時)だ。
ハッブルには自力で軌道を維持する推進システムがない。NASAが2026年10月に示した分析では、大気圏再突入は2033~2034年ごろと予測され、対応するミッションは2032年までに実施する必要があると見込んでいる。GeekWireは2026年1月、Orbital Roboticsもハッブルの軌道引き上げ構想を提案していると報じていた。
業界団体CONFERSでは、宇宙での整備・組み立て・製造を指すISAMについて、信頼できるAIや機械学習の利用に関する技術標準の勧告づくりを進めている。同団体によると、ランデブー・近接運用の安全性勧告は2026年7月、ISOでの規格開発に向けた提出が承認された。担当部会の共同議長はBarnhart氏とArkisysのRahul Rughani氏だ。
NASAの技術資料「ISAM State of Play」2026年版は、ロボット操作や燃料補給、構造物の組み立てなど11分野を368ページにまとめている。掲載対象は、地上試作機や飛行実証機として実物が存在する技術だ。Astrobeeで捕獲から部品交換までを試す計画も、宇宙で繰り返し使える整備技術を具体化する一歩となる。
元記事: Satellite Servicing: 2027 ISS Arm Demo Tests Capture, Not Control Failure That Doomed Swift Rescue