米宇宙軍、軌道上兵器の存在を再確認―ロシア衛星の商用衛星接近も監視
2026年11月7日 20:27
米宇宙軍のダグラス・シース宇宙作戦部長は2026年11月4日、米国が軌道上兵器を保有していると改めて述べ、その存在の公表には敵対国への抑止を狙う意図があったと説明した。ロシアの軍事衛星Cosmos 2612が10月に商用レーダー衛星ICEYE-X36へ接近した際、米軍がその動きを監視していたことも明らかにした。
■軌道上兵器の公表で抑止を狙う
シース大将は、9月に米宇宙軍トップに就任した。11月4日には、ミッチェル航空宇宙研究所のオンライン講演シリーズ「Schriever Spacepower Series」に登壇し、軌道上兵器や宇宙状況把握について語った。
米国の軌道上兵器について最初に公表したのは、トロイ・メインク空軍長官だ。米空軍省の発表によると、長官は9月14日の「Air, Space & Cyber Conference」で、敵対勢力の行動から統合部隊を防衛できる「軌道上の宇宙統制兵器」があると述べた。兵器の種類や仕組み、配備数は公表されていない。
DefenseScoopによると、シース大将は11月4日、この公表は意図的な判断であり、国防当局の上層部まで承認を得たものだと説明した。抑止には能力と使用する意思に加え、相手がその能力の存在を認識することが必要だという考えを示した。
同大将は兵器の具体的な種類や、米軍全体における各種兵器の構成については説明を控えた。一方、Cosmos 2612の接近については、バンデンバーグの担当司令官が対応し、米宇宙コマンド司令官に状況を伝えていたと述べた。情報機関とともに今回の行動から教訓を得る方針も示している。
■9月末の軌道変更から10月の近距離接近へ
戦略国際問題研究所(CSIS)のクレイトン・スウォープ氏とシャンタル・リー氏が10月15日に公表した分析によると、ロシアは4月、Cosmos 2609から2614までの6機を低軌道に投入した。5月には、このうち5機が軌道傾斜角を変え、ICEYE-X36の軌道面に近づいた。Cosmos 2609は5月26日に約2.5kmまで接近したという。
その後、Cosmos 2612は9月30日から新たな軌道変更を始めた。衛星追跡サイトKeepTrackの公開軌道データ分析によると、まず軌道を約47km高くし、10月12日にICEYE-X36とほぼ同じ高度へ戻った。Integrity ISRの分析では、この時点の高度はCosmos 2612が約555km、ICEYE-X36が約556kmだった。
さらに高度や周回周期を調整し、衛星同士の間隔を詰めていった。KeepTrackは、9月30日以降の機動に伴うデルタV、すなわち速度変化量の合計を約60m/sと推計している。これは公開された軌道要素の変化から求めた概算値だ。
軌道面を変えるには推進剤を使うため、低軌道衛星にとって大きな変更は負担となる。今回の機動では、高度によって軌道面の向きが変化する速さも異なることを利用し、噴射と自然な軌道変化を組み合わせて接近した。単に距離を縮めるだけでなく、同じ方向に近い速度で飛ぶための調整が重ねられた。
オランダの衛星追跡研究者マルコ・ラングブルーク氏は、自身の分析で、9月30日、10月12日、15日、16日の機動が高度、離心率、周回周期をそろえるものだったと指摘した。こうした接近と相対位置の制御は「ランデブ・近傍運用(RPO)」と呼ばれる。衛星の点検や補給などにも応用される技術だ。
地上レーダーで追跡したLeoLabsの説明を伝えたArs Technicaによると、Cosmos 2612は10月16日に約2~3kmの距離を保ち、その後、ICEYE-X36の前後へ位置を変えた。17~18日の週末には500m以内に接近し、さらに近かった可能性もあるという。LeoLabsは10月18日以降、同衛星がICEYE-X36から離れていく動きを観測したと公表している。
■ウクライナを支えるSAR衛星群
ICEYE-X36は、フィンランド発の衛星企業ICEYE(アイサイ)の米国子会社ICEYE USが保有する、米国登録の商用衛星だ。ICEYEは多数の合成開口レーダー(SAR)衛星を使い、政府機関や民間顧客に地表の観測画像を提供している。
