WWF「生きている地球レポート2026」 野生生物の減少と回復を示す、自然に有害な資金は保全投資の30倍超
2026年10月11日 18:23
WWFジャパンは10月8日、「生きている地球レポート2026」の概要を公表した。監視対象の野生脊椎動物について、1970年から2022年までの個体群規模の平均的な変化を示す指数は73%低下した。一方、報告書はトラやアオウミガメなどの回復も紹介し、10月19日に開幕する生物多様性条約の会議に向けて、保全策と社会・経済システムの変革を訴えている。
■「73%低下」が示す範囲
今回で16回目となる報告書は「希望の科学」を副題に掲げる。基礎となる「生きている地球指数」(LPI)は、ロンドン動物学協会(ZSL)が作成する指標だ。哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の5790種、3万5803個体群の観測データを用いている。
LPIは各個体群の規模が時間とともにどう変化したかを集計した指数で、野生動物の総個体数を数えたものではない。ZSLの説明では、追跡対象の約半数は安定または増加している。増加した個体群もある一方、減少した個体群の変化幅が大きいため、全体の指数は低下している。
生態系別の低下幅は淡水域が85%、陸域が69%、海洋が59%だった。地域別では中南米・カリブ海地域が95%、アフリカが80%、アジア太平洋が49%、北米が28%、欧州・中央アジアが23%となった。北米と欧州では1970年以前に大規模な生息地改変が進んでおり、その影響は指数の基準年からの変化には十分表れない。
ZSLでLPIの研究を率いるルイーズ・マクレー氏は、減少への迅速な対応を求めるとともに、人々の協力によって個体群や生息地が回復した事例にも目を向けている。世界平均と地域ごとの動向を併せて読むことが、保全の成果と課題を把握する手掛かりになる。
■トラ、ウミガメ、クロマグロ、ゾウの回復
WWFジャパンによると、世界の野生トラは2010年の約3200頭から2025年には約5700頭へ増え、増加率は70%を超えた。各国の回復計画や保護区の拡大、国境を越えた違法取引対策などに、政府、先住民族、地域社会、支援団体が協力してきた。
アオウミガメは2025年10月、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、種全体の評価が「絶滅危惧」から「低危険種」に変わった。WWFは、約80の産卵国で50年にわたり続いた卵と産卵する雌の保護、海浜の管理、漁具による混獲の削減などを挙げる。IUCNの専門家グループによると、中部・南太平洋や北インド洋の地域個体群には、なお絶滅の懸念がある。
大西洋クロマグロは2010年までに個体群が約80%減り、太平洋クロマグロの資源量は漁獲の影響を受ける前の約2%まで落ち込んだ。WWFジャパンは、その後の漁獲枠の削減や資源の監視を伴う国際的な管理によって、両者が回復したと説明する。2026年の報告書では、いずれも現在は過剰漁獲状態とみなされていない。
アフリカサバンナゾウは種全体では絶滅危惧に分類される一方、アフリカ南部には個体数が増えている地域個体群がある。WWFによると、地域住民が自然資源の管理を担い、保全による利益を得られる制度が取り組みを支えている。保護する土地の面積に加え、そこに暮らす人々が管理に参加できる仕組みも重要だ。
■食料・エネルギー・金融に及ぶ課題
報告書は、野生生物への圧力を強める背景として、食料生産、エネルギー、金融の仕組みを挙げる。監視対象の個体群について最も多く報告された脅威は、生息地の消失と劣化だ。農地や放牧地の拡大はその主な要因で、過剰利用、気候変動、汚染、外来種、疾病も影響している。
例えば、ブラジルやアルゼンチンでは家畜飼料向けの大豆栽培が自然の土地の転換に関わる。パーム油の生産や牛の放牧も、地域によって森林などの生息地に圧力をかける。化石燃料の利用に伴う温室効果ガスの排出は気候変動を進め、野生生物への影響を広げている。
国連環境計画(UNEP)の「State of Finance for Nature 2026」によると、2023年には自然に有害な活動への資金フローが7兆3000億ドル(約1153兆4000億円)、自然を基盤とする解決策への投資が2200億ドル(約34兆7600億円)だった。いずれも1ドル=158円で換算すると、両者の比率は30対1を超える。資金の向かう先を変えることも、保全策を広げるための課題となる。
WWF英国のタニヤ・スティール最高経営責任者は、自然の損失が食料や水の供給、経済、気候変動への対応力にリスクをもたらすと指摘した。個々の種を守る取り組みを続けながら、損失を生む仕組みにも働きかける必要があるというのが、報告書の主張だ。
■変化を加速させる「ポジティブな転換点」
報告書はエクセター大学の研究者と協力し、政策、投資、技術の普及が互いを後押しして変化を加速させる「ポジティブな転換点」を論じた。太陽光発電の普及をその事例に挙げ、食料と金融にも同様の変化を促すことを提案する。
国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年の世界の新車販売に占める電気自動車の割合は20%を超えた。エクセター大学のスティーブ・スミス氏は、太陽光発電が政策や投資に支えられて普及した経緯を踏まえ、社会の選択が自然をめぐる変化も後押しし得ると述べている。
WWFが食料分野で重視するのは、自然への負荷を抑えた生産、持続可能な食生活、食品ロスの削減だ。金融分野では、自然や気候に関わるリスクを投資判断に反映し、自然に有害な活動への資金を減らすことを求める。農業補助金の見直しや、森林破壊に関わる商品を調達から外すことも、政策と企業活動を変える手段になる。
報告書は、こうした変革には政府や企業だけでなく、先住民族や地域社会の参加が欠かせないとする。費用と利益の配分に配慮しながら、保全の成果を地域から広げていくことが課題だ。
■COP17で進捗を確認
生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)は、10月19日から30日までアルメニアのエレバンで開かれる。テーマは「自然のための行動」だ。2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に基づき、各国の取り組みを合わせた進捗について初めて世界規模で評価する。
同枠組みの「30×30」目標は、2030年までに陸域・内陸水域と沿岸・海洋域のそれぞれ少なくとも30%を、効果的に保全・管理することを掲げる。WWFは現状の進捗が必要な水準に届いていないと評価し、環境に有害な補助金の見直しや森林破壊対策など、各国が合意を実行に移すよう求めている。
11月9日から20日には、トルコのアンタルヤで気候変動枠組条約のCOP31も開かれる。自然保全と気候変動への対応が続けて国際会議の議題となる。
■指数の解釈をめぐる研究
LPIの低下幅については、計算方法を検討する研究が続いている。チャールズ大学のアンナ・トソジョヨヴァ氏らが2024年に発表した論文は、観測期間が短い個体群の扱いや、個体数がゼロとなった年の計算方法などが、低下幅の推計に影響すると指摘した。2021年のブシュケ氏らの研究も、個体群の偶然の変動が当時の世界指数の減少幅を約9.6%大きく見せる可能性を示した。
一方、ミシェル・ロロー氏らが2022年に発表した論考は、2020年に公表された別の再分析について、その手法では既知の長期的な傾向まで捉えにくいと論じた。異なる研究はそれぞれ別の手法を検討しており、指数の値を読む際には、対象データと計算方法を確認する必要がある。
WWFは報告書で、LPIに加え、種の絶滅リスクを追うIUCNレッドリスト指数や、生物多様性完全性指数も紹介している。個体群規模、絶滅リスク、生息地に残る生物相をそれぞれ異なる角度から捉えることで、自然の変化をより広く把握できる。
元記事: WWF 2026 Report: Tigers, Turtles, Tuna Bounced Back; Nature Protection Outspent 30 to One