NY地下鉄A・C線、19億ドルの信号更新が始動 2032年完成へ
2026年10月25日 13:41
ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は2026年10月22日、地下鉄A・C線の信号・線路設備を更新する19億ドル(約2980億円)規模の事業の始動を発表した。メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー(MTA)史上最大の信号・線路更新事業で、1930年代の信号設備を無線式列車制御システム(CBTC)へ置き換える。完成目標は2032年第2四半期だ。
■約90年前の信号設備を更新
対象はブルックリンのフルトン・ストリート線とクイーンズのリバティー・アベニュー線だ。州政府の2026年10月の発表によると、ハイ・ストリート駅からオゾン・パーク=レファーツ・ブルバード駅までの23駅、線路延長42マイル(約68km)に及ぶ。線路延長は各線路の長さを合計した値である。
対象区間の平日の利用者は約35万人で、A・C線全体では約75万人に上る。更新によって対象区間の運行が安定すれば、両路線を利用する乗客にも改善が及ぶと期待される。
州政府によると、更新する信号設備は地下鉄網で現存する最古のもので、フルトン・ストリート線が1936年に開業した時代にさかのぼる。トランジスタが発明される以前の技術を基礎とする設備が、現代の大量輸送を支えてきた。
MTAのジャノ・リーバー会長兼CEOは、「信号の問題は地下鉄の遅延原因の第1位だ」と述べた。州政府は、地下鉄網の老朽設備には商業生産が終了した部品もあり、保守が難しく、費用もかさむと説明している。
■列車の位置と速度を把握し、運転間隔を短縮
従来の固定閉そく方式は、線路を一定の区間に分け、各区間に列車がいるかどうかを検知する。区間単位で列車の位置を把握するため、後続列車との間隔もその区切りに制約される。
CBTCは、列車と地上設備の間で無線通信を行い、列車の位置や速度に応じて運行を制御する仕組みだ。位置をより詳しく把握して安全な列車間隔を確保できるため、既存の線路を使いながら、運転間隔の短縮や増発を支える。
州政府の2026年10月の発表では、信号近代化後に7線の定時運行率が68%から91%へ改善した。クイーンズのE線でも、CBTC稼働後に列車速度が約10%上昇したという。今回も、遅延の削減と、より速く頻繁な運行を目指す。
A・C線への導入が進む新型車両R211も、CBTCに対応する機器を備えている。信号設備と車両の双方を更新することで、運行の信頼性向上や待ち時間の短縮につなげる計画だ。
工事には分岐器の修繕・交換、トンネル照明の更新、将来のトンネル内携帯電話サービスに向けた配線も含まれる。列車制御に加え、利用環境や保守作業を支える設備も整備する。
■混雑料金収入が支える大型投資
州政府は、この19億ドル(約2980億円)規模の投資を可能にする財源として混雑料金収入を挙げている。混雑料金制度は2025年1月5日に始まり、マンハッタンの60丁目以南の対象区域へ進入する車両などに課金し、公共交通の設備投資を支える。
2025年12月の州政府発表では、フルトン・ストリート線部分を2020~2024年資本計画に位置付け、混雑料金収入を充てると説明した。ユークラッド・アベニュー駅からオゾン・パーク=レファーツ・ブルバード駅までのリバティー・アベニュー線部分は、2025~2029年資本計画に含まれる。
2025年12月17日には、信号更新の設計・施工一括契約と、5駅のバリアフリー改修を合わせた17億5000万ドル(約2750億円)規模の事業が発表された。2026年10月の発表では、今回の信号・線路更新事業全体の投資額を19億ドル(約2980億円)としている。
混雑料金制度を巡っては、トランプ政権が2025年2月に連邦承認の撤回に動き、MTAなどが提訴した。ニューヨーク南部地区連邦地裁のルイス・リマン判事は2026年3月3日、米運輸省側による承認撤回を違法として取り消す判断を示した。
■設計・施工の一括発注でコスト削減を図る
今回の契約は、設計と施工を一括して発注するデザインビルド方式を採用した。2025年12月にL.K. Comstock & Railworksへ発注され、州政府によると、契約獲得を巡って3者が競争した。
MTAは、請負業者へのリスク移転を含む契約方式の見直しと、CBTCの導入を中心とする施工方法によって、従来のCBTC事業の平均に比べて1マイル当たりの費用を33%削減できるとしている。今回も、このコスト削減につながる手法を採用する。
MTAの2026年の建設・開発部門戦略計画は、従来型の地上信号設備を限定した設計を、フルトン線事業の費用削減策として挙げている。沿線設備を簡素化し、計画的な運休時間を有効に使うことが施工上の柱となる。
MTA建設・開発部門のジェイミー・トーレス・スプリンガー社長も、新たな施工方法による費用削減を強調した。設備の近代化とともに、専門性の高い信号工事を効率よく進める契約・施工手法が試される。
2025~2029年資本計画には、75マイル超の信号近代化に向けて54億ドル(約8480億円)が盛り込まれている。対象にはブロードウェイ線のN・Q・R・W系統、リバティー・アベニュー線のA系統、ロッカウェー線のA・S系統、ナッソー・ストリート線のJ・Z系統が含まれる。
■第1段階の工事は11月開始予定
鉄道専門誌Railway Ageによると、現場工事は2026年11月に始まる予定だ。第1段階では、クイーンズの104ストリート駅と99ストリート駅の間で老朽化した分岐器と、250フィート超(約76m)の特殊な線路を交換する。
2026年10月発表時点の完成目標は2032年第2四半期で、約6年にわたる事業となる。MTAは、工事に伴う計画運休を活用して作業を進める方針だ。
既存事業の進捗は、工期を考えるうえで参考になる。Gothamistが2025年7月28日に報じた独立技術コンサルタントの評価では、当時進行中だった4区間の信号更新事業はいずれも遅れ、2件は予算も超過していた。Time Out New Yorkも同月30日に、この評価を紹介している。
その時点のコンサルタント予測では、ブルックリン南部のF線事業は当初より3年遅れ、8番街のA・C・E線事業は2年以上遅れて2027年10月の完成が見込まれていた。また、2025年3月に完成したクイーンズの信号更新事業は、当初予定から4年遅れだったという。
今回の事業では、費用削減の手法を実際の施工に生かしながら、2032年の完成へ工程を管理することが重要になる。利用者にとっての成果は、設備更新の先にある遅延の減少や、待ち時間の短縮として表れる。