ウニを収穫してケルプ林を守る タスマニアで成果、長期資金が課題に

2026年10月20日 23:19

豪タスマニア東岸で、海藻を食べるウニの商業漁業がケルプ林の保護と局所的な回復に役立っている。州政府は2026~2027年度も支援を続けるが、研究者や加工業者は、年度単位の資金配分が漁獲や設備投資の先行きを不安定にしていると指摘する。

対策の柱は、食用ウニの販売収入と、保護を優先する海域での捕獲補助を組み合わせる仕組みだ。健全な藻場を守りながら漁業を維持するには、捕獲する場所の選定に加え、加工・流通まで含めた継続的な支援が問われる。

■温暖化する海で広がるウニと磯焼け

対象は、長いとげを持つウニの一種、Centrostephanus rodgersiiだ。現地では学名を略して「セントロ」と呼ばれる。ニューサウスウェールズ州などに自然分布し、東オーストラリア海流による幼生の輸送と海水温上昇を背景に、タスマニアへ分布を広げてきた。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)によると、東オーストラリア海流は以前より南まで達し、タスマン海の昇温速度は世界平均の約2倍となっている。タスマニアでは、暖かく栄養塩に乏しい海水の流入が、冷水域の海藻群落に圧力をかけている。

この沿岸には、海底から水面まで最大40メートルほど伸びるオオウキモ(Macrocystis pyrifera)が森林状の群落を形成してきた。1987~2015年の衛星画像を分析した2020年の研究では、タスマニアのオオウキモが水面を覆う面積は9割超減少した。CSIROも、近年までの数十年間に同州のオオウキモ林が95%減少したとしている。

セントロが高密度になると、大型海藻を食べ尽くし、藻場を「磯焼け」と呼ばれる状態へ変える。大型海藻が失われた後も、ウニは微細な藻類などを食べて生き続け、磯焼けが長期間維持される。州政府によると、東岸の岩礁に占める磯焼けの割合は2002年の3.4%から2017年には15%へ増え、タスマニア固有の120種超の生息場所を奪っている。

ケルプ林は、豪州南部の沿岸約8000キロメートルに広がる温帯岩礁域「グレート・サザン・リーフ」の主要な生態系だ。魚や無脊椎動物の餌と生息場所を提供し、アカアワビ(Haliotis rubra)やミナミイセエビ(Jasus edwardsii)の漁業を支える。栄養塩の吸収や波の緩和といった働きも持つ。

■食用ウニの収入を海の森の保護へ

タスマニアでは2009年にセントロの商業漁業が始まった。食用になるのは生殖腺で、日本で食べられているウニと同じ部位だ。販売収入を得ながらウニを海から取り除くことで、漁業を藻場管理の手段として活用している。

アワビ業界は2016~2017年漁期に、捕獲したウニ1キログラム当たり0.75豪ドル(約83円)の補助をダイバーへ支払い始めた。州政府は業界と連携し、2018~2019年度予算でアワビ業界再投資基金(AIRF)に5年間で510万豪ドル(約5億6600万円)を確保した。2023年には、さらに2年間で200万豪ドル(約2億2200万円)の継続資金を計上した。

基金は捕獲補助のほか、生息地調査、磯焼けの分布把握、アワビ資源に関する研究なども支援する。捕獲補助は海域ごとに設定され、優先海域では1キログラム当たり最大2.50豪ドル(約278円)が支払われてきた。

タスマニア大学海洋・南極研究所(IMAS)は2025年3月、直近6年間のセントロ漁獲量が年平均470トン、約120万個に相当すると発表した。漁獲が集中した地域では、2023年漁期末のウニの生物量が、漁獲がなかった場合のモデル予測の約半分に抑えられたと推定されている。研究者は、ウニが減った場所でケルプの再生も確認している。

セントロを15年以上研究するIMASのジョン・キーン氏は、環境報道メディアMongabayの取材に、一部の海域では漁業の発展によって藻場の衰退が食い止められ、ケルプが戻ったと説明した。捕獲を続けることが、既存の藻場を守り、回復の足場をつくっている。