SARは、衛星からマイクロ波を照射し、地表で反射した信号を処理して画像を作る技術である。太陽光を必要とせず、夜間や雲に覆われた地域でも観測できる。煙にも遮られにくく、光学衛星で撮像が難しい状況を補う手段となる。
ICEYEによると、同社は2022年からウクライナへの情報支援を続けている。2026年1月19日にはウクライナ国防省内の顧客との新契約を発表し、高解像度SAR画像へのアクセスを拡大した。日本法人も1月22日、昼夜や悪天候下での状況把握と、迅速な判断を支援する契約として公表した。
黒海周辺での軍事作戦にも、ICEYEの画像が使われてきた。キーウ・インディペンデントによると、ウクライナ国防省情報総局は2023年9月、セバストポリのロシア艦艇を狙った同月13日の攻撃で、ICEYE衛星が重要な役割を果たしたと説明している。商用衛星画像は、陸上の部隊配置から海軍施設までを把握する情報基盤の一部となっている。
■商用衛星の安全と宇宙条約
Cosmos 2612の接近を受け、CSISは、西側の衛星周辺でのロシアの活動を、米欧の利益を狙うグレーゾーン活動という広い文脈で評価すべきだと論じた。スウォープ氏らは、米欧が宇宙での敵対行為への対応を決め、それを相手に明確に伝えるよう提言している。
宇宙活動の基本的な法的枠組みとなる1967年の宇宙条約は、第4条で核兵器など大量破壊兵器を搭載した物体の地球周回軌道への投入などを禁じている。第3条は、国連憲章を含む国際法に従って宇宙活動を行うことを締約国に求める。
また、第9条は、他の締約国の利益に妥当な考慮を払うことを定めている。自国などが計画する活動によって他国の平和的な宇宙活動に有害な干渉を及ぼすおそれがあると考える場合、実施前に適切な国際協議を行う義務も規定する。衛星の接近運用にも、こうした条約上の義務が関わる。
軍備管理をめぐる各国の立場には隔たりがある。2024年4月24日、ロシアは宇宙での大量破壊兵器配備禁止の順守などを求める日米提出の国連安全保障理事会決議案に拒否権を行使し、中国は棄権した。2022年12月7日には、破壊的な直接上昇型対衛星ミサイル実験を行わないと約束するよう各国に求める国連総会決議が採択されたが、中国とロシアは反対票を投じた。
11月4日には、核脅威イニシアチブ(NTI)もワシントンで「Weapons in Orbit: Reducing Risk in a New Era of Space Competition」と題した討論会を開催した。登壇者にはクリスティン・ウォーマス会長兼最高経営責任者と、元空軍長官で自律型兵器を扱う著書のあるフランク・ケンドール3世氏らが名を連ねた。NTIは、宇宙の軍事利用や商業活動の拡大を踏まえ、核リスクと事態のエスカレーションを抑える方策を議題に掲げた。
■機動力と同盟国との連携を強化
米宇宙コマンドは9月第1週、実際の衛星などを使った初の演習「Apollo Maneuvers 2026」を実施したと発表した。低軌道、中軌道、地球同期軌道での協調した機動を通じ、宇宙での機動運用や、対抗措置がある環境での補給・整備を検討した。多国籍枠組み「Operation Olympic Defender」と商用事業者の連携も組み込まれた。
米軍備管理協会によると、並行する演習にはオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、ニュージーランド、英国の代表も参加した。同協会はまた、米宇宙コマンドのスティーブン・ホワイティング司令官が9月16日、宇宙での標的設定能力について、なお改善すべき点が多いとの認識を示したと伝えている。
ロシアによる近接運用には過去の蓄積がある。英王立国際問題研究所の分析によると、ロシアは2013年以降、軌道上で他の衛星に接近・点検する能力を示してきた。米国務省も2020年、Cosmos 2542と2543が低軌道の米政府衛星の近くで機動していたと指摘している。
今回の接近後、ICEYE USはArs Technicaに対し、状況を把握して注意深く監視しており、衛星群はサービスの継続性と強靱性を考慮して設計されていると説明した。商用衛星の安全確保には、個々の衛星の追跡に加え、衛星群全体でサービスを維持する設計や、事業者と政府の情報共有が重要になる。