■藻場を守る場所ほど捕獲の採算が厳しい

補助制度が重視するのは、ケルプが残り、ウニの密度が増えつつある海域だ。ウニが密集する場所に比べ、同じ潜水時間でも捕獲重量が少なくなるため、販売収入だけでは操業費用を賄いにくい。補助には、ダイバーの活動を保全上重要な海域へ向ける役割がある。

タスマニアの研究では、磯焼けからケルプが回復するウニの生物量の目安として、1平方メートル当たり約70グラムという水準が示されている。一方、磯焼けが形成される目安は約700グラムで、回復には形成時より大幅に低い密度まで減らす必要がある。この性質が、藻場が失われる前に対策する重要性を高めている。

IMASのキャサリン・クレスウェル氏らが2025年にNature Sustainabilityで発表した研究は、ウニの個体群と漁業の動きをモデルで分析した。健全なケルプ林やアワビ資源が残る場所では、補助によって捕獲を強め、ウニの密度が高い海域では商業漁業の収益性を生かすという、地域別の管理を示している。

研究発表に際し、共同著者のキーン氏は、補助がなくなれば漁業が州北東部へ集中し、南東部の重要なアワビ漁場で磯焼けが拡大する可能性があると説明した。市場や商品の開発によって収益性を高めることも、低密度の海域で捕獲を続けやすくするという。

Mongabayによると、商業ダイバーのシェーン・ブラックウェル氏は、補助を受けて操業していた南東部では費用負担が重いと判断し、ウニの多い北東部のセントヘレンズへ移った。2025年10月には自ら加工事業を開設した。同地域は磯焼けの割合が州内で最も高く、AIRFの捕獲補助の対象外だ。

■1個当たりの公的支出と、対策資金の差

2026年7月にMarine & Freshwater Researchで発表された比較研究は、グレートバリアリーフのオニヒトデ対策と、タスマニアのセントロ管理を検討した。タスマニア大学やジェームズクック大学などの研究者がまとめたもので、両地域とも、被害が広がってから復元するより早期の予防的管理が効率的だとしている。

研究では2022年のセントロ漁獲量49万4000キログラムを、1個平均0.40キログラムとして約124万個に換算した。これを年間約50万豪ドル(約5550万円)の州の管理資金と比較すると、除去1個当たりの公的支出は約0.40豪ドル(約44円)となる。同年のオニヒトデ対策は、年間2000万豪ドル(約22億2000万円)と駆除数5万9503個から、1個当たり約336豪ドルと算出された。

この計算による1個当たりの公的支出には約840倍の差がある。比較研究が扱った直接管理資金も、グレートバリアリーフのオニヒトデ対策がタスマニアのウニ対策の40倍超だった。研究が参照した経済価値の推計では、両岩礁生態系はそれぞれ年間約90億~110億豪ドル(約9990億~1兆2200億円)の価値を持つとされる。

国レベルの対応も議論されてきた。2023年の上院調査は、セントロ対策に5年間で5500万豪ドル(約61億1000万円)規模の投資を検討するよう求めた。2026年4月1日に議会へ提出された連邦政府の回答は、研究調整を自らの中心的な役割と位置付け、既存の研究や復元事業を挙げた。今回の回答に、新たな捕獲支援や管理対策への対象資金は盛り込まれなかった。

連邦政府は同回答で、温帯の海洋生態系を支える調査やケルプ林の復元などに、これまで1200万豪ドル(約13億3000万円)超を投資したと説明している。このうち350万豪ドル(約3億8900万円)を配分したIMASの事業では、ウニの除去、オオウキモの植え付け、ウニを捕食するイセエビ類の移植を組み合わせている。

■加工能力を支える安定供給

捕獲したウニを商品にするには、加工と流通が必要になる。州政府の説明では、セントロは生きた状態で加工施設へ運ばれ、収穫当日に生殖腺を取り出す。熟練した作業員が選別、洗浄、包装を行い、鮮度を保って市場へ送る。

加工施設は、人件費や設備の運転費を賄うため、継続的な原料供給を必要とする。Mongabayによると、キーン氏は短期の資金配分が加工業者の投資をためらわせていると指摘した。商業漁業が始まった2009年以降、主要加工業者2社が閉鎖したとも説明している。

グレート・サザン・リーフ財団が公表した声明で、South Coast Sea Urchinsのライアン・モリス氏は、加工業者が経営上の圧力を受け、一部では閉鎖も検討されていると述べた。同財団は業界の推計として、既存加工施設1カ所当たり約300万豪ドル(約3億3300万円)、全国で計1800万~2100万豪ドル(約20億~23億3000万円)の重点投資が、加工能力の拡大につながり得ると紹介している。

同財団のステファン・アンドリュース氏も、政府が問題を認識したことを評価しつつ、現場で必要な変化を起こすには、加工、物流、調整への投資が必要だと訴えている。捕獲量を増やす取り組みと、それを受け入れて販売する能力の整備を合わせて進めることが課題となる。

■漁業と炭素循環を支えるケルプ林

ケルプ林の保護は、タスマニアの重要産業とも関わる。Mongabayによると、アワビ漁業の2022~2023年度の州経済への寄与は4600万豪ドル(約51億1000万円)だった。州の商業アワビ漁業の総漁獲可能量は、2010年の2793トンから2025年には763トンへ減少し、2026年は731.5トンとなっている。

IMASの2025年漁業評価によると、同年の実際の水揚げ量は約743.9トンだった。長年の漁獲削減を経て州全体ではおおむね安定し、一部海域で回復の兆しが見られる一方、東部と北部では資源への圧力が続いている。

炭素循環もケルプ林の重要な働きだ。海水中の二酸化炭素を光合成で取り込み、成長した藻体の一部が流出して、深海や堆積物へ運ばれる。深海へ届いた炭素の一部は、数百年以上にわたり貯留され得る。

西オーストラリア大学などの研究者が2020年にScientific Reportsで発表した研究は、グレート・サザン・リーフの主要なケルプを対象に、年間130万~280万トンの炭素が隔離されると推計した。これは、豪州の塩性湿地、マングローブ林、海草藻場について既存研究が集計したブルーカーボンの年間隔離量の3割超に相当する。藻場の保全には、生物多様性や漁業生産を支えることに加え、こうした炭素循環の機能を維持する意味もある。

■年度を越えた支援と地域の参加へ

州政府は2026~2027年度予算で、AIRFに100万豪ドル(約1億1100万円)を追加配分した。一方、同予算の2027~2028年度以降の見通しには基金への配分が計上されておらず、長期的な資金の確実性が引き続き課題となる。州政府はMongabayに、今後の資金は通常の予算手続きで検討すると説明している。

回復に向けた方法は蓄積されている。タスマニア大学は、目視できるウニを徹底的に除去した場所で、18カ月以内にケルプが再生する例を紹介している。IMASはAIRFの資金25万888豪ドル(約2780万円)による個体群調査も進めており、実施期間は2026年4月1日から2027年10月30日までだ。ウニの分布や磯焼けの変化を調べ、捕獲圧の設定に役立てる。

対策には州境を越えた連携も必要になる。IMASの海洋生態学者スコット・ベネット氏はMongabayに、ケルプ林が州と連邦の管轄にまたがることを挙げ、両政府と民間部門の投資を求めた。幼生が海流で州境を越えて運ばれることも、広域的な管理の必要性を高めている。

課題は豪州各地と世界に広がる。国連環境計画(UNEP)の2023年報告書は、それまでの50年間に世界のケルプ林の40~60%が劣化し、主な圧力として気候変動、水質悪化、乱獲を挙げた。豪州ではニューサウスウェールズ州南部やビクトリア州東部でも広範な磯焼けが生じ、ニュージーランドでもウニによる藻場の衰退が問題となっている。

先住民が主導する取り組みへの支援を求める声もある。グレート・サザン・リーフ財団の声明で、Joonga Land and Water Aboriginal Corporationの業務責任者ウォリー・スチュワート氏は、海と沿岸の生活・文化圏である「シー・カントリー」を長く守ってきた地域社会が、資金や意思決定への参加機会を十分に得られていないと指摘した。先住民所有の事業や運営体制、復元活動を軸とする経済モデルへの投資を求めている。

元記事: Sea Urchin Harvest Revives Kelp at Cents Per Animal, but Australia Defunds It Anyway

